2024年12月22日( 日 )

傲慢経営者列伝(10):三菱グループを抉る(2)三菱電機は不正から再起できるか!

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 「失われた30年」──。財界の総本山・経団連の本流である重厚長大企業は、産業構造の転換が遅れ、競争力を失ったため、30年前には存在しなかった米巨大企業を中心とするIT企業の台頭で凋落の一途をたどった。かつて花形だった、日本最大の重厚長大企業集団・三菱グループの今日を抉る第2弾。「昭和は遠くになりにけり」の感を深くする。(敬称略)

「お前の肩には1,000人以上の生活がかかっている」

イメージ    三菱電機の品質不正発覚が広がった。漆間啓社長は22年5月25日、東京・丸の内の三菱電機本社で記者会見し、外部の弁護士らでつくる調査委員会(木目田裕委員長)は、新たに15製作所(工場)で計101件の不正が見つかったと明らかにした。

 今回は21年10月、12月に続く3度目の「中間報告」。これまで見つかった不正は累計で16製作所、計148件となった。調査は22製作所が対象で、7割にあたる16製作所が不正をしていたことになる。

 報告書には、製造現場での不正に絡む生々しいやりとりが並んだ。系統変電システム製作所赤穂工場(兵庫県赤穂市)では22年3月までの約40年にわたり、原子力発電所などに出荷された大型の変圧器で検査や設計の不正が続いていた。1980年代に、管理職がコスト削減のために実測値の書き換えなどを指示したのがきっかけだった。従業員が上司から「お前の肩には従業員とその家族、1,000人以上の生活がかかっている」などと言われ不正に関与させられていたという。

「言ったもん負け」の組織風土

 自動車向け製品をつくる姫路製作所(兵庫県姫路市)では、顧客が指定したものとは違う方法でつくっていた。

 「(上司に不正を)報告したとしても、担当者で解決するように言われるだけ。報告する意味はない」。姫路製作所の社員は、調査委の聞き取りに、こう証言した。理由は「顧客が指定した方法で製造するには新しい設備が必要だったが、多額の費用がかかる。量産開始までの時間もなかった」からだという。

 この部品はインバーター(電力変換器)。電気自動車(EV)のモーター回転数や出力を制御する。数多くの製品を手がける同社でも主力の1つとされる。不正状態の是正を現場が求めても、上司は「自分で解決するように」と責任を押しつけてくるだけ。それなら言わない方がいい。

 「言ったもん負け」。調査委は、三菱電機の組織風土をこう表現した。

 三田製作所(兵庫県三田市)でも「言ったもん負け」の風土は根深い。自動車の排ガスを制御するバルブ製品で、人員や設備の不足を理由に定められた検査をしていなかった。管理職は21年10月まで10年以上にわたって黙認していた。

 報告書は、不正の背景として自動車メーカーとの力関係に言及する。立場の強い自動車メーカーからかかるプレッシャー。それを受け止める仕組みが社内になく、「見て見ぬふり」をする風土が広がっていった。

風土改革は絵に描いた餅にすぎない

 長崎製作所では、1980年代から品質不正が常態化していた。

 調査委が21年10月に公表した報告書には「長崎製作所には、『言ったもん負け』の文化のようなものがある」と三菱電機の企業体質を問題視した。

 〈従業員が上司に改善提案しても、声を上げた担当者に改善作業を丸投げしてしまっては、現場は解決困難な問題であるほど報告をためらうようになる。長崎製作所のある従業員は「言い出した者がとりまとめになり、業務量の調整もしてもらえないので、単純に仕事が増える」と証言。担当者たちは不満を抱え「公の場では何も言わず、飲み会や雑談の場でだけ職場の問題を話す」という〉

 報告書からは、本社部門や管理職に対し、現場従業員が不信感を持つ様子が浮き彫りになった。その後も不正が次々とあぶり出された。

 この日、会見した漆間啓社長は、これまで明らかになった148件の不正のうち、管理職が不正を把握、関与していたのは15件にのぼることから、「上長が関わっていたことは組織ぐるみと考えざるを得ない」と認め、「私の責任は全容解明し風土改革をすることだ」と述べた。

 だが、風土改革に特効薬はない。「言ったもん負け」の企業文化は、日本の組織のどこにでもある。基本的には、責任のある立場の人が、問題があれば隠蔽するのではなく解決していくという空気をつくっていくしかないが、簡単なことではない。三菱電機の自浄能力に疑問符がつく。

(つづく)

【森村和男】

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