三菱地所の福岡戦略 再開発は「文化」「コミュニティ」
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三菱地所(株)
東京に本社を置く大手不動産企業は、日本全体で少子高齢化が進展するなかでも人口流入が続く福岡に着目し、事業展開を進めている。三菱地所(株)は5月15日、複合開発計画「(仮称)天神1-7計画」の工事を開始した。西鉄グランドホテル(福岡市中央区大名2丁目)で会見した中島篤社長は、「より一層、福岡のまちづくりに貢献していきたい」と、このプロジェクトに対する想いを自らの言葉で説明した。同社はこれまで福岡において、分譲マンション「ザ・パークハウス」シリーズや商業施設「マークイズ福岡ももち」(2018年開業)、同社による九州初のオフィスビル「博多深見パークビルディング」(21年開業・深見興産との共同事業)のほか、日本初のPark-PFIによる国営公園「海の中道海浜公園」内に滞在型レクリエーション拠点「光と風の広場」を整備してきた。
イムズ跡の再開発
中島社長は、「(仮称)天神1-7計画」の会見の席で三菱地所グループと社会の持続可能性に関する4つの重要テーマ「まち・サービス」「地球環境」「人の尊重」「価値の創造」を示し、「(仮称)天神1-7計画」に反映すると説明。「天神ビッグバンを契機に街の機能更新が大きく進むなかで、『イムズ』建替えを決断しましたが、新しい計画におきましても引き続き、当社のまちづくりの思想を体現していきたいと考えております」と話した。文化やコミュニティを重視したエースホテルとの連携が、この体現の1つだという。
計画のビジョンについては、草野重徳・九州支店長が説明した。「(仮称)天神1-7計画」の前身であるイムズは1989年から2021年まで、同社初の都市型商業ビルとして劇場を備えており、演劇やコンサート、お笑いなど文化・情報発信の拠点となっていた。イムズ開業の年、福岡市の人口は122万人、市内総生産3.6兆円(1985年)、外国人入国者数76万人(06年)だったが、24年には人口で164万人、市内総生産で7.8兆円(20年)、外国人入国者数で279万人(22年)にまで増えた。
こうした変化を踏まえ、草野九州支店長は次のように話した。「イムズで掲げたコンセプトをアップデートし、目指す姿として『福岡文化生態系』、福岡の新しい文化を共に創造し続けるという開発ビジョンを策定しました。福岡がより豊かになる交流の循環をつくり、東アジアのゲートウェイの一翼を担う施設を目指すという想いを込めています」。
この計画では、地下4階・地上21階建の建物を整備。地下2階~地上2階が商業ゾーン、1~3階と16~20階がエースホテル、3~5階と7~15階がオフィスという構成だ。オフィスは、基準階面積が約790坪と広いスペースを確保するとともに、最小区画30坪台からの利用も可能とし、多様な規模のオフィスニーズに対応する。就業者数は約3,000人を想定。建物外観には、同社などによる鹿児島県の合弁企業「MEC Industry」が供給する九州産木材を使用したCLTパネルを約450m3使用する。26年12月末の竣工を予定。「開業は27年に入ってから」(尾見惇・九州支店統括)だが、具体的な時期は未定とした。
福岡での開発実績
三菱地所グループは、九州エリアで11社のグループ会社が事業を展開。最近の動きとしては、11年に「ザ ロイヤルパークホテル 福岡」(客室数174室)、23年8月に「ザ ロイヤルパークホテル 福岡中洲」(客室数255室)を開業した。「ザ ロイヤルパークホテル 福岡中洲」は、福岡音楽都市協議会との共同事業として、主に福岡で活動するアーティストによる音楽イベントを館内で開催している。
24年4月にはコンパクトオフィスシリーズの「CIRCLES中洲川端」(福岡市博多区川端)が開業。さらに、全国でフレキシブルオフィスを展開する「リージャス」は、5月末時点で福岡市内に12拠点を運営している。
三菱地所レジデンスが供給している分譲マンションは、5月31日現在で「ザ・パークハウス大濠翠景」「ザ・パークハウス大手門」の2物件を販売。これまでの福岡都市圏における分譲マンションの供給実績は5,722戸(引渡ベース)にもなっている。
新規開発案件では、25年の着工を目指して大名1丁目で商業ビル(予定)を計画中だという。地域に根ざす文化活動
「文化」や「コミュニティ」は、デベロッパーのまちづくりにおいて重要性を増している。一般にはあまり知られていないが、文化を開発コンセプトの中心に据えて成功した有名な事例としては、森ビル(株)の「六本木ヒルズ」がある。六本木ヒルズの開発コンセプトは「文化都心」で、最も高い賃料が見込める最上階に美術館を設置したことでも知られる。住民やテナント従業員による自治会が、毎月の清掃活動や夏の盆踊りやフリーマーケットなどを開催しており、地域コミュニティの担い手となっている。「文化」や「コミュニティ」が、六本木ヒルズの価値を下支えしているというわけだ。開業から20年以上が経過しているが、23年度の商業施設の売上高は過去最高だった。
「(仮称)天神1-7計画」の会見では、メディア関係のみならず、地域の関係者も参加しているが、経営トップが参加する再開発事業の会見では異例の対応だ。尾見惇・九州支店統括は、「具体的なことは何も決まっていない」としながらも「地域の方々とともにということが1つのテーマになっていますので、そのなかで仕掛けづくりをやりながら、タイミングが合えば(情報などを)発信していきたい」と述べた。地域文化を取り入れることが、新たな価値を生み出す核となっている。
<プロフィール>
桑島良紀(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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