コスモス薬品・トライアルという九州発ユニーク小売業の東進戦略(前)
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日本型ドラッグストア・コスモス
失われた30年が過ぎたいま、エフェクチューションという起業理論が我が国でも注目されている。独特の複数視点から現状の問題と将来への対応を考えるという経営手法だ。一口でいえば、置かれた条件下で工夫を重ねて新たな試みに挑戦するという過去の実績、手法を転換するという思考法で小売業にも当てはまる。
小売の基本は「いつ・何を・どんな方法で・いくらでいくつ・誰に売るか・その理由は?」ということだろう。いわゆる販売計画の基本だが、ライフスタイルが定型化し、継続する時代にはそれなりの効果が期待できる。しかし、暮らしのかたちが多様化し、変化が当たりまえになると過去の成功体験を基にした計画は役に立たない。この四半世紀、旧来の販売戦術を続けた日本型GMSは今やそのほとんどが消滅し、残った企業もオールドリテイラーといわれる低迷業態に追い込まれているのがそれを証明する。
そんな中、変化をしっかりとらえたのがディスカウント業態とドラッグストア業態である。ドラッグストアはいうまでもなくアメリカで生まれた業態だが、薬品が半ば祖業のダイエーでさえその分野への意欲は薄かった。他のGMSも同じだ。理由は消費量と利用頻度が低く、専門性が高く、営業有資格者の確保、商品回転といった経営課題の解決が容易でなかったということだ。
戦後生まれた我が国のスーパーマーケットの原型は、福岡の旧江島屋のように生鮮をテナントで運営し、加工食品を直営でというかたちが少なくなかった。その後、1963年あたりから青果や鮮魚などの専業者が、スーパーマーケットに取り組むという変遷をたどった。マルキョウやサニーといった地場大手スーパーが全部門直営で地域ドミナント出店を開始したのもそのころだ。
その後、ダイエーやユニード、寿屋といった大手小売やほかの地場スーパーマーケットが入り混じって競合が激化する状況が30年ほど続いた後、90年あたりを境に生まれたのがコスモスなどの日本型ドラッグストアだ。とくにコスモス薬品は社名の薬品に加工食品と日用雑貨を併売したことが飛躍の原動力になった。
同じ食品でも、生鮮と加工、日配食品ではその内容が違う。加工、日配商品はメーカーで加工工程のすべてが終了するので店舗での作業がない。作業は店に届いた商品を売場に並べるのがすべてだ。ところが生鮮食品や総菜部門は未加工の商材が入荷する。だから店頭に並べるまで、複数の作業が発生する。この違いは大きい。さらに団塊の世代以降の主婦のライフスタイルの変化が店舗現場の加工作業を増加させた。有職主婦の増加というだけでなく、集合住宅への居住、生ごみの処理など生鮮食品の調理を避ける傾向が強くなったからだ。
それだけではない。たとえば魚の場合、内臓や骨、頭部などを除いて可食部だけにするとそのままの魚体の半分になる。言い換えれば、重さ1kgの魚は500gになるということだ。歩留まりの悪さはそのまま販売価格に反映する。生鮮のないドラッグストアの販売管理費が15%前後に落ち着くのは、生鮮作業と冷蔵、作業機器などの高コスト部分を省いているからである。
そんな高コスト部分に固執するのは頻度の高い食の購入に、生鮮は不可欠と考えるからだ。ところが、日本型ドラッグストアの創業者はそう考えなかった。スーパーマーケット業態の創業者たちと違って、ドラッグストアの創業者が生鮮なしの食品業態に挑戦できたのは食品を知らなかったということに尽きる。なまじ業界を知るスーパーマーケットの経営者は生鮮のない食品小売は成立しないと思い込んでいたから日本型ドラッグストアの発想に至らなかった。
食品と薬品、日用雑貨という組み合わせの業態は世界に類がない。その点、アメリカ業態を模倣することで事業形成をした戦後の我が国小売業と着眼が違う。日本型ドラッグストア創業者の着想はまさに先述した「エフェクチューション」だ。そこから生まれたコスモス薬品は今や九州小売の雄となっただけでなく四国、中国、関西と東上を重ね、短期間で首都圏地域にまで店舗展開するところまできている。
同社のコンセプトは、商圏500mの原則だ。1店舗売上は平均で約6億円、粗利益率は20.3%、販売管理費は16.7%。この数値から逆算すると、損益分岐点の売上は約5億円となる。つまり、全店舗の売上が現売上の85%になっても赤字にはならないということだ。この数字は、非常に強い競争力をもっていることを意味する。さらに、同社の出店原則、500mに1店の出店という観点から考察するとそこにもドラッグストアの優位性が透けて見える。
総務省家計調査による食費の家計支出は外食、給食などを除くと概ね1世帯あたり年間73万円程度だ。それはそのまま、スーパーマーケットへの支出と考えてもいいだろう。
一方、ドラッグストアへの支出は生鮮、総菜がない代わりに、薬品、化粧品、洗剤、日用雑貨が加わる。家計調査から推測するドラッグストアへの支出は年間35万円、概ねスーパーマーケット取り扱い対象商品の46%ほどになる。そしてそのすべてが店内で加工する必要がない商品だ。つまり、製造にかかるコストが不要ということになる。それがスーパーマーケットよりはるかに低い販売管理15%前後につながる。生鮮の作業や販売設備にコストがかかるスーパーマーケットの販売管理費率は23%前後、その差7%。これはそのまま価格競争力の差になる。128円の商品が118円ということになると消費者は明らかに価格の違いを認識する。買い物をするたびにそれを実感するからスーパーマーケットとドラッグストアの使い分けも生まれる。それもコスモス薬品のターゲットとするところだ。
コスモス薬品に隣接されたスーパーマーケットは価格を合わせれば粗利率の低下が発生し、無視すれば売上に影響を受ける。とくに、最近は生鮮や日配の強化でますますスーパーマーケット化の様相を深めているから厄介だ。冷凍の魚、肉、調理済み食品がさらに一般化するだろうこれからを考えると、中堅のスーパーマーケットだけでなく、生鮮の強さでその存在を保っている地方スーパーへの影響は大きい。
もう1つの問題は店舗あたりの売上だ。コスモス薬品が5億円前後の売上で運営できるのに対してスーパーマーケットはその2.5倍程度の売上が必須だ。エリアシェア30%としても商圏内に5,000世帯は必要だ。高質型になるとさらにその2倍程度が必要だが、競合店がひしめく現在では、足下シェアの30%をとるのは容易ではない。結果として、スーパーマーケット業態の経常利益率はドラッグストア業態に大きく劣ることになる。これらの基本構造は全国どこでも共通だから、コスモス薬品が自社競合も意に介さない急速出店で業績を伸ばしているのは容易に納得できるはずだ。九州の南の端で生まれたコスモス薬品が多店舗展開を始めて30年かけ関東まで攻め上った。今後のさらなる同社の進化が楽しみだ。
(つづく)
【神戸 彲】
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