【新春トップインタビュー】半導体産業とMaaSの振興などを通して、九州全体をつなげて底上げを図る
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(一社)九州経済連合会
会長 倉富 純男 氏「九州は1つ」を掲げ、九州全体を視野に入れた議論や提案を行う(一社)九州経済連合会。TSMCの熊本進出で熊本を軸に周辺地域を巻き込んで活発化している半導体産業の様子、そしてそれを九州全体の発展へとつなげていく取り組みや、日本で最初となる実装に向けて進めている次世代のモビリティサービス、MaaS(※)の推進などについて、倉富純男会長に話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 執行役員 鹿島 譲二)※MaaS(Mobility as a Service):ITと各種交通手段を組み合わせた次世代のモビリティサービス
ツール・ド・九州の成功
──昨年を振り返って、いかがでしたか。
倉富純男氏(以下、倉富) 2021年の就任時、コロナパンデミックのなかでスタートしましたが、農林水産業の輸出振興、成長産業の育成などに取り組んできました。これらは麻生前会長時代から土台づくりに取り組んできた成果であり、私はそれを受け継いで発展させたいと思っています。たとえば、Maasなど交通インフラの整備にも力を入れています。デジタル連携基盤を活用して、まず公共交通の分野から九州の統合を進めています。
また、半導体産業が九州全体に大きな影響を与えており、雰囲気が大きく変わりました。最近は半導体関連の仕事が増えており、九経連でも業務量の多くを半導体関連が占めるようになっています。
九州全体で底上げを図っていくことが大切です。現在、新幹線、高速道路など交通インフラの整備も進行しており、九州は一体となりやすい地域だと思います。TSMCの進出を契機として半導体産業を中心に九州の経済活動が活発化するとなると、熊本はその中軸となります。一方で、博多や天神などの最先端のオフィスビルも合わせて使用できます。
熊本の発展は九州全体の発展と連動します。熊本が発展することで、宮崎や鹿児島、大分など周囲の地域にも良い影響を与えます。実際にこれらの地域で交通インフラを整備しようという計画も持ち上がっています。
──宮崎の若手経営者には東京出身で移住してきた方もいて、地域への愛着を強く感じます。
倉富 宮崎は農業も発展していますが、スポーツ面でキャンプ王国としての特徴をもっています。スポーツキャンプやサーフィンなどは宮崎で人気であり、そうした理由から東京から移住してきた人も増えています。また、半導体産業が熊本を中心に発展するなか、ロームが工場を新たに取得して半導体材料などを製造する予定です。インフラ整備も進んでいます。
九州は分散型のコンパクトな地域であり、各地が水資源などの状況に応じてうまく連携しやすい地域だと思います。熊本まで北九州から新幹線で1時間であり、通勤圏が拡大しています。人材に関して、熊本大学や九州大学、九州工業大学とのつながりも強化されています。このように各地域が底上げされていっているのを感じています。
──ツール・ド・九州2023が成功裏に終わりました。
倉富 昨年の象徴的な成果だと思います。開催前には不安もありましたが、九州地方知事会や麻生前会長はよく開催を決断してくれたと思います。九経連が母体となって実行委員会の事務局を構成しており、皆非常に頑張ってくれたと思っています。参加した選手や警備・誘導などに当たった警察、観客、ボランティア、また競技連盟からも高い評価をいただきました。収支面でも協賛のおかげでバランスが取れました。
今後も開催していく予定で、今回蓄積された知見を生かし、進化した姿をお見せできればと思っています。幸いなことに九州各県からの理解も進みました。24年の開催場所は今回同様に福岡、熊本、大分の3県で、コースについては各県がそれぞれ工夫を凝らしてくれるものと思います。今後は、開催していない県にも参加を検討してもらえればと思っています。目標はツール・ド・フランス並みの成功であり、地域発展に向けて取り組んでいます。
九経連の組織体制と改革
──取り組みにおいて、単なる提言だけではなく、結果を出そうという姿勢を強く感じます。
倉富 ツール・ド・九州で九経連は事務局として下支えをしました。ほかの分野においてもただ提案を行うだけでなく、結果をともなうように行動していこうと皆で話しています。九州MaaSでは実際に動かそうとしていますし、半導体を九州全体で再興させ、「新生シリコンアイランド九州」を実現できるよう取り組んでいます。
──組織改革として、地域共創委員会を昨年立ち上げました。
倉富 事務局が福岡に位置するため、どうしても福岡を見て考えることが多くなります。しかし、九州全体を見て考えていかないといけません。九州全体の協力を強調し、地域の成長を支えるために同委員会を設立しました。
また、各地域の担当者に九経連から辞令を出し地域参事として兼務してもらったり、九経連にも各地域の担当を置いたりするなどして体制を変え、情報共有・意見交換がしやすい仕組みを構築しました。地域参事は23年度から始めた取り組みであり、たとえば佐賀では佐賀銀行、宮崎では宮崎銀行、鹿児島では南国殖産、北九州では西日本鉄道の担当者に兼務してもらい、アンテナとしての役割をはたしてもらっています。このようにして各県・地域の課題に関する声を九経連の取り組みに反映させたいと思っています。
これらによって、各県から具体的な声がより聞かれるようになり、それぞれの地域の実情に基づいた発想や意見が出てくるようになりました。それらを九経連のアクションプランに盛り込み、実行に移すことで、具体化できると思います。それにより九州全体の利益を最大化させられます。
──生産性についてもよく提言されていますが、コロナ禍で働き方が変わりましたね。
倉富 リアルの良さを生かしつつ、生産性を上げるためにコロナで得たものを生かせると思います。大企業にとっても中小零細企業にとってもDXは非常に大事です。実は九経連の事務局は現在、以前の倍ぐらい仕事をしていると思っています。それはリアルとデジタルの両方を行っているからです。リモートでいろいろな会議に出席するほか、出張などでの移動中も仕事を行うようになりました。以前と同じぐらいの陣容でありながら、ずっと多くの仕事を行えるようになっており、デジタル化で生産性がかなり上がり、情報の共有度も高まったと感じています。生産性向上などの点で悩みを抱える企業にとっての模範例となればと思っています。
──「九州将来ビジョン2030」(※1)で掲げた諸課題について、いかがでしょうか。
倉富 各課題において順調に成果が出てきていると自負しています。半導体産業を中心に成果が目に見え始めています。インフラという意味でのMaaS、九州スマートリージョン構想(※2)においても成果が上がり始めています。
※1:九州将来ビジョン2030 九経連が21年4月に創立60周年を迎えたのを機に策定した、2030年の九州のありたい姿と、それを実現するためのアクションプラン。コンセプトは「共生・共感・共創アイランド九州 ~成長と心の豊かさをともに~」。 ^
※2:九州スマートリージョン構想 デジタルの力を活用して、広域連携×官民共創のサービスモデルを実装していこうという考えのもと、九州全体が1つにつながり、成長を目指す考え。 ^九州各県の分担と連携
──役割分担について、空港に関してはどうでしょうか。
倉富 福岡都市圏に近い佐賀空港はその立地性を生かし、24時間空港の北九州空港はその強みを生かすというように、九州のなかで連携し役割をはたすという考えが重要です。それが共に発展することにつながると思います。佐賀は福岡に近く、住んでいても福岡に通勤している人も多く、あるいは福岡に移住する人もいます。そうしたなかで、どのように福岡と佐賀とを結びつけ、佐賀も元気にするという考えが重要だと思います。そして、いまそのための材料が出始めていると感じています。
──長崎では人口減が続いていますが、長崎市の大規模再開発が発展の起爆剤になるのでしょうか。
倉富 長崎では現在再開発が行われていますが、これは単に長崎だけの問題ではなく、九州へのインバウンドを取り込むという視点で、関係者が一緒になってやる必要があると思っています。長崎には大きなポテンシャルがあり、新幹線でつながることでより強化されます。課題は回遊してもらう仕組みづくりです。
たとえば九州観光のゴールデンルート、あるいは大阪または東京と結びついたコースなどをつくるとなると、九州全体で取り組まないと実現できません。これを実現させるのが、九経連の役割だと思っています。
──九州の経済活動が再び活発になり、いろいろなものが動き出しています。
倉富 観光ではインバウンドが戻ってきていますが、課題はアウトバウンドであり、相互性がないと不安定です。中国は諸事情により少ないですが、中国を除いてもコロナ前の水準に戻っており、とくに韓国は圧倒的に多く、中国が減った分を補ってくれています。韓国との首脳外交や交流が積極的になっていることについて、もともと隣国であり友人であり、そのことへの意識がまた戻ってきたということであり、助け合うべきだと思います。
──九州の強みといえば、農林水産です。
倉富 可能性がとても大きいことを改めて感じています。現在は中国向けの水産物輸出が止まっており苦労していますが、農林業や水産業が輸出を含めて、事業としての付加価値を高められるように、そして農家が農家として暮らしていけるようにしていくという流れは非常に大事です。農業の振興は食料安全保障につながりますので、国家として大事な話です。とくに北海道と九州は農業をしっかり支えるという点で、役割が大きいと思います。
水産業でも農業でも各県がそれぞれ努力しているところですが、束ねるともっと強くなるという考えの下、改めて中国以外のチャンネルの開拓もしていこうと考えています。厳しい時期だからこそ九州各県は一緒になって動こうとまとまることができると思います。麻生前会長の時代から振興してきた食品関連の輸出を拡大していきたいと思います。ウクライナ戦争の影響を受けて、多くの人が食料の大事さについて改めて肌で感じています。有事に備え一定程度国内で自給できるようにし、平時は輸出ができるようにしておくことが大事です。そうでないと生活できません。危機意識が芽生えた現在はある意味チャンスだと思います。
MaaS実装に向けて
──24年、そしてその先に向けてどのようなことに取り組んでいきますか。
倉富 成長産業である半導体産業に関して、現在は100年に1回のチャンスだといえます。この新生シリコンアイランド九州をしっかり定着させ大きくし、目に見えるかたちで動かしていきたいと思っています。九経連として全面的に下支えしていきます。そのため、半導体産業において、TSMCだけではなく、他の半導体企業にも九州と連携をしてもらう、九州にきてもらうよう連携の流れをつくりたいです。
MaaSについて、データ連携基盤、九州全体をデジタルで結びつける1つの象徴だと思っています。今年の夏頃に実装させることを目標としています。スタートの時点で事業者全部が加わるまでにはいかないかもしれませんが、九州7県と沖縄、山口が何かしらのかたちでまとまって商品を提供したり、新しい商品を開発するなど、同じソフト上でデータを生かすということを考えています。使用するソフトについてはすでに合意がなされています。決済についてもスタート時点ですべて導入できるかはわかりませんが、デジタル化を進めていきます。
また、人がどう動くかに関するデータを活用して、鉄道のダイヤに反映させたり、ある地点とある地点とを結びつけたりなど、ライドシェアなど新しい手段も含めて交通全体の底上げにつながっていくと予想されます。結果として、観光客に限らず住んでいる人にとっても使いやすくなるものを目指します。役立つことによってサービスも向上させられます。日本初の試みを九州で実践していきます。将来は交通手段を考えなくても大丈夫ということになるでしょう。
九経連の一番大きな役割は、九州全体を良くするための大きな戦略を確認しあう場をつくることであり、その戦略を実施するサポートをしていくものだと思っています。
九州各県はどこも特色があります。大分県は温泉、とくに別府市は温泉で日本一ですし、熊本は半導体産業を抜きにしても力のある地域です。宮崎はスポーツキャンプ、鹿児島には屋久島、種子島を含め大自然の魅力を有しています。長崎も同様に離島など大自然に恵まれています。九州各県にはそれぞれ魅力がたくさんあります。それらを生かしていけば、産業でも観光でも日本を引っ張っていけるだけのものがあります。実際に動かしていくことで成果が上がれば、皆が次に向かってさらに動いていきます。それらを繋いで、全面的に動くようにしていくことが九経連のはたす役割です。
【文・構成:茅野 雅弘】
<プロフィール>
倉富 純男(くらとみ・すみお)
1953年生まれ、福岡県うきは市出身。78年青山学院大学卒、西日本鉄道(株)入社。都市開発事業本部商業レジャー事業部長、取締役常務執行役員経営企画本部長などを経て、2013年6月に代表取締役社長就任。21年4月から代表取締役会長。同6月、九州経済連合会会長に就任。福岡県経営者協会会長、九州経営者協会会長も務める。法人名
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