「資本主義の断末魔」 国民の利益を追求する政権の樹立を(後)
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政治経済学者 植草 一秀 氏
日本に経済大国の表現はもはや似つかわしくない。「経済停滞大国」と言い換えるべきだろう。2012年に第2次安倍内閣が発足したとき、「成長戦略」が掲げられた。22年5月に英国を訪問した岸田首相は、講演で「日本経済はこれからも力強く成長を続ける」と述べた。しかし、日本経済が力強く成長した事実は過去30年に存在しない。為政者のこうした虚偽発言が日本に対する信用を低下させ続けてきたといえる。失われた30年によって国民経済は疲弊し続けた。そこに追い打ちをかけた23年のインフレ。実質賃金減少は加速した。ところが、物価安定を使命とする日本銀行がインフレ亢進下でのインフレ推進施策を継続。日本円は暴落し、日本は外国資本による乗っ取り危機に直面している。この危機を打開する方策を検討しなければならない。
インフレを推進する日銀の愚
金融政策においては日銀総裁の地位に10年居座った黒田東彦氏がインフレ誘導の旗を振り続けた。短期金融市場にマネーを供給しても市中銀行による信用創造が拡大しなければマネーストックは増大しない。黒田日銀のかけ声とは裏腹にインフレ公約は実現しなかった。日本国民にとっては不幸中の幸いだった。
ところが、コロナで情勢が急変した。無制限・無尽蔵のコロナ融資が提供され、日本のマネーストックはバブル期以来の高い伸びを示した。この過剰流動性を主因に日本のインフレ率が急騰した。黒田日銀の政策によるインフレではなくコロナ融資の過剰流動性によるインフレ発生だった。
欧米の金融政策当局がインフレ抑止に全力を挙げるなか、日銀だけがインフレ下のインフレ推進政策を維持し続けた。インフレは労働者の実質賃金を減少させる。日本の消費者物価指数は23年に前年同月比4%上昇を突破した。労働者実質賃金指数は21年5月に前年同月比3.1%増を記録していたが、23年1月には前年同月比4.1%減にまで急減少した。
黒田日銀、岸田内閣はインフレ進行下での賃上げを叫んだ。23年春闘で大企業の賃上げは実現したが実質賃金伸び率は減少し続けた。インフレが進行する下で賃上げが行われてもインフレを上回る賃上げは実現しない。日本の労働者実質賃金は1996年から2022年までに14.4%減少したが、この過程で実質賃金が小幅増加したことが5回ある。そのすべてが物価下落によるものだった。
労働者実質賃金上昇をもたらした唯一の要因が物価下落だった。日銀の責務は物価安定であり、インフレ推進ではない。23年4月に植田和男氏が日銀総裁に就任し、インフレ進行下のインフレ推進政策がようやく修正される方向性が見え始めている。
メディア・コントロールの
打破を目指す日銀のインフレ推進政策は日本円の暴落をもたらしてきた。日本円暴落は外国資本による日本収奪を側面支援するもの。岸田内閣は経済安全保障担当相を置いたが日本円暴落を放置して科学的知見の海外流出阻止を検討するなど、砂上に鉄骨ビルを建設するに等しいものだ。黒田総裁が日本円暴落を誘導した主因が、外国資本への利益供与だったとの疑いすら存在する。
日本政府は1兆ドルの米国国債を保有する。ドル高の局面で保有米国債を全額売却すれば40兆円以上の為替差益を実現できると見られる。その利益を物価高騰に苦しむ国民への利益還元策として配分すべきだが、日本政府は米国政府が怖くて保有米国債の売却に踏み切れない。日本政府が植民地政府として行動する限り、国民の利益が守られることはない。
いま求められることは日本国民の利益を追求する政権の樹立である。敗戦後日本を実効支配し続けてきたのは米国である。米国にものを言い、米国からの自立を試みた為政者が何人か存在するが、ことごとく米国政府による人物破壊の標的にされてきた。自分の利益を追求する政治屋が米国に取り入ることによって身分を確保して日本統治を担い続けてきた。
米国が日本を実効支配し、その支配の手先を任じてきたのが官僚機構、国内大資本、利権政治屋、御用メディアの四者。米国を頂点とするピラミッド構造が日本の主権者国民を下流へ下流へと押し流してきた主犯である。政治権力は選挙を通じて構築される。日本の主権者が真実を洞察し、主権者国民の利益を守る政治体制確立を目指して連帯すれば、政治刷新を実現することは不可能でない。
しかし、その前に立ち塞がるのがメディア・コントロールだ。主権者が判断するための情報をマスメディアが提供する。マスメディア=電波産業自体が米官業政電の利権護持ピラミッドの最重要の一角を担っている。
圧倒的多数の国民がマスメディア情報コントロールの網にかすめ取られ、米国支配政治構造に従属させられている。この真実を広く人々に流布し、選挙を通じての政治刷新の道筋を明示する、新しい大きな政治運動、統率力のあるリーダーの出現が求められている。
希望を失うことは敗北である。現状打破を目指し、新しい政治革新の運動を勃興させるべきときがきている。
(了)
<プロフィール>
植草 一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーヴァー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。関連キーワード
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