野党共闘に水差す芳野連合会長に立憲などから批判の声
-
自民党が派閥パーティー裏金問題で大揺れのなか、野党にとっては政権奪取、あるいは党勢拡大へのまたとない機会であるが、その支持勢力からの水を差しかねない発言が問題となっている。
共産党に警戒感をもつ連合会長
派閥パーティー券裏金問題で東京地検特捜部の捜査が本格化し、岸田政権・自民党ともに支持率が低下するなか、次期衆議院選挙が来年春頃には行われるとみられる。
与野党ともに臨戦態勢であり、推薦議員を有する職能団体や労働組合なども選挙戦に向けての取り組みが始まっている。
このタイミングで野党関係者に波紋を呼んでいるのが、21日に「連合」(日本労働組合総連合会)の芳野友子会長が記者会見で、立憲民主党に対し、「市民連合」(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)が仲介する共産党との会合に今後参加しないよう求めたことである。
芳野会長の発言は「共産と一緒に立民が何か行動を起こすことに対して懸念を示している」というもの。
連合は、1989年に旧社会党系の総評(日本労働組合総評議会)と、民社党系の同盟(全日本労働総同盟)などが合流して発足した。公務労働と民間の48の産業別労働組合から構成され、全国47都道府県に支部組織がある。
反共の旧同盟系労組
日本の労働運動は、共産党支持と反共産党の二大潮流があるが、共産党系は全労連というナショナルセンターをもつ。連合は、反共主義で労使協調路線を歩んできた。
とくに旧同盟(民社)系は、防衛産業や電力会社などの労働組合を主力とする。「国防は最大の福祉」との理念が謳われ、憲法改正に賛成し、複数の労組役員経験者が保守系団体「日本会議」に参加するなど、現在の労働運動のなかでも右寄り路線である。旧同盟系のUAゼンセンや電力総連は、国民民主党(以下、国民)を支持している。
組合員の研修機関である富士社会教育センターの元理事長で、ゼンセン同盟(現・UAゼンセン)の元会長・宇佐美忠信氏は日本会議の役員も務めていたが、日頃から「足は職場に、胸には祖国を、眼は世界へ」と語っていたという。
芳野会長は高校卒業後、工業用ミシン製造大手のJUKI(株)に就職し、組合活動に参加しているが、その組合は「JAM」(ものづくり産業労働組合)で旧同盟系だ。中央本部も旧同盟系関係団体が入居する友愛会館にある。2019年までは国民民主党を支持していたが、20年から立憲民主党へ支持を移行した。
芳野会長が労働運動を学んだ流れが、反共主義の強い旧同盟系であることを考えても、宇佐美氏ら組合運動の先輩たちから「共産党は労働戦線の分裂につながる存在」と教わってきたのは間違いないだろう。
立憲議員から反発の声
「市民連合」は共産党系ではないが、共産党関係者や旧社会党系など左派の連合体の運動だ。芳野会長からしたら、左派色の強い団体と協力するなどもってのほかということだろうが、小選挙区制のなかで地域に基盤を持つ自民党に対抗していくには、野党がばらばらでは困難である。
芳野会長の発言に、立憲の複数の元職・現職議員からSNS上で反発の声が挙がった。九州を地盤とするものを紹介したい。鹿児島が地盤の川内博史元議員はX(旧・Twitter)に次のように投稿した。
「この発言は中央執行委員会の議を経て発言されているのだろうか?会合にも出るなとは穏当ではない」と芳野会長発言を批判。「裏金問題を踏まえ、現状のでたらめな政治を変えるために、野党がどうあるべきなのか、連合としても改めてしっかり議論をすべきなのではないか?」と問題提起した。
原口一博議員(佐賀1区)は上記の川内氏のツイートをシェアし、「労働組合が政党に対してここまで細かく踏み込んだことを言ったことがあるだろうか?」と疑問を呈した。そのうえで 、「山岸連合会長の時代からもう1つの政権政党を築き、労働者の権利が保障された、明るく温かく、活力溢れる社会をつくりたいと努力してきた」と投稿した。さらに、YouTubeなどで配信している動画においても、「野党分断に乗せられてはいけない」と呼び掛けた。
福岡での選挙協力に暗雲
福岡の立憲所属の議員や労組からは、表立って芳野会長の批判は出されていないが、それには理由がある。
立憲と国民の福岡県連は11月23日、連合福岡の仲介で次の衆議院選挙における県内11選挙区のうちの7選挙区について、候補者をすみ分けるという内容の合意書を締結している。そのため、芳野会長発言への是非の表明は、ようやくまとまった選挙区調整に悪影響をおよぼしかねないのだ。
事実、12月23日に玉木雄一郎国民党代表は、福岡市内において、立憲と共産党との協力関係について、「立憲共産党のような状況になっているのは、我々も連合も心配している」と語った。保守寄りの玉木氏は、芳野会長の発言を持ち上げることで、共産党を含めた選挙協力に釘を刺したといえる。そして、福岡における選挙協力は、あくまで「限定的なもの」との立場を崩していない。
立憲と国民は、福岡県議会において「民主県政県議団」として会派を同じくする。服部誠太郎知事を支える「県政与党」の一員だが、元県議で、現在も立憲県連顧問の吉村敏男氏の影響力を背景にした自民党県議団との距離感の近さに、立憲の県選出国会議員や地方議員から危惧する声も聞こえてくる。
かねてより芳野会長について、自民党への接近を警戒する声が立憲の議員や労組関係者にある。小渕優子組織運動本部長や麻生太郎副総裁と会食を行うなどして、連合内からも疑念の声が挙がった。10月5日には、連合の定期大会に岸田首相が自民党政権下の首相として16年ぶりに出席した。
自民党としては連合を取り込み、共産党などの左派と分断することで野党共闘を崩し、連立を組む公明党以外の切り札を持つ思惑がある。
連合加盟労組のなかにも「政府与党とのパイプは重要」と理解を示す声があるが、足並みの乱れは来る衆院選で野党に不利に働きかねない。今回の芳野連合会長の発言が、どのように作用していくか注目したい。
【近藤 将勝】
企業調査会社(株)データ・マックスが手がける経営情報誌『I・B』やニュースサイト「NetIB-News」は、信頼性の高い情報ソースとして多くの経営者にご活用いただいています。メディアとしてさまざまな情報を取り扱っており、国内外や地元福岡の政治動向に関する情報は経営者以外にも自治体組長や国会議員、地方議員などに幅広く読まれています。
そこで、さらなる記事の質の向上を目的に、福岡の政治・行政、また中央政界の動向などをテーマにオリジナル記事を執筆いただける政治・行政記者を募集しております。
記事の内容は、インタビュー、政局や選挙などを中心に扱います。詳しくは掲載実績をご参照ください。
企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。現在、業界に身を置いている方や行政取材に興味がある方なども大歓迎です。
ご応募いただける場合は、こちら(hensyu@data-max.co.jp)まで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点などがございましたらお気軽にお問い合わせください(返信にお時間いただく可能性がございます)。
関連キーワード
関連記事
2024年11月20日 12:302024年11月11日 13:002024年11月1日 10:172024年11月22日 15:302024年11月21日 13:002024年11月14日 10:252024年11月18日 18:02
最近の人気記事
おすすめ記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す