【トップインタビュー】「本物のかまぼこを後世に」 創業130年の老舗を承継した女性社長
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(株)吉開のかまぼこ
代表取締役社長 林田 茉優 氏みやま市瀬高町の「吉開のかまぼこ」は1890年に創業された老舗かまぼこ店。長い伝統をもつ同社は後継者不足に悩まされ、2018年に休業を余儀なくされた。休業中の19年、当時大学生で現在は同社の代表取締役社長を務める林田茉優氏が現れ、同社の運命は大きく変わった。どのようにして事業承継が成立したのか、林田氏に話をうかがった。
職人の技を守りたい 老舗のため奔走の毎日
──「吉開のかまぼこ」とどのように出会われたのですか。
林田茉優氏(以下、林田) 私は大学時代、福岡大学で「ベンチャー起業論」を受講していました。ここでは座学のほか、プロジェクト活動に参加することができ、地場企業の方々と学生チーム15名~20名がタッグを組み、9カ月の間、ともに活動をします。私はこの講義を1年生の時から受講しており、最後の年となる4年生で活動テーマに掲げたのが「後継者問題」でした。
講義などを通して、昔ながらの技術や伝統をもつ職人が国内には数多くいるにもかかわらず、後継ぎがいないことを理由に廃業を余儀なくされる現状を知りました。いつかそのような状況に直面したときに「何も知らなかった」とならないために、知識を身につけ、その現場も知っておく必要があると思いました。
多くの企業を訪問しながら「社長のお次はどのように考えられていますか」と投げかけていました。ときには強い語調で返されることもありました。肌感覚として、生涯現役を掲げる方も多く、後継者の育成にあまり力を入れていらっしゃらない会社もかなりみられました。活動を続けていたなかで、当時休業中の当社の話を聞きました。「休業の経緯や今後の見通しについてお話をおうかがいしたい」と連絡したところ、あっさりOKをいただきました。後日、みやま市の店舗に足を運び、先代である吉開喜代次会長から直接話を聞くことができました。
1890年に創業された当社は3代目となる吉開喜代次会長の体調不良や後継者不足の問題から2018年から休業状態に。ただ、復活を望む声はずっと寄せられていたそうです。
当社でつくられているのは「無添加のかまぼこ」。練り物業界においては無添加での製造が非常に難しく、世の中に流通するもののほとんどが食品添加物を多く含むものとなっています。「添加物を使ってないものをつくってほしい」というお客さまのリクエストから、吉開会長が8年間をかけて研究して完成させたのが「古式かまぼこ」です。地元・みやま市の方々だけではなく、日本全国からこれを求めて足を運ばれる方もいらっしゃるほどでした。その人気は高く、「休業されてからかまぼこをまったく食べていません」と話される方もいらっしゃいました。
私が訪問したのは19年、休業状態になってから1年経ったころでしたが、その時でさえ復活を希望する手紙やメール、電話がずっと寄せられていました。吉開会長も廃業を考えていたものの、まさかこんなにお客さまが待ってくれているとは思わなかったそうです。そのため、何とか後継者を探し、復活したいということを話してくれました。
吉開会長の職人魂や復活を待ち望むお客さまがいるならば、ぜひ私も何かお役に立ちたいと思い、プロジェクトメンバー12名で足繁く店舗に通ったり、食品会社に出向いたりと、引き継いでくれる企業を探し始めました。しかし、すぐに見つかるものではありませんでした。結局、私は卒業して企業に勤める一方で、吉開のかまぼこの支援を続けていました。そして2年目の秋、ご縁をいただいたのがシステム開発業者のフロイデ(株)(福岡市中央区、瀬戸口将貴代表)でした。
瀬戸口社長とともにみやま市の店舗に訪れ、会長と話をしたり、一緒にかまぼこをつくったり。瀬戸口社長は「こんなにこだわったものをつくっていて歴史もある。この企業を後世に残したい」と引き継ぎを申し出てくれ、出会って2カ月でM&Aが決定しました。
──システム開発を行うフロイデはかまぼことは縁遠いように見えますが、どのような経緯があったのでしょうか。
林田 システム開発業界は離職率が高く、「働きがいをどのように創出するか」が経営課題の1つとなっていました。システムの開発を通してクライアントの課題を解決することができますが、他人事と捉えやすくなるため、自社のなかに製造部門をつくり、「商品をどのようにして売るか」を考える習慣を生み出すことで当事者意識の萌芽を図りたいと考えていたそうです。またDXやデジタル化など、時代の潮流によってフロイデの業績が伸長するなか、瀬戸口社長はこの利益をどのようにして社会に還元していくかを常々考えていました。
これらの理由から製造部門をもつ会社のM&Aを考え、さまざまな会社や人に話を聞いていくなかで当社の名前が浮上したそうです。吉開会長以外につくり手がいないことや機械メンテナンスコスト、業界の将来性など懸念点は数多くありましたが、瀬戸口社長は「100年を超える老舗かつ地方企業」「『無添加』にこだわる職人魂をもつ企業」こそ残すべきだと考えたそうです。
──21年12月に林田さんが社長に就任されました。
林田 株式譲渡の調印式を1週間後に控えた日、瀬戸口社長から電話をいただき、そこで初めて社長就任を提案されました。このときの私はあくまで支援者の立場で、しかも社会人2年目で経営経験もゼロ。まさかそのような話が来るとは思ってもみなかったもので、もちろん最初はお断りさせていただきました。しかし瀬戸口社長は「これはスキルや能力の問題ではありません。吉開のかまぼこに必要なのは熱意なのです」と話されていました。思いの強い人がいなければ誰かに応援してもらうことも、協力を得ることもできません。これまで、吉開のかまぼこの休業期間でプロのM&A仲介業者や税理士の方が支援に携わってくださっていましたが、皆さん同じく「難しい」という判断をされていました。最後まで残っていたのは私だけで、瀬戸口社長は「林田さん以上に思いの熱い人はいない」と言ってくださいました。
私はプロではないですが、吉開のかまぼこの商品を何とか残したい、吉開さんの喜ぶ顔がまた見たい、お客さまにも喜んでほしいという一心だけでずっとあきらめずに続けてきました。その結果、今回のご縁に結び付きました。代表就任については拭いきれない不安もありましたが、瀬戸口社長も「もちろん私も力を貸します」と言ってくださって、決断をすることができました。
こだわりの「無添加」で遠方からも人気集める
──どのような商品展開をされていますか。
林田 いま現在、オンラインショップを通じ「古式かまぼこ」のみを販売しています。
先代のときは、かまぼこ・ちくわ・天ぷらと大きく3種類あり、そのなかでも使用する魚や味付けに変化をもたせ、豊富なラインナップを有していました。しかし、休業中に海の環境も大きく変化し、使っていた魚が獲れなくなっていたり、身の質が低下していたりしていました。当社が無添加にこだわっており、魚の質が低下するとすり身として形成することが困難になります。そういった背景から、「エソ」という長崎の魚からつくった、昔ながらのかまぼこという意味で「古式かまぼこ」を製造・販売しています。どちらかというと「仕入れできる原材料が限られているため、古式かまぼこだけでスタートする」という状況でした。1商品だけというのは不安でしたが、逆にいえば、その商品しかないということが事業再開時のオペレーションの構築に寄与しました。休業が決まったとき、当時の従業員の方は別の企業へ転職されており、再開当時、新しいスタッフ全員が業界未経験の素人でした。経験者は吉開会長のみという状況。そのため、技術をゼロから学ぶ必要があり、たくさんの種類の商品ではなく、1つの商品と向き合うというのがよかったのではないかと今は思います。
──近年はコーポレートカラーやロゴマークなど、リブランディングされました。
林田 原材料の「魚」から、コーポレートカラーには海をイメージさせる青を先代のころから使用していました。しかし「魚を使っているから青」となると、どのかまぼこ店にも同じことが言えてしまいます。そのため、当社独自の特徴を見つめ直しリブランディングを行いました。
当社のかまぼこは無添加にこだわっていることから特注の原材料も多く、通常のかまぼこに比べ、2~10倍のコストがかかっています。そのため、毎日食卓に並ぶものというよりも、お祝いの贈答品としてのほうがイメージしやすいかもしれません。元来、かまぼこには縁起物の意味もあるため、赤を基調とした色彩を使ったほか、ロゴについても「吉が開く」という縁起の良い先代のお名前をそのまま使いたいと思い、シンプルなデザインになりました。
22年7月には、オンラインショップをリニューアルオープンしました。以前は店舗での販売が最も大きな割合を占めていました。もちろん私の代表就任後も直営店での販売に注力するのが良いかと考えましたが、こだわってつくられたものは相応の値段で販売されるべきです。また、県外のお客さまからの需要もあることから、全国の健康志向のお客さまに焦点を当ててお届けしていくべきだと考えています。オンラインショップの内訳を見ると、東京からの注文が約3割を占めています。
スーパーマーケットなどで流通している製品よりも少々高級にはなりますが、その分良質です。商品を受け取る方に喜んでもらえるだけでなく、贈る側も良いものを選ぶことができたと感じることができるのではないでしょうか。現在、パッケージデザインのブラッシュアップも同時に行っており、贈答品需要に対応できていると思います。
──今後について意気込みをお聞かせください。
林田 130年の歴史と伝統を誇る吉開のかまぼこの4代目の代表に就任しました。現在、先代より技術指導をいただいており、その会得に努めています。また、その技術をもってお客さまに喜んでいただける商品の開発やお客さまが手に取りやすくなるような販路の開拓も行っており、今の時代に合わせていくとともにより良いものを追及し、「本物」を未来に残していきたいです。
【杉町 彩紗】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:林田 茉優
所在地:福岡市中央区今泉1-20-2
本 店:福岡県みやま市瀬高町下庄1857-2
設 立:1948年6月
資本金:1,000万円
<プロフィール>
林田 茉優(はやしだ・まゆ)
1997年福岡県出身。福岡大学経済学部在籍中に中小企業の後継者問題に興味をもち、福岡の老舗蒲鉾屋「吉開のかまぼこ」の復活に向けた支援活動を開始。大学卒業後、日本の技術・伝統を次世代へつなぐためCON(株)の設立や(一財)日本的M&A推進財団の本部メンバーへのジョインを経て2021年12月、学生時代より支援を続けた(株)吉開のかまぼこの代表取締役社長に就任した。
コーポレートサイト:https://www.yoshigai.co.jp
オンラインショップ:https://yoshigai-kamaboko.stores.jp法人名
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