2024年11月14日( 木 )

第2次トランプ政権と日米関係

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

国際政治学者 和田大樹

 世界が注目した米大統領選挙は、共和党候補のトランプ氏が勝利した。選挙前の世論調査では、トランプ氏とハリス氏の支持率が拮抗し、まれに見る大接戦が予測されていたが、いざ開票作業が始まるとトランプ氏の圧勝、ハリス氏の大敗だった。トランプ氏は選挙戦の行方を左右するペンシルベニアやジョージア、ノースカロライナなど激戦7州を全勝、過半数の270人を大きく上回る312人の選挙人を獲得するだけでなく、2016年と20年を上回る獲得票数を記録するなど、トランプ氏にとっては最高の選挙戦になったといえよう。では、第2次トランプ政権下の日米関係はどうなっていくのだろうか。日米関係 イメージ

    筆者は8年前のちょうど今頃を思い出す。ヒラリー・クリントン氏とトランプ氏との一騎打ちの末、トランプ氏が勝利したが、この当時、多くの人はクリントン氏が勝利すると予測していた。過激な発言を繰り返すトランプ氏が勝利したことで、日本国内でもどうやって日米関係をマネジメントしていけば良いのかと不安の声が広がった。しかし、それを払拭したのが安倍元総理だった。トランプ氏の勝利宣言直後、安倍氏はトランプ氏がいるトランプタワーを外国の首脳として一番早く訪問し、黄金のゴルフクラブを手土産にするなど、親密な関係づくりに努めた。それが功を奏し、両氏は毎回のようにゴルフ外交を行い、安倍氏はトランプ氏の外交上の親友になることに成功し、安倍・トランプ時代の日米関係は当初の不安が嘘であるかのように良好なものだった。

 トランプ氏は原理や原則、自由や民主主義などの理念ではなく、自国第一主義のもと米国の経済的利益を最大限引き出そうとする実利、ディール外交を基本とする。また、国家と国家ではなく、個人と個人の関係を重視することから、石破首相には安倍氏のように個人的な友情関係をつくっていくことが求められる。しかし、石破・トランプ関係の行方について、「石破氏は安倍氏ほどゴルフ通ではない」、「両氏の性格的な相性はそれほど良くないのでは」などの声が専門家から聞かれ、難しい舵取りになる可能性が指摘されている。

 筆者としても、石破・トランプ関係が安倍・トランプ関係ほど友情にあふれたものになる可能性は低いと考えるが、トランプ氏も米国大統領として政権1期目に良好な日米関係を経験し、外交では安倍氏に助けられた部分もあり、日本との関係は重視してくるものと思われる。また、「中国には負けない」という姿勢はバイデン大統領だろうがトランプ氏だろうが変わるものではなく、そのためには日本との関係が重要であることは一目瞭然であり、トランプ氏も大統領として、そのあたりを配慮してくるだろう。トランプ氏は、防衛費増額や最新鋭の戦闘機の購入、思いやり予算の増額など日本に負担を要求するであろうが、石破氏がトランプ氏との関係構築に尽力すれば、それほど大きな問題にはならないと考える。 

 問題は石破氏がトランプ氏の親しい友人になれるかというよりも、石破政権の政治的脆弱性だ。安倍・トランプ関係が長期間にわたって良好だったのは、安倍氏がうまくやったという点もあるが、安倍政権の政治的基盤がしっかりとしていたことが要因として挙げられる。しかし、石破政権は少数与党の状況であり、今後の政権運営は難しいものになることが予測される。内政に時間を割くことを余儀なくされ、外交で十分な力を発揮できなくなる状況が訪れるだけでなく、政権交代の連続が生じる可能性も排除できない。トランプ氏はそれに対して「日本は交渉相手にならない、米国にとって不安定要素だ」などとして、日本の優先順位を低下させることが考えられよう。


<プロフィール>
和田大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

関連キーワード

関連記事