2024年06月26日( 水 )

【クローズアップ】機能拡充で混雑状態は改善できるか 福岡空港の現状と将来像──

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 コロナ禍の影響で乗降客数の激減という事態に陥ったものの、2023年度には過去最高の乗降客数を記録するなど回復傾向にある福岡空港。現在、空港機能の拡充に向けてさまざまな整備を進める一方で、従来からの過密状態に起因する数々の問題も噴出している。福岡空港の現状と将来像について見ていこう。

滑走路増設のほかターミナルビル増改築も

国内線旅客ターミナル
国内線旅客ターミナル

    都心部に近く、「日本一アクセスの良い空港」として知られる福岡空港。その一方で、1本の滑走路で国内線および国際線の両方を賄っているにもかかわらず、羽田、成田、関空に次いで国内4位の乗降客数を集めており、滑走路1本あたりの離着陸回数は日本最多。その過密ぶりから慢性的な遅延が常態化しており、2016年3月には航空法107条3項に基づく「混雑空港」に国内5例目として指定されている。

 その福岡空港では現在、過密状態の解消に向けての取り組みが少しずつ動き出している。なかでも一番大きなものが、滑走路の増設だ。

 滑走路増設に向けては、発着回数拡大に向けた機能強化策として15年度から福岡空港滑走路増設事業に着手。新たな滑走路は、既存滑走路(延長2,800m)の西側210mの位置に並走するかたちで、延長2,500mのものを整備する。滑走路の配置は、空港の敷地が狭くても2本目の滑走路を設けることが可能な「クロースパラレル方式」を採用。2本の滑走路の距離が近いため、同時進入・出発は原則として不可だが、一方の滑走路で着陸を行うと同時に、もう一方の滑走路で離陸に備えて待機するなど、空港の地上交通および離着陸機の調整によって運用効率を上げることは可能となる。増設滑走路は現在、25年3月末の供用開始を目指して工事が進行中で、完了の暁には滑走路処理能力が年間18.8万回まで向上することが見込まれている。なお、滑走路増設に先行するかたちで、平行誘導路の二重化整備事業が20年1月末に完了している。

国際線旅客ターミナル
国際線旅客ターミナル

    また、国際線の旅客ターミナルビルの増改築工事も進んでいる。23年2月には従前の駐車場を立駐化し、収容台数を約1.4倍に拡大させた新立体駐車場の供用を開始。同年12月には国際線旅客ターミナルの北側へコンコースを延伸し、PBB(旅客搭乗橋)を従前の6基から12基に倍増させた。さらに現在、国際線ターミナルビル側で新たな管制塔の建設を24年10月末完成予定で進めるほか、到着ロビーを増床・新設する「アクセスホール」の整備を24年11月末の供用開始予定で進めており、バスやタクシーなどの二次交通へのアクセスの円滑化も図っていくとしている。そして増設滑走路が供用開始となる25年3月には国際線ターミナルビルの増改築工事の完了を予定するほか、併せて免税店エリアも拡充してオープンする予定となっている。

国内線の新たな立体駐車場
国内線の新たな立体駐車場

    一方で、今年4月16日には国内線において、新たな立体駐車場がオープンした。構造は8層9段で、デザイン監修は梓設計・隈研吾建築都市設計事務所・西日本技術開発共同企業体が行い、外観は博多織の白と黒のデザインをモチーフとしており、収容台数は従来の約2倍となる1,617台となった。この新立体駐車場の完成にともない、旧立体駐車場は閉鎖となっており、ゆくゆくは取り壊してホテルやバスターミナル、商業施設などが入り、空港機能(保安検査場等)も備えた複合施設へと建て替える計画となっている。

19年から運営民営化 その直後にコロナ禍が

 戦時中の「席田(むしろだ)飛行場」および終戦後の米軍接収下の「イタヅケ・エアベース」を前身とする福岡空港は、1972年4月に運輸省(現・国土交通省)所管の「第二種空港」として供用開始されたのが始まり。81年に国際線ターミナルビル(現・国内線第3ターミナルビル)が竣工し、93年3月には福岡市地下鉄が乗り入れ、地下鉄を利用した交通アクセスも格段に向上した。99年5月には新国際線旅客ターミナルビルおよび国際貨物ビルの供用が開始された。現在、空港法第4条第1項第6号に該当する「国管理空港」に区分されており、空港の敷地面積は353haで、そのうち国有地が64.6%、民有地が32.5%、市有地が2.9%。滑走路増設整備が進んでいるものの、現状は国内線・国際線合わせて1本の滑走路しかなく、南北に配置された2,800mの滑走路の東側に国内線のターミナル地区を、西側に国際線のターミナル地区を配置している。

 その福岡空港では、2013年施行の民活空港運営法に基づいて、民間委託(民営化)に向けた動きも進んできた。運営の民営化により、民間資金の活用による公費負担の削減と、地域経済の成長を促すほか、赤字を抱える空港本体と黒字の空港ビル事業を一括して民間に委託することで、着陸料の引き下げなどによる新規路線の誘致や利用者の拡大を図るのが狙い。民営化に向けては18年5月に国土交通省が、福岡エアポートホールディングス(株)を代表企業とし、西日本鉄道(株)、三菱商事(株)、九州電力(株)、シンガポール空港を運営するチャンギ・エアポート・グループの5社で構成される企業連合「福岡エアポートHDグループ」を優先交渉権者に選定。同年8月に同グループが設立した特別目的会社(SPC)である福岡国際空港(株)(以下、FIAC)と実施契約を締結した。実施契約期間は、48年7月末までの30年間。そして翌19年4月からは、FIACによる滑走路を含めた空港運営の民間委託が開始された。

 だが、その民営化の効果を発揮する間もなく、出鼻をくじくかたちで襲来したのが、20年からのコロナ禍だった。

乗降客数は過去最高 民営化初の営業黒字も

 コロナ禍以前の福岡空港の乗降客数は、右肩上がりの増加傾向で推移していた。とくに12年度以降はLCC(格安航空会社)の台頭やインバウンド観光客などの需要増により急伸しており、18年度には過去最高の乗降客数2,485万人を記録。翌19年度は、中国・韓国などとの国際情勢の変化により国際線がやや減少したものの、それでも乗降客数2,303万人だった。

 ところが、コロナ禍となった20年度は大きく減少。国内線が前年度比63.0%減の648万となった一方で、国際線は前年度比99.6%減の2万人という有り様で、合計で前年度比71.7%減の乗降客数650万人まで減少した。その後、21年度は国内線944万人、国際線2万人の計946万人と少し回復。コロナ禍が落ち着きを見せ始めた22年度になると国際線も225万人まで回復し、国内線も合わせた乗降客数は1,796万人となった。そして5類移行によってコロナ禍が終息した23年度は、国内線が歴代2位の1,787万人となる一方で、国際線は過去最高となる706万人を記録。合計した乗降客数は2,494万人とコロナ禍前を上回り、過去最高となった。

 こうした乗降客数の回復とともに、FIACの業績も回復傾向にある。民営化直後の19年3月期は8カ月の変則決算だったため、初の通期決算となる20年3月期は営業収益412億4,400万円に対し、営業赤字15億9,700万円、最終赤字93億4,500万円を計上。だが、コロナ禍によって翌21年3月期は営業収益146億1,200万円まで減収となったうえ、営業赤字139億9,800万円、最終赤字219億7,100万円となった。以降も乗降客数の落ち込みとともに厳しい状況が続いていたが、コロナ禍の終息にともない24年3月期は過去最高となる営業収益512億円に対し、営業利益65億円と民営化後初の営業黒字を達成。また、最終赤字24億円となったが、赤字幅は縮小している。現在、前述のように国際線ターミナルビルの増改築や国内線ターミナルでの複合施設開発計画などを進めている関係上、先行投資がかさんで26年3月期までは最終赤字となることを見込んでいるが、27年3月期は最終利益3億円に黒字転換。29年3月期には営業収益820億円、営業利益140億円、最終利益50億円を目標としている。

国際路線拡大に注力 米本土直行便も

 なお、FIACでは19年4月の民営化開始と同時に、30年後の2048年をイメージしたマスタープランを発表。30年後の将来イメージは、「比類なき東・東南アジアの航空ネットワークを有する、東アジアトップクラスの国際空港」と掲げており、旅客数3,500万人(国際1,600万人、国内1,900万人)、100路線(国際67路線、国内33路線)の利用を見込んでいる。また、国内線地区には商業、ホテル、バスターミナルなどの複合施設を建設するほか、国際線地区には5つ星ホテルの誘致なども計画。30年間で約3,300億円を投資して、周辺地域とともに持続的に発展していく都市型空港の実現を目指していくとしている。

 今年3月28日に発表した、24年度から28年度までの5年間の中期事業計画では、28年度の乗降客数目標を国内線1,800万人、国際線1,000万人の計2,800万人と提示。冒頭に紹介した増設滑走路の供用や、それにともなう発着回数の増加、国際線および国内線の施設開発の完工がこの5年間で控えており、「安全・安心・安定的な空港運営の継続」「需要を確実に受け入れるための環境整備」「航空ネットワーク拡充と時間価値、空間価値の提供」「地域とのさらなる信頼関係構築」の4つを重点的に取り組んでいくとしている。とくに航空ネットワーク拡充については、東南アジアのリゾート路線や中国の未就航都市、欧米路線などの誘致に取り組み、国際線の路線を現在の23路線から28年度までに38路線まで拡大していきたい考え。さらにハワイやグアム便のみだったアメリカ路線では、本土の都市への就航も目指すとしている。

遅延慢性化や“門限”問題 続出するトラブルは解消できるか

 福岡空港が都心部に近接してアクセスに優れているのは誰しも認めるところだが、その一方で、天神や博多エリアなどの中心部では航空法に基づく高さ制限の存在で高層ビルが建てられないなど、都市の発展をある意味で阻害してきた面もある。また、市街地に近接しているため周辺には拡張の余地が乏しく、増設などの開発は狭い敷地内でやりくりするしかない。現在2本目の滑走路増設が進んでいるものの、2本目が供用開始されても同時離着陸はできず、滑走路処理能力の拡大にも限界があるため、過密状態に起因する混雑や遅延などの問題は依然残ることになる。

イメージ    さらに空港自体が市街地に近接していることで周辺への騒音問題がつきまとうほか、朝7時から夜10時までしか離着陸できないという時間制限──俗にいう“門限”の問題もあり、この門限に係るトラブルも近年目立ってきている。

 23年9月には、フィリピン・マニラ発のセブ・パシフィック航空の航空機が福岡空港から北九州空港にダイバート(代替着陸)した後、マニラにUターンを余儀なくされる事態があった。また今年3月には、羽田空港発のANA機が、機材調整のために福岡空港の門限に間に合わないとして、北九州空港にダイバート。さらに5月19日にも、フィリピン・マニラ発のセブ機が福岡空港に着陸できずに北九州空港にダイバート後、門限に間に合わないため関西国際空港に到着するというケースもあるなど、同様の門限問題はこれまでにも複数回発生している。

 ほかにも、旅客機の誤進入や立ち往生、衝突懸念の離陸取り止めなど、過密状態が常態化していることに起因するトラブルがたびたび発生。単なる機能拡充および路線や利用客の増加に努めるだけでは、将来的に重大な航空事故を招きかねない恐れもある。

 これまで福岡の“空の玄関口”として、都市圏全体の成長を牽引してきた福岡空港。福岡市でも、23年3月に博多駅まで延伸された福岡市地下鉄七隈線を、博多駅から国際線ターミナルまで再延伸することも検討しており、実現すればさらなるアクセス向上により、ますます便利な空港になることは間違いない。今後、福岡空港が機能拡充とともに混雑緩和などの根本的な問題の解消を進めることで、都市・福岡のさらなる発展に寄与していくことを期待したい。

【坂田憲治】

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