2024年05月17日( 金 )

文教と下町情緒とタワマン共存する西新(後)

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 福岡市早良区の北部・西新周辺エリアは、住宅街、商店街、学生街の趣が渾然一体化した、独特な雰囲気をもつ下町情緒が漂うまちである。地元住民や学生はもちろんのこと、市中心部へのアクセスも良いことなどから、県外からの転勤族とその家族らの流入も増加。「暮らすのにちょうど良い」まちとして近年、さらに人気が高まっている。

映画館閉館などで、活気が失われた時期も

所々に老朽化した建物も存在する(西新4丁目)
所々に老朽化した建物も存在する
(西新4丁目)

    さて、西新のまちは常に活気があふれるまちであったわけではない。というのも西新はかつて、映画館やボーリング場、ゲームセンター、パチンコ店などを擁する文化・娯楽の街としても栄えていたからだ。このうち、映画全盛期の1950~60年代には、西新周辺には7つの映画館が存在したという。しかし、オレンジ通りの大産西新ビル(西新1丁目)にあった「西新アカデミー」が99年に閉館して以降、映画館は街並みのなかから失われた。

 また、建物の老朽化などを理由に、22年3月末に「西新パレス」(72年開業)が閉館(駐車場など一部は営業)したのにともない、娯楽施設として最後まで残っていたボーリング場「西新パレスボウル」が閉店した。パチンコ店も近年、急速に数を減らしている。53年から西新中央商店街で営業していた「銀玉ブティック ひばり西新本店」(21年5月閉店)、「同ひばり西新Ⅱ」(22年10月閉店)や、そのはす向かいにあった「パーラーゾーン」(21年3月閉店)などだ。

西新パレスの様子
西新パレスの様子

 商店街も勢いを失っていた時期があった。西新には「西新エルモール」(通称:西新岩田屋、03年に「西新エルモール プラリバ」に呼称変更)、「ユニード西新店」(その後「ダイエー西新店」「トポス」)などの百貨店、大型スーパーも存在し、周辺住民の日常生活を支えていたが、それらが撤退してしばらくは、まちの再開発が停滞していたこともあり、しばらくの間、活気が失われてしまっていたのだ。なお、ユニード西新店跡地については現在、西日本鉄道のグループにより開発された、有料介護ホームなども入る14階建マンション「サンカルナ西新」があり、1~2階に「マックスバリュエクスプレス西新店」が21年4月から営業を行っている。

再生の契機となった新「プラリバ」開業

まちのランドマークとなった「Brillia-Tower-西新」
まちのランドマークとなった
「Brillia-Tower-西新」

    失われたまちの活気を呼び戻す強いきっかけの1つとなったのが、西新エルモール プラリバの跡地で東京建物グループが開発した商業施設「プラリバ」(19年7月に開業、全店開業は21年4月)だ。それに隣接して、東京建物と西日本鉄道、三菱地所レジデンスの3社による「Brillia Tower 西新」が竣工。地上40階、地下2階、高さ136.93m、総戸数306戸の超高層分譲マンションであり、現在では西新エリアのランドマークとなっている。このほか、脇山口交差点の「ドン・キホーテ西新店」、城西3丁目付近の「TSUTAYA福岡西新店」などの新たな業態の店舗がオープンすることで、まちの利便性向上とにぎわいの向上に貢献している。

 以上の状況から、西新とその周辺のまちは現状で完成度の高いまちとなっており、再開発が行われそうな場所は少ない。そのなかでも注目されているのが、前述した西新パレスだ。所有者であった西日本鉄道は22年12月、西新パレスと隣接する「住まいのギャラリー西新店」とともに「福岡記念病院」を経営する社会医療法人大成会(福岡市早良区)へ売却。敷地面積は合わせて約2,215坪にのぼり、大成会は福岡記念病院の建替用地として取得したが、地下鉄西新駅に至近である場所だけに、高度に複合的な施設になることが予想される。

 このほか、西新TEN GOOD CITYのはす向かいにあり「ベスト電器西新店」が入っていた山本ビルが現在、解体工事中であり、今後、どのような開発が行われるのか注目される。なお、同店は20年9月にリニューアルオープンしていた。

コンパクトシティのなかのコンパクトタウン

夜のスナック街
夜のスナック街

    ところで、プラリバ周辺の南側、城南線に至る場所には、飲食店やスナックを中心とする古くからのいわゆる「飲み屋街」が形成されている。夜になると狭い路地と古い建物の間に看板や提灯などが怪しく輝き、古き良き時代の飲み屋街、大人の社交場の趣を今に残している。福岡市には九州を代表する繁華街である中洲エリア、博多駅・天神周辺に飲み屋街があるが、それらとは異なる地域密着型、値頃感のある店舗が多く、それも西新を愛する人々が多い理由の1つだろう。ちなみに、西新駅周辺には宿泊施設がなく、そのため外国人観光客の姿が目立たず、そのことも西新エリアが比較的落ち着いたまち、そして下町情緒を感じさせる要因になっている。ある酔客は、「自分はかつて中洲で飲み歩いていたが、今は西新ばかり。庶民的で自分にとって居心地が良い」と話していた。

 天神や中洲のような派手さはないが、暮らしに必要な施設が一通りそろうまち・西新。コンパクトシティといわれる福岡市の良さをさらにコンパクトにしたともいうべき、「ちょうど良さ」がこのまちの魅力といえそうだ。

(了)

【田中 直輝】

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