ハウステンボスへのカジノ誘致の賭けに敗れる HIS澤田氏の野望と挫折(後)
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澤田秀雄氏──ハウステンボスへのカジノ誘致に賭けた男だ。2023年12月、期せずして旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)の創業者・澤田氏の同社取締役退任と長崎県が誘致を目指していたカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備計画の政府不承認が発表された。カジノ誘致に賭けた澤田氏は敗れた。澤田氏の野望と挫折の軌跡をたどってみよう。
澤田氏の経営者人生の最大の汚点は
「リクルート株詐欺」ハウステンボスの経営に情熱を傾けていた澤田氏が、そこから距離を置くようになったのは、「リクルート株詐欺」に引っかかったことがきっかけだ。
筆者「コロナで明暗 エイチ・アイ・エス」(21年7月13日号ほか) を寄稿した。「リクルート株詐欺」事件について触れているので再録しよう。
澤田氏が50億円の詐欺被害に遭った事件とはこういうものだ。18年2月、HTBで金に裏付けられた電子通貨(テンボスコイン)を企画した際、金の調達を一手に引き受け、澤田氏に高く評価された金取引会社社長・石川雄太氏のもとに、こんな話がもちかけられたことがきっかけだった。
〈リクルート創業者の江副浩正氏が、安定株主対策として預けた株が財務省に大量に保管されている。財務省とリクルートの承諾があれば、ワンロット50億円といった大口に限り、市価の1割引程度で供給される〉
瞬時に5億円の利益がもたらされる。およそ眉唾ものの話だが、よほどセールストークがうまかったのか、石川氏はワンロットの購入を決め、澤田氏に相談して資金提供を受けた。
当然のことながら、リクルート株が購入できるはずもなく、50億円は消えてしまった。詐欺グループのカモにされた石川氏は18年11月、58億3,000万円の支払いを求めて、東京地裁に提訴。被告は、数々の詐欺事件で有名な8名。石川氏は。その石川氏に50億円を提供したのがハウステンボスの澤田秀雄氏だった。
東証上場へ向けて準備を進めていたハウステンボスとしては、詐欺被害の原資が澤田氏の要請で同社から出ていたことは、上場審査を不合格にされかねない不祥事だ。澤田氏は19年3月1日、HIS株120万株を売却、約53億円を得て損失を穴埋めした。この事件の責任を取り、澤田氏は同年5月、社長を引責辞任した。
その直前の19年4月、澤田氏はハウステンボスの敷地をIR候補地に供給することを決め、カジノ誘致から撤退したのである。
詐欺被害者から一転、訴えられる側に
この事件は、尾を引いた。『週刊新潮』(21年4月1日号)は、「50億円騙し取られた『HIS』会長兼社長、裁判を起こされる立場に 横領で得られた金を受け取り」のタイトルで報じた。
こういった内容だ。架空のリクルート株取引をもちかけられたのは澤田氏の金庫番で、「アジアコインオークション」の経営者、石川氏。石川氏は「エボネックス」という金を取引する会社を香港に設立。石川氏のビジネスパートナーは計8億5,500万円をこのビジネスに出資。一方で、澤田氏も同時期にエボネックスを頻繁に訪問し、50億円で金1tを購入した。
この人物はこう語っている。
〈詐欺に引っ掛かったことを境に、エボネックスの金の取引は目に見えて減少していきました。それまで計1億円の配当を受け取っていましたが、19年になると完全にストップ。石川さんを問い詰めると、“澤田さんも承知のうえで、金の取引に充てるはずの出資金を澤田さんヘの弁済に回した”と明かしたのです〉
石川氏は「詐欺グループから10億円は回収できたものの、澤田氏の取り立てが厳しく、17億円は出資金から都合をつけた」語っている。
この人物は、「澤田さんはエポックから横領した資金で、詐欺被害の穴埋めをさせた」として、横領による不当利益として受け取った出資金を戻してもらおうと、裁判を起こすこととにしたという。
澤田氏は詐欺被害者から、「不当利益」の返還を求められる裁判を起こされる立場に一転した。園内に宿泊し、経営が傾いたハウステンボスをV字回復させた再生請負人として、澤田氏はカリスマ経営者の名声を高めた。それが、詐欺被害で裁判を起こされるという屈辱を味わった。澤田氏にとって、ハウステンボスは今では忌むべき鬼門である。かくしてハウステンボスへのカジノ誘致の熱情を失ってしまったのである。
(了)
【森村 和男】
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