2024年12月23日( 月 )

傲慢経営者(1)トヨタ・豊田会長 創業家「幕藩体制」崩壊の足音が聞こえる(後)

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 今年の株主総会で最大の注目は、トヨタ自動車の株主総会であった。トヨタグループの総帥・豊田章男会長の発言は相変わらず「上から目線」のものだったが、総会は、豊田家による経営支配の終焉を予感させた。豊田創業家の「幕藩体制」崩壊が始まったといっても過言ではないだろう。トヨタの「幕藩体制」を今回のテーマに取り上げる。

三菱UFJと三井住友がトヨタ株を売却

 トヨタに関する衝撃的な情報が飛び込んできた。米通信社ブルームバーグ(6月7日付)は、三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)と三井住友フィナンシャルグループ(FG)の2メガバンクが、政策保有株としてもつトヨタの株式売却を検討していると報じた。

 政策保有株とは、金融機関などが投資ではなく取引先との関係維持や買収防衛策といった経営戦略上の目的で保有している株式のこと。

 2社のトヨタ株保有総額は時価で1兆3,200億円。政策株をゼロにする方針を打ち出している損害保険会社4社の保有分を含めると、合計で3兆2,000億円を超える。6社の保有総額は、トヨタの時価総額の約6%に相当する。トヨタは自社株買いを活用して市場への影響を最小限に食い止めるとしている。

 今後、グループ内の自動車部品メーカーによる株式売却が進めば、トヨタは金融機関だけでなく、その他の安定株主を失うことになる。

 24年3月末時点の株主構成は、銀行・証券の金融機関が37.88%、外国法人が25.01%、その他法人が24.53%、個人その他が12.58%。安定株主を失うと、外国人投資家ともろに向き合うことになるわけだ。

 豊田章男氏の持ち株は2,346万株。持ち株比率は0.14%(24年3月期末)の少数株主である。持ち株の少なさを、トヨタ本体のグループ会社との株式の持ち合いで補い、安定株主の格好をつけたわけだ。

 外国人の持ち株は法人と個人がある。章男氏の持ち株比率ではまったく勝負にならないのは明白だ。章男氏は文字通り「裸の王様」になる。

豊田家「幕藩体制」の崩壊へ

トヨタ自動車 名古屋オフィス イメージ    トヨタ自動車の創業家の豊田家を核とする体制は徳川家の幕藩体制と似通っている。

 江戸時代の幕藩体制とはこういうものだった。徳川将軍の直接の家臣を「旗本」「御家人」という。全国各地の大名を3つに分けた。徳川家の一族である「親藩」。尾張、紀伊、水戸を「御三家」という。代々徳川家に仕えてきた「譜代」、関ヶ原の戦いの後に家臣となった「外様」だ。

 トヨタは豊田家が株式で支配するオーナー企業ではない。持ち株からみれば、豊田家は少数株主でしかない。創業家出身という出自で君臨している。

 トヨタ自動車の株主構成は、「幕藩体制」と同じ構造だ。トヨタの執行役員が「旗本」「御家人」。トヨタグループの「御三家」と呼ばれるデンソー、アイシン、豊田自動織機が「親藩」。株式を持ち合う取引先企業や政策保有株を保有する銀行や保険などが「譜代」。外国の投資家が「外様」だ。

 「親藩」「譜代」が安定株主となり、「外様」からの攻撃を食い止める防波堤の役割をはたしていた。だが、株式の持ち合い、政策保有株の解消が進めば、防波堤がなくなり、「外様」と直接向き合うことになる。

 5代将軍徳川綱吉は極端に犬を愛護したことから「犬公方」と呼ばれた。公方は将軍の意味。トヨタ創業家の御曹司、豊田章男会長が入れあげているのがモータースポーツ。さしずめ「モータースポーツ公方」といったところだろう。

 来年の株主総会は、門戸開放を迫る外資投資家が舌なめずりして待ち構えている。防波堤を失った豊田家が今後とも世襲を続けることができるかの正念場になる。

(了)

【森村和男】

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