2024年12月23日( 月 )

政治に大きな変革は起こせるのか泉・明石前市長の「救民内閣」構想(前)

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 内閣支持率が過去最低を更新中の岸田政権にパーティ券問題が直撃、いまや政権末期状態に陥る一方で、立憲民主党など野党も低迷するなか、政権交代の牽引車役として注目されているのが泉房穂・前明石市長だ。3期12年の間に子ども予算を倍以上に増額し、10年連続人口増を達成した。市長辞任後も支援候補が連戦連勝している。2023年11月26日の東京新聞のインタビューで「救民内閣」を提唱、次期総選挙での政権交代可能とも指摘した。今年の政治は泉前市長を中心に動く──そんな予感を抱かせる発信力を誇っているのだ。

泉房穂・前明石市長と立民・広田一候補(現・参議員議員)

主役交代、応援演説で岸田首相を制した泉前市長

 泉前市長は2023年4月の市長退任後、三田市長選(兵庫県)を皮切りに岩手県知事選、立川市長選(東京都)、そして所沢市長選(埼玉県)の地方選挙に関わり、支援した候補がいずれも勝利した。初めて国政選挙に関わった参議院徳島・高知補選(10月22日投開票)でも、岸田文雄首相との“応援演説対決”を制するかたちとなった。支援した立民前衆議院議員の広田一候補が、岸田首相が応援演説をした前県議・西内健候補(自民公認)に競り勝ったのだ。

 その象徴的場面が、2人が同じ日に徳島入りをしたラストサタデーの10月14日。岸田首相は、徳島駅近くで公明党の山口那津男代表とそろい踏み街宣を行い、麻生太郎自民党副総裁の公明党幹部「がん」発言で悪化した自公の関係修復をアピール、「西内さんに国で仕事をさせて欲しい」とも訴えたが、応援演説を始めた途端、「増税メガネ!」というヤジが聴衆の男性から飛んだのだ。防衛費大幅増額などで増税必至と見られていることからついた異名で急速に拡散、そんな国民の怒りを男性はぶつけたのだが、すぐに警備員に取り囲まれて会場から立ち去ることとなった。

岸田文雄首相と自民・西内健候補
岸田文雄首相と自民・西内健候補

    一方、岸田首相街宣の3時間前に徳島駅前で広田候補の応援演説をした泉前市長の人気は抜群だった。「今回の補選は与野党対決ではなく、これ以上の国民負担を許すのかが争点」というハイテンションの訴えに聴衆から何度も拍手が沸き起こり、街宣後も泉前市長と握手を求める聴衆が列をなし、著書へのサインを頼む人もいた。

 囲み取材も街宣と同じようなマシンガントーク。補選の争点や岸田首相批判などについて10分以上にわたって熱弁をふるい、「政治は一気に変わる」とも強調したのだ。

 まず私が「補選の構図は与野党対決ではないと(応援演説で言っていた)」と聞くと、泉前市長は「そうなんや。マスコミは楽しすぎている。何でもかんでも『与野党対決』にするが、今回は違う」と言って、こう続けた。

 「もちろん与野党対決の面は見えるが、一面にすぎなくて、これ以上の国民負担を続け、増税にいくかどうか。『国民負担増か否か』が争点と思っている。今回、(広田候補が)勝ったら、さすがの総理も立ち止まると思うから。財務省とか経団連とかは頭が固いままだから国民から税金を取ったり保険料を上げようとしたりするが、楽な政治を続けた結果、国民はお金を使えないから経済が回らないやんか。悪循環に入っている。国民がお金を使えるような政治に変えたら、経済が回って結果的に経済成長をするのだから、そこの転換でしょうね」。

 明石市長時代に子ども関連予算を倍増以上にした原動力は、徹底した歳出改革だった。優先順位の低い公共事業(下水道事業や市営住宅建設など)の予算を減らして、財源を捻出していたのだ。その根底にあるのは「すでに国民(市民)は海外並に税金や保険料を支払っている。これ以上の負担を強いるべきではない」という信念だ。殺害予告がきてもこの方針を貫き、負担増なき子ども予算を約2.4倍にまで増やすことを実現したのだ。

 「これ以上の国民負担増をすべきではない」という泉前市長の立場は、参院補選でも一貫していた。広田候補が公約に掲げていた「トリガー条項発動によるガソリン減税」についても聞くと、泉前市長はこう即答したのだ。

 「そんなもの、すぐやったらいい。ガソリンが高いのは、ガソリンそのものではなくて税金が高いから。ガソリン税や石油税や消費税とトリプルだから。トリガー条項が決まっているのだからやったらいいのに、こんな時だけ平気で法律無視している。トリガー条項を適用して、ガソリン税の部分の負担軽減をしたら一番シンプルや。そのほうが(業界に物価高対策費を出すより)お金が安い。トリガー条項適用をしてしまうと、透明性が高いから業界対策にならない。業界を通すからバックマージン的な部分とか政治献金とかで政治家が潤うのであって、結局、自分の儲けのためにやっている政治が続いている。国民のための政治をやっていない」「ここまで国民を無視した政治が続くと、さすがに国民も『いい加減にせいよ!』と思っている。だから地方選挙ではバタバタとこれまでの方々(現職)が落ちていって市民の方を向いた新人が通っている。市民・国民は今の政治が続いていくことは望んでいないと思います。変わるときは一気に変わると思うな」。

 6月7日の長妻昭政調会長の時局講演会で泉前市長の講演(「NETIB-News」23年7月7日「総理待望論浮上の泉前明石市長、野党の旗印になるのか!?」で紹介)を聞いて以降、私は岩手県知事選や所沢市長選や参院徳島高知補選などでの“追っかけ取材”を始めたが、繰り返し主張しているのは「市民(有権者)が動けば、政治は変えられる」というメッセージだ。小選挙区制中心の選挙制度であることから「一気に政治は変わる」とも強調、次期総選挙での政権交代が可能であるとの見立ても披露していた。「1回の衆院選で政権は取れる」(11月26日付東京新聞)というのは、泉前市長の持論なのだ。

 そして、政権交代が必要なことと自らの役割についても、泉前市長は囲みで語っていた。

 「実際に岸田さんは決断できない人ではなくて、自分のためなら決断する人なのです。それこそ、アメリカのためやったらすぐに防衛費を(倍増することを)決断できるし、安倍派の媚びを売るために国葬を決断できるし、みんな反対でも自分の息子を大抜擢するわけでしょう。決断をしている。ポイントは誰のための決断か。国民のため、国民の生活を守るため、国民の安心、国民の笑顔を守るために決断をしたらいいわけじゃないか」「私が1人、国会議員になっても仕様もないじゃない。1人、総理大臣になったところで、どうせマスコミがネガティブキャンペーンをやって引きずり降ろされるから。マスコミなんて、すぐそういうことばかりするのです。そういう意味では『私が』ではなくて、映画の総監督。シナリオを描いて、映画の総監督のようなかたちにしてキャスティングをしたい。主役とか助役とか助演とかを配置して、全体のストーリーをつくって、映画のタイトルは『日本の政治の夜明け』というか、『国民の笑顔』とか『国民の安心』。大事なのは総理(の座)を取ることではない。総理を取るのは手前や、スタートや。総理を取って財務省に対して『国民負担を課すな』『国民の負担を軽減しろ』と指示をして、中央省庁を再編してドラスチックな改革をして、国民が安心して暮らせる社会をつくるのが目的なのだから。目的は総理大臣になることではない。目的は国民の安心や。国民の笑顔が政治の目的や。今の政治家は自分のことばかりや。総理になって国民を救うとかする気がないのだったら『目指すな』と言いたいですよ」。

 最後に「同日に応援演説、岸田総理と対決するようなかたちになったが」と聞くと、泉前市長は「対決するような人ではない。言葉悪いけど」と格下扱いにすると、記者団から笑いが起きた。

 泉前市長支援候補に自公支援候補が敗北した参院徳島高知補選は、日本の政治の転換点となる可能性がある。「増税メガネ」の異名拡散で不人気な岸田首相と、総理大臣待望論が高まる人気抜群の泉前市長の勢いの差が投票結果に現れたように見えるからだ。

(つづく)

【ジャーナリスト/横田 一】

(後)

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