2024年12月23日( 月 )

台湾総統選 頼氏勝利で外交・安保政策は継続も政権運営は厳しく

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民進党勝利で安保・外交政策は継続

台湾 イメージ    台湾で13日に投開票が行われた総統選挙で民進党の頼清徳候補(民進党主席、副総統)が、国民党の侯友宜(新北市長)と台湾民衆党の柯文哲候補(民衆党主席、前台北市長)を破り当選した。

 米中関係が依然として改善されないなか、親米・親日的で中国との距離を保つ民進党政権が続くことは、日米にとっては経済安保も含めた外交・安全保障政策において政策の継続性が保たれるという点で一安心できる結果といえる。日本は翌14日に超党派議員連盟の日華議員懇談会の古屋圭司会長および対台湾窓口機関である日本台湾交流協会の大橋光夫会長が、15日には米国もオバマ政権で国務副長官を務めたスタインバーグ氏ら非公式の代表団がそれぞれ台湾を訪問し頼氏らと面会している。台湾の報道によると、アメリカが代表団を総統選直後に派遣してきたのは異例だという。

 今回の選挙は国民党陣営が分裂した2000年の総統選以来となる三つ巴の選挙。事前の調査で頼氏がリードするなか、侯氏と柯氏は政権交代のため候補の一本化を目指し、11月の候補届出の前にいったんは一本化で合意したものの、誰か総統になるかなどをめぐって最終的には決裂していた。

 台湾の選挙では、総統選であれ地方の選挙であれ、落選が確実視される本命候補への投票を避け、勝てる見込みがありかつ許容できる次点候補に投票する「棄保」という行動を有権者が取ることがその特徴の1つとして指摘されてきた。今回、2番手の侯氏が逆転するには3番手の柯氏の支持者の多くを取り込むことが求められたが、得票率はそれぞれ約40%、33.5%、26.5%と各メディアの選挙前の支持率調査が概ね反映されており、この選挙結果からは柯氏の支持者の多くがそのまま柯氏に投票したことがうかがえる。

政権運営は厳しく

 理由としては、民衆党および支持者は今後を見据え、総統選で柯氏に多くの票を得させるとともに、同日に実施された立法院(全113議席、総統と同じく任期4年)選挙で議席を増やすことにより影響力を強めるためということだろう。立法院選挙では事前の予想通り民進党(51議席)が過半数を割り込み、国民党(52議席)が第一党となったものの、過半数に届かないなか、議席を増やした民衆党(8議席)が付いた側が過半数を得る構図が生まれた。民衆党が今後は小政党ながらキャスティングボードを握ることとなり、柯氏も民衆党主席として影響力を行使でき、4年後の総統選挙における有力候補となり得る。

 総統選の結果を受けて、中国側や国民党寄りの台湾メディアが、「頼氏は40%の支持しか集めていない」と評しているが、実際得票率は2000年の陳水扁総統に次いで低い。そのなかでのねじれ国会であり、政策ごとに是々非々の姿勢を示すと思われる民衆党への配慮が求められ、政権運営では困難が予想される。

 5月に新総統が就任するまでの内外の情勢も注目されるが、まずは2月1日に選出される立法院の議長、副議長が焦点となる。議長は第一党から選ばれるべきとの考えから、国民党の韓国瑜氏(20年総統選の国民党候補、元高雄市長)の就任が有力視されている。ただ、過去を見ると、民進党の陳水扁総統時代の02~08年に民進党が第一党ではあったものの、野党が連携し国民党の王金平氏を議長として選出し続けた例もある。

焦点は内政、経済

 今回の選挙を通してより顕著になったのは、若年層を中心とした現状、現政権への不満だ。海外、とくに「台湾有事」により大きな影響を受ける日本において、台湾の総統選をめぐる報道では争点としてどうしても対中国関係を重視しがちであるが、総統選であっても内政をめぐる政権への支持・不支持が投票行動におよぼす影響はやはり大きい。

 08~16年の国民党・馬英九政権時代は、前政権で断絶していた中国との対話・交流を重視するあまり、中国資本が台湾に大量に流れ込み、中国と関わりのある地方・事業者だけが富む状態になったことに若年層が不満を抱き、14年には大学生らが立法院を占拠する事態(ひまわり学生運動)が発生、16年に蔡英文総統を誕生させる原動力となった。当時彼らは民進党に「都市部の家賃が高い」「給与が上がらないのに物価が上がっていく」といった不満の解消を託していたが、8年を経過してこれらの問題は解消されたとはいえない。

 半導体など政府も重視するハイテク産業の隆盛は喜ばしいとしても、一般市民には恩恵がおよんでいないという。記者の周囲の台湾人でも、投票するために帰国したという友人は以前同様に多いものの、「生活は前よりよくなっていない」「興味をもてない」と話す友人もいた。既得権益層の国民党への対抗勢力として生まれた民進党も、現在は都市部のエリート層が中心の政党に化しており、生活に苦しむ若年層の支持は民衆党に流れた。16年の立法院選挙時には彼らは民進党およびその後民進党と与党を形成した「時代力量」に投票したが、今回の立法院選挙ではそうした層が民衆党を支持し、投票までぶれなかったということになる。

 また、長く政権の座にあることで腐敗が生じるのはどこも同じであり、民進党にも同様の批判がなされるようになっている。政権交代でこれまでチェック機能をはたしてきたのが台湾の有権者であり、三つ巴という複雑な状況が継続すれば民進党が次回の総統選挙で勝利できる保証はない。頼氏には現政権の対中国政策を継続する一方で、議会での対話を通して、民生改善や腐敗防止などの課題を一歩ずつ着実に解決していくという困難なタスクが待ち構えている。

 上記では、政権を引き続き担うことになる民進党を中心に述べてきた。ただ、国民党が党利党略によって多くのイシューで政府の反対にまわるようなことがあれば、責任ある政党の行動とはいえないだろう。なお、国民党は第一党になったとはいえ、立法院選挙の得票率では小選挙区で40.4%、比例区で34.6%とそれぞれ民進党の44.7%、36.2%を下回っており、中国の言い方を借りれば台湾の主流世論を代表するかという点では民進党にはおよばないということになる。民衆党にしても、若年層の不満をうまく掬い取り議席を伸ばしたとはいえ、柯氏の人気に依拠した個人商店的性質が強く、所属する議員の経歴や信条はバラバラだ。今後、政権運営を一部でも担えるような組織へと脱皮していくことが欠かせない。

【茅野 雅弘】

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