2024年12月25日( 水 )

日本の将来:「市民の覚醒の道」(前)

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東アジア共同体研究所 理事・所長
(元外務省国際情報局長)孫崎 享 氏

日本の危機

 日本は経済、安全保障の両面で、崩壊、没落の方向に進んでいる。

(1)経済現象

GDPの問題

 2月15日付読売新聞は「日本の名目GDP、ドイツに抜かれ世界4位に転落…68年以来の『日独逆転』」との見出しで、「日本の国民総生産(GNP)は、高度経済成長期の1968年に旧西ドイツを抜き、長い間、米国に次ぐ2位だった。リーマン・ショック後の2010年には中国に抜かれて3位となり、この数年は550兆円台で推移していた。GDPは労働人口の数に左右されるが、人口規模で3分の2のドイツに抜かれたことになる」と報じた。

実質賃金の問題

 2月6日付日経新聞は「23年の実質賃金2.5%減、2年連続減 90年以降で最低水準」との見出しで、「23年の実質賃金2.5%減、2年連続減 90年以降で最低水準 20年を100とした指数で見ると97.1で、唯一100を下回った22年からさらに低下した。比較可能な1990年以降で最も低かった。」と報じた。CIAの「ワールド・ファクト・ブック」によれば、実質賃金比較では、日本はG7で最下位で、韓国、台湾より下である。

 教育は経済的資源の重要構成要件である。多くの日本人は、自国について教育を重視する国と思っているが違う。GLOBAL NOTEは2023年9月22日に「世界の公的教育費対GDP比率 国別ランキング・推移」と報じたが、米国44位(5.44%)、英国47位(5.33%)、韓国66位(4.80%)のなか、日本は121位(3.32%)である。

経済安保の問題

 政府は「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案」を国会に提出し、この法律は22年5月11日に成立した。俗称「経済安保法」である。

 この問題を考えるうえで文部科学省科学技術政策研究所の「科学技術指標2022」の「研究論文 引用件数トップ10の論文数」における各国の世界における比率が参考になる。

 今日、自然科学分野のハイテク製品で軍事に関係しないものはない。安全保障に関する論文ということで日本が中国に出すのを止めたとしよう。中国も対抗措置を取り、日本向けを止める。その際どちらの国が被害を得るか。1998年-2000年では被害は中国の方が大きい。では2018年から20年はどうなるか。中国がもつ33.4%が日本に来なくなり、日本のもつ4.0%が中国に行かなくなる。どちらが困るか。圧倒的に日本である。

(2)安全保障面

敵基地攻撃は日本を危機に落とす

 日本の政策の歪みは、経済政策より、安全保障政策においてより深刻である。政府は22年12月16日、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の文書を決定し、前2文書で、敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」の保有を明記した。「反撃能力」はこれまで「敵基地攻撃能力」と呼称されていたものである。多くの人はこれで日本の安全が高まったと思っていられると思うが、まったく逆である。

 戦争史で、「敵基地攻撃」が戦術的に最も成功したものに真珠湾攻撃がある。戦艦、爆撃機などに多大な損傷を与え、米側の戦死者は2,334人であり、「敵基地攻撃」は大成功した。だが当時の日米の国力(経済力)には約1対10と大きな差があり、結局日本は軍人212万人、民間人は50~100万人の死者を出し降伏した。 

 敵基地攻撃論の馬鹿馬鹿しさとして筆者は「敵基地攻撃論を支持する人がいたら次のように聞いたらいい」と指摘してきた。

①中国、北朝鮮は日本に達することができるミサイルを何発実戦配備していますか。
②この内「敵基地攻撃」で何発を破壊できると想定していますか。
③攻撃を受けた中国・北朝鮮はどう反応すると思いますか。

 中国は今や2,000発以上のミサイル、北朝鮮も300発以上のミサイルで日本を攻撃できる。日本の敵基地攻撃で壊滅的打撃を受けるのは日本である。

 これを米国の視点で考えてみよう。日本が中国、北朝鮮に攻撃したとする。中国は日本に攻撃する。被害を受けるのは日本、中国、北朝鮮で、米国は無害である。日本に「敵基地攻撃能力をもたせるのは米国に有利である。

(つづく)


<プロフィール>
孫崎 享
(まごさき・うける)
1943年、満洲国生まれ。東京大学法学部中退、66年に外務省に入省。駐ウズベキスタン大使、国際情報局局長、駐イラン大使、防衛大学校教授などを歴任。現在、東アジア共同体研究所理事・所長。『小説 外務省―尖閣問題の正体』(現代書館)、『日本を疑うニュースの論点』(角川学芸出版)など著書多数。

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