伊藤忠のビッグモーター買収 軍師はジェイ・ウィル・パートナーズ(後)
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「軍師」とは、軍の最高司令官が行う指揮に、戦略・戦術を提案、補佐を務める者。知将や策士とも呼ばれる。戦国時代は「軍師」が活躍した。豊臣秀吉における竹中半兵衛や黒田官兵衛、武田信玄の山本勘助は軍師としてお馴染み。現代は、切り取り自由のM&A(企業の合併・買収)の戦国時代。「軍師」を生業とする企業再生ファンドにスポットを充てる。
JWPは国内資金で再生を担う和製ファンドの先駆者
伊藤忠の「軍師」を務めているJWPとは何者か。外資系をまったくいれず、日本政策投資銀行や年金基金、大手金融機関といった国内資金だけで組成する企業再生ファンドの先駆者である。投資した国内企業の再生や成長に基づくリターンを国内の投資家に還元する。再生の手法は投資先企業に役職員を派遣し、既存の役職員とともに再生を目指す、日本的な穏当な手法を得意としている。
JWP社長・佐藤雅典氏は1986年一橋大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行(現・SBI新生銀行)に入行。ニューヨーク支店で不良債権など、ローン流動化ビジネスに従事。1998年に経営破綻した長銀からゴールドマン・サックス証券に転じた。ここで不良債権処理および企業再生ビジネスを担当したのち独立。2003年4月、ゴールドマンで企業再生を手がけていた出身者が中心となりJWPを設立した。ジェイ・ウィルの「J」はジャパンの頭文字で、直訳すると「日本の志」。日本国内の企業に特化して投資してきた。
福岡銀と親和銀の統合の影の立役者
JWPと福岡は因縁が深い。JWPは地銀再編の影の仕掛人で、「軍師」と評された。大型案件の第1号は2006年10月、長崎県の親和銀行(現・十八親和銀行)に対する資本支援だ。福岡銀行と傘下に親和銀行を持つ九州親和ホールディングス(HD)が資本提携したのを受け、九州親和HDは福岡銀行とJWPを引き受け先とする総額300億円を実施した。この増資では福岡銀行が普通株式70億円、JWPが優先株式230億円を引き受けた。
JWPは親和銀行に常務を送り込み、親和銀行が抱えていた47グループ2,300億円の不良債権処理の陣頭指揮を執った。このうち1,000億円分が福岡銀行の債権回収会社、新たに組成した再生ファンドに譲渡された。これにより、九州親和HDは資本増強と不良資産の切り離しが図れ、HD傘下の親和銀行のふくおかフィナンシャルグループ(FG)入りが実現した。福岡銀行はJWPと組むことで、九州一円をカバーする一大銀行グループに成長することができた。
この地銀再編でJWPは巨額の利益を手にした。第三者割当増資で引き受けた株式は、ふくおかFGが高値で引き取っただけでなく、一連の再編にともなうアドバイザリー・フィー(M&A仲介会社に支払う手数料)をJWPは手にした。「軍師」として手ほどきした対価だ。福岡銀行を伊藤忠商事に置き換えれば、ビッグモーターの買収と同じ構図だ。
(了)
【森村和男】
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