円安を享受せよ~円安は日本製造業の劇的復活を担保する(前)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は11月15日発刊の第344号「円安を享受せよ~円安は日本製造業の劇的復活を担保する~」を紹介する。日本ダメ論の横行
円が急落、ドル円は151.6円という1990年以来のほぼ3年ぶりの円安になっている。通貨の実力を示す円の実質実効レート(2020年=100)の下落はさらに極端で、2023年9月末現在72.4と、1ドル308円のスミソニアン体制時(1971~1973)の83.6に比べても13%安という歴史的安値に落ち込んだ。悪い円安論がメディアとエコノミストの間で語られ始めた。
産経新聞は日本の名目GDPが独、印に抜かれ世界4位に落ちる見込みと述べ、日本の地盤沈下を報じた。日経新聞は円弱時代との自嘲に満ちた記事で、円安を引き起こす日本の弱点をあげつらっている。資本が成長力の弱い日本から逃げていき、円安になるとの議論で円安を解釈している。
しかし、日本の低成長は今に始まった話ではない。2010年以降の円高時代には、巨額の資本が、成長率が高い海外へと流出したのに円高が続いた。日本がだめだから円安になっているという議論は成り立たないのである。
金利差仮説、経常収支仮説では説明がつかない円安進行
金利差に着目した円キャリートレードの増加という説もある。確かに世界最低金利の日本は調達通貨としては大いに魅力的、とくに2年前まで日本以下のマイナス金利であったドイツなど欧州金利の急上昇で日本円の、調達通貨としての魅力は高まっている。しかし、キャリートレードは円高になれば大幅な為替損を生む。
1ドル150円のときに1ドル借金し1ドル100円という円高の下で返済するとすれば、150円返すためには1.5ドルが必要になる。ドル円が151円という1990年以来の33年ぶりの円安になっているときに、さらなる円安に人々は賭けているのであろうか。だとすれば、それは著しいギャンブルといえる。
そもそもここ数週間、日米金利差が縮小しているのに円安が進行している。また、対円どころかほぼ全通貨に対して、円安が進行している。利下げをしている中国人民元やタカ派姿勢を後退させている韓国ウォンに対してさえ円が安くなっているのである。
日銀の矩を超えた円安
この正体不明の円安を何とかせよとのコメントが見られ始めた。国民の実質所得を奪っている物価高の元凶が円高だとすれば、日銀は金融引き締めに転じなければならない。植田日銀はおそらく、円安容認批判の先手を打ったのであろう。
市場の意表をついて、7月末に続いて10月末にもYCCの再調整(長期金利の上限の1%突破容認)というサプライズを演出したが、それはまったくの空砲に帰した。為替市場が金利差縮小に反応しなくなっているのであるから、今の円安は日銀の矩(さしがね)を超えていると言わねばならない。
(つづく)
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