2024年11月21日( 木 )

植田ショックから大相場が始まる可能性を考える(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は8月14日発刊の第361号「植田ショックから大相場が始まる可能性を考える」を紹介する。

 2024年初以来の米国と日本の株式市場において高まっていた楽観論には、違和感を感ずる人々が多かった。8月初めの円急騰・日本株暴落と米国株式の一定の下落は、この違和感の正当性を検証するものとなった。

 違和感とは、(1)日本株高は日銀の誤った過剰金融緩和によってもたらされたバブルであること、(2)日銀が過剰金融緩和政策を止めることでバブルが萎むことの2点である。しかし株価のV回復(日経平均は25%、10,700円の暴落の後5日間でほぼ半値戻しを達成──終値ベース)により、違和感が正しくはなかったことが明らかになりつつある。とすれば株価暴落により日本株式は一段と魅力的になっている。

 好調な企業業績、急激に魅力度を強めた株式バリエーションは、日本株持たざるリスク(FOMO)を感じている全投資主体には良い買い場を提供しているのではないだろうか。むしろ、この暴落が今秋から来年への株価上昇の跳躍台となる可能性があること、を考えたい。

(1)なぜ大暴落が、大相場の始まりと考えられるのか

1.拙速な利上げは封印、安倍=黒田リスクテイク支持路線の堅持が表明された

 7月31日の日銀の拙速な利上げと、植田総裁によるタカ派スタンスの記者会見は人々を驚かせ、直後の株価暴落を引き起こした。日銀は市場(=株価)重視の政策運営をすることの緊要性を思い知らされたとみられる。これにより今後性急な金融引き締めが封印されることは間違いない。

 8月7日に内田日銀副総裁は「市場が不安定な状況で利上げすることはない。時期は選べる(behind the curveに陥っていない)。わざわざ危ない時に利上げしない。中立金利(引き締めでも緩和でもない中立水準の金利)は手探りで探すしかなく時間をかけて求め続ける余裕がある」と述べて、植田総裁の前のめりの利上げ発言を修正した。日銀内で最も影響力をもつと見られている内田氏のコメントにより、日銀が安倍・黒田リスクテイク支持路線を継続していくことがほぼたしかとなった。米国では「グリーンスパン・プット」「バーナンキ・プット」など市場が急落する場面で、中央銀行が金融を緩和して市場を支えた事例が頻発したが、日本もそうした時代に入りつつあるのかもしれない。

2.政策運営に対する審判官として株式市場が機能し始めた

 NISAによる株式投資の浸透、政府が音頭をとる「貯蓄から投資へ」がブームとなるなかでの株価暴落はニュー・エントリーの投資家に多大な損失を与えた。世論の政権批判が一気に高まり、政権にとってにわかに株安是正が緊急課題となった。日本銀行、財務省、金融庁は6日午後、国際金融資本市場に関わる情報交換会合を開催し、それを受けて内田日銀副総裁による政策修正表明がなされた。またGPIFなど政府関連の機関投資家に対する株価支持要請発動、米国当局との連携、メディア工作などが遂行されたと推察される。それが8月6日以降の株価のV字回復につながった。

 巨視的に見ると、いよいよ日本にも株式資本主義が浸透し、株安を引き起こす経済政策が容認されない時代に入りつつあるのかもしれない。今までメディア、アカデミズムを影響下に置き、思うような政策を遂行できた財務省・日銀は市場(とくに株式)という新たに登場した審判官に逆らえなくなったということである。市場の合理性により政策の可否が判定される時代に入っていく。いずれ市場の反乱により財務省の異常な財政健全化路線が拒否される時が来るかもしれない。財務省に忖度する癖がついているメディア・アカデミズム・エコノミスト諸氏は、用心をしておいたほうが良い。

図表1:主要国株価指数の推移 (2023年初以降、2009.3.9以降)/図表2:日銀の政策変化と長短金利推移

(つづく)

(中)

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