2024年12月28日( 土 )

山崎広太郎元福岡市長秘書・吉村慎一氏が『コミュニティの自律経営』出版

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 元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)を出版した。福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返る一冊となっている。

地方分権推進への信念

 山崎氏は5期19年福岡市議を務め、市議会議長から福岡県知事にも挑戦し、衆議院議員を経て福岡市長を歴任した。

 吉村氏は、山崎氏を市職員や政策担当秘書として、一番身近なところから支えてきた。1985年に山崎氏の市議会議長就任で議長秘書となったことが吉村氏の出発点である。そのなかで「苦労したのが、各種イベントの招待への対応とその挨拶文の作成であった」と振り返る。

 また、陳情を行う来客が多く、「いつも待合室には人が溢れていた」そうである。当然、休憩をとる暇もなかったようだ。

 同書のなかで、山崎氏が陳情者に対する対応について吉村氏に「Noじゃなくて、Yesからだ! すぐにできないというのじゃなくて、どうやったらできるか考えろ」と発言していたというくだりがある。これは行政関係者だけでなくビジネスを行う人にとっても、「最初からできない」ではなく、「どうしたら実現できるか」について考えさせられるエピソードだと言えるだろう。

 山崎氏は、85年から90年まで、異例とも言える5年にわたって市議会議長を務めた。この時期は時代が大きく変わろうとしており、国鉄民営化など行政改革が進められ、「官から民へ」「国から地方へ」が大きな柱になっていた。その流れから、「地方分権改革」が浮上したが、なかなか具体的なかたちは見えてこなかったという。

 山崎氏は、89年に全国市議会議長会の会長に就任、地方分権改革を積極的に推し進めた。議長会会長就任の挨拶において「長年の懸案である都市への権限委譲とそれに見合う地方税財源を確保し地方分権をより実効性のあるものとしていくことが必要」と述べた。

 時の首相・竹下登氏も「ふるさと創生や地域の活性化の問題を内政上最も重要な課題の1つとして政府全体として推進を図りたい」と述べるに至った。

 地方6団体と呼ばれる全国知事会、全国市長会、全国町村会、全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村議会議長会が、現在も国と地方とのパイプ役をはたしている。山崎氏は、政治家として一貫して地方分権の推進に心血を注いだ。現在の国と地方の関係の先鞭をつけた1人といってよい。

 市議を辞任後、91年に福岡県知事選挙に無所属で立候補したが、現職の奥田八二知事に敗れ、落選した。しかし、折からの新党ブームに乗って、93年の衆院選で日本新党から立候補し、自民党の山崎拓氏や太田誠一氏、日本社会党の松本龍氏らを押さえてトップ当選をはたした。

 96年の衆院選では、中選挙区から小選挙区となり、山崎拓氏に敗れたが、98年の福岡市長選に再起を期して挑戦し、現職の桑原敬一市長を破り、当選した。

職員の意識を変えたDNA運動

 こうしてみると、山崎氏は浮き沈みが激しい人生をたどったようにみえるが、最後まで地方改革に命をかけた人生であったと思う。

 あるとき、山崎氏はこう漏らしたという。「吉村、国は地方分権なんかまったく考えていないぞ。地方が力を合わせて奪い取るしかない」。また、「都市は生き物であり、発展するか衰退するかの二者択一しかありえない」と常々語っていたという。そうした山崎氏の戦う姿勢は、地元・福岡市への期待や愛情が途轍もなく大きかったからであろう。

 2013年、記者は山崎氏を取材したことがある。市長時代の取り組みである「DNA運動」()について尋ねたところ、「『D』『N』『A』のうち、できることから始めることが一番大切だ」と述べ「目の前の市民を大事にする、それができることなんだ」と語ったのが印象深かった。

 冒頭に紹介したが、山崎氏が市議会議長時代に、吉村氏に「すぐにできないというのじゃなくて、どうやったらできるか考えろ」と言っていたことと通じる。なお、現在も全国の自治体において「DNA運動」と同様の取り組みが行われている。

自治会改革への反発と改革への決意

 全国的に評価が高かった福岡市の行政改革だったが、00年に市の経営管理委員会が「コミュニティの自律経営」を最終目標とする提言を行い、それまでの町世話人制度の見直しに着手したことが山崎氏にとって結果的に市長の座を譲り渡すことにつながった。なお、福岡市では04年から自治協議会制度の導入をスタートし、町世話人制度は廃止された。

 地域の世話人制度は、都市化した福岡市においても地域を支える機能をはたしていたことは間違いない。制度の見直しに際し、説明を行った職員に対する、世話人の方々の反発はものすごかったという。

 「地方にできることは地方で」「地域にできることは地域で」という山崎氏の信念は、通じなかったが、吉村氏は「広太郎さんならではの大転換であったように思う」と語る。

 本書では、紆余曲折がありながらも、一貫して地方分権・住民自治の実現に向けた山崎氏の取り組みが、側近として支え続けた吉村氏の視点から述べられている。

 福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕も語られている。また、そうした政策を進めるなかでの人間模様も描かれており、地方行政に関心のある人だけでなく、ビジネスパーソンにもぜひ読んでいただきたい一冊である。

 ページ数は332ページ、年表や関係文献の索引も収録されており、価格は2,200円(税込)。書店やAmazon(コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生)などで購入が可能。

※DNA運動は、山崎市長時代に、民間の経営感覚を取り入れた新しい行政経営システムとして取り組まれた ^

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