2024年11月24日( 日 )

川勝静岡県知事の辞任表明とリニアの今後(前)

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運輸評論家 堀内 重人

 リニア中央新幹線の建設に対し、大井川水系の環境破壊を理由に、一貫して反対の姿勢を貫いてきた静岡県の川勝平太知事が、4月3日に突然、辞意を表明した。これで「リニア中央新幹線の建設は前進する」という意見がある反面、いまだ後任の知事が決まっておらず、後任に川勝知事の息のかかった人物が選ばれる可能性もあるため、「不透明」とする意見もある。川勝知事はリニア中央新幹線の建設に対して一貫して反対してきたが、よく理由として挙げられる「大井川水系の環境問題」だけではなく、静岡県にリニアの駅が設けられないなど、別の理由もありそうである。リニア中央新幹線は東南海沖地震が発生した際のバイパスルートにもなりえるほか、東海道新幹線の老朽化や混雑の慢性化という問題もある。計画を前進させるには後任の知事とどのように合意形成すべきなのか、その方法を模索していくことにする。

川勝知事辞職のきっかけ

 静岡県の川勝知事は4月1日、県庁の入庁式で新規に採用した職員に対し、「県庁というのは別の言葉でいえばシンクタンクです。毎日、野菜を売ったり、牛の世話をしたり、物をつくったりとかとは違い、基本的に皆様方は頭脳、知性の高い方たちです。ですから、それを磨く必要がありますね」と発言した。この発言は、「職業差別とも受け取られかねない」という苦情などが寄せられたことから、4月3日に突然、辞意を表明した。川勝知事は、過去にも問題発言を繰り返していた。今回の発言で、静岡県民だけでなく、千葉県知事や群馬県知事など他県の知事からの批判もあり、ついに辞意を表明することとなった。

 川勝知事は、6月議会の開会日である6月19日に辞職したいとしている。その流れで行けば、5日以内に辞職願を提出した後、議長が静岡県の選挙管理委員会に通知を行う。そうなると50日以内の7月中頃に、知事選が行われる可能性がある。

 ここで問題となるのが、リニア中央新幹線の今後である。川勝知事は、リニア中央新幹線の静岡工区での着工に、「環境問題」を理由に断固、反対してきた。

 ただ川勝知事が辞職表明したことは、沿線自治体などの関係者からは事業が進展することへの期待がある一方、今後の知事選の行方に対する心配の声もある。

愛知県知事・名古屋市長の考え

リニア イメージ    リニア中央新幹線は10の都府県を通る。そこで10の都府県で構成する「リニア中央新幹線建設促進期成同盟会」が結成され、愛知県の大村秀章知事が会長を務める。大村知事は4月3日に川勝知事が辞職を表明したことに関して、突然であったこともあり、まずは「驚いた」としたうえで、リニア中央新幹線について「一日も早く整備、開業したい。その思い一心だ」と語ったように、リニア中央新幹線の名古屋開業が、愛知県の新たな発展になることを期待している。

 名古屋市の河村たかし市長は、記者団の質問に対して、「事業は進むでしょ。東京(品川)~名古屋間が開業して一番ありがたいのは名古屋。それにふさわしい街にしたい」と述べるなど、リニア中央新幹線の開業により、名古屋の再開発にも含みをもたせている。一方のJR東海に対しては、「静岡県民にとって大井川の水は命の水。丁寧に説明して進めてほしい」と注文を付けつつも、リニア中央新幹線推進に前向きな発言をしている。

国土交通省の考え

 「これでリニア中央新幹線に光が見える」と、国土交通省のある幹部は笑みを浮かべたと聞く。

 川勝知事は、国交省の職員を「不誠実」などと批判してきた。同省幹部は、「『中央と闘う知事』を装うことで、政治的な求心力を保とうとしたのではないか」と推測している。国土交通省の幹部が、そのように考えるのには理由がある。川勝知事は常に仮想敵をつくり、強い姿勢で臨むとともに、時には汚い言葉で罵るという政治手法を採ってきたからである。

 川勝知事は、国(国交省)や企業(JR東海)に対しても臆することなく、自らの主張をぶつけた。その姿を見た静岡県民は、川勝知事に期待や希望を抱き、結果的に支持を集めたことも事実である。

 その反面、国交省の幹部は、「工事が何年も遅れ、工費が膨れ上がった。それはもう取り戻せない」と、怒りを露わにしている。

 事実、静岡工区だけがまったく着工できていない。他の工区では工事が進んでおり、なかには9割程度完成している工区もあるという。

 川勝知事が辞意を表明する5日ほど前に、JR東海は「2027年の品川~名古屋間の開業は、絶望的である。開業は、2034年に延びる」と、公表した。

 国交省関係者の関心は、川勝知事の後任知事に誰が就任するかにある。別の国交省幹部は、「これで間違いなく計画が進むとまではいえない」と警戒しているが、「静岡で明確にリニア中央新幹線に反対する人は少なくなる」と、期待感を示している。

(つづく)

(中)

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