2024年06月27日( 木 )

木造の可能性広げる、設備投資と技術者への啓蒙(前)

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(株)平川木材工業
代表取締役会長 平川辰男 氏

第3工場の外観
第3工場の外観

 フローリング材など、無垢材による内装木材を製造・販売している(株)平川木材工業は、複雑な加工を施した製品の開発などによる木材の付加価値向上に取り組んでいる。(一社)福岡県木材組合連合会会長も務める同社の代表取締役会長・平川辰男氏に、福岡県における木材活用推進の状況や課題、今後に向けた提言も含め話を聞いた。

高品質の製品づくり

 ──まず御社と事業の内容について、お聞かせください。

 平川 1924年創業の当社は、今年5月に100周年を迎えました。私は3代目で、今の社長は5代目です。提供している製品は無垢材による高品質なフローリング材や羽目板(天井材や壁材)、焼杉(※1)、造作材といった内装用の木材です。木材調達は国内外から行っていますが、国産材のスギとヒノキについては、地元のうきは市周辺をはじめ九州内が約80%を占めています。設備の更新を積極的に行ってきたことに加え、木材乾燥士や木材加工用機械作業主任者、木材接着士など専門資格を有する社員によるたしかな技術に裏付けられた高品質な製品づくりを行っていることが、当社の特徴です。第1工場には、それを目で見て触って体感できる自社ギャラリー「萌」も開設しています。

※1:杉板の表面を焼き焦がし炭素層を人為的に形成した壁面材など

ギャラリー「萌」の内部の様子
ギャラリー「萌」の内部の様子

    ──木材活用の現状について、どのような問題意識をお持ちでしょうか。

 平川 少子高齢化により住宅市場が縮小傾向にあることはもちろんですが、何より木材の良さを感じる機会が減っていることに危機感をもっております。住宅建築の手法が大きく変わり、木質建材が使われることが減っているからです。また、木材の質より価格が重視される、さらには構造材や内装材に使われる木材より設備機器が重視されるケースが増え、それにより木質系の製品メーカーは厳しい環境に置かれるようになり、それは当社も例外ではありません。木材は「和」を表現することに適していますが、ライフスタイルや嗜好性の変化から、近年の住まいには和室や床の間が少なくなってきている影響も小さくありません。当社ではそうした状況のなか、新たな製品開発にチャレンジし、状況を打開するべく取り組みを進めているところです。

3D加工機を導入

 ──具体的には、どのような取り組みなのでしょうか。

 平川 高精度な加工ができる5軸の3Dマシニングセンタ(加工機械)「PRO-MASTER」を2022年12月に導入しました。これは、デザイン性に優れた加工を行っているヨーロッパから導入(ドイツ製)したもので、立体感あるデザインの実現や施工の省力化を図ることを狙いに、試作品づくりなど製品化に向けた試行錯誤を行っているところです。3D加工技術やBIMのようなデジタル技術の導入は、日本は欧米だけでなく中国にも遅れを取っていると認識しており、そのことも導入のきっかけとなりました。

 環境意識の高まりやSDGsの浸透を背景に、国が2010年に「公共建築物等木材利用促進法」、21年に同法を改正した「脱炭素社会の実現に資するための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(木促法)」を施行しました。木材活用への注目度が高まっている状況で、戸建住宅はもちろん、マンションやオフィス、店舗の構造部材や内装材として木材を活用する機運の高まりを実感しています。より多様で魅力的な商品を生み出すことで、木材製品の付加価値を高められればと考えています。この加工機械は、導入と同時に竣工した当社第3工場に設置していますが、その建物の大きな特徴はトラス構造(※2)の天井をはじめ、構造部材が木造であることです。

※2:部材で三角形を構成し、その集合体によって建築物をつくる構造。柱や間仕切りがない大空間を必要とする工場などの天井材として、これまでは鉄骨材でつくられることが多かった。

 ──木造トラスの特徴には、どのようなものがあるのでしょうか。

 平川 部材は住宅などに使われる標準材を用いたもので、建設コストや木材の接合方法、施工性などでいくつか改善すべき点はありましたが、無事完成しました。当社の第1工場、第2工場も同様ですが、これまでは工場や事務所は鉄骨造で建てられることが一般的でした。それは、柱や間仕切りのない大空間をつくるのに鉄骨造が適しており、施工も容易だったためです。第3工場は木造トラスの導入で約20m×30m四方の無柱の空間を実現できました。これにより、木造であってもCLTなどの特殊な工法ではなく、一般的な木造住宅建築に使われる工法の延長上の技術で、工場や店舗などを建設できることを実証できたのです。今後、このような事例が増えることで、木造建築の可能性が広がることを期待しております。

(つづく)

【田中直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:平川典秀
所在地:福岡県うきは市浮羽町朝田572
設 立:1988年5月
TEL:0943-77-3185
URL:https://www.hirakawa-mokuzai.co.jp/


<プロフィール>
平川辰男
(ひらかわ・たつお)
福岡県うきは市出身。1952年生。1975年慶応義塾大学商学部卒業。2008年九州大学大学院生物資源環境科学府森林資源科学専攻修了。2013年10月から現職。(一社)福岡県木材組合連合会会長、福岡県木材協同組合連合会会長、福岡県木材利用促進協議会会長を務める。趣味はゴルフ。

(後)

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