第2次トランプ政権と日本経済への影響
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国際政治学者 和田大樹
11月5日投開票の米大統領戦の結果、トランプ氏が再選をはたした。トランプ氏は過半数の270人を大きく上回る312人の選挙人を獲得するだけでなく、2016年と20年を上回る獲得票数を記録するなど、開票作業が始まってみるとトランプ氏の圧勝だった。ハリス氏が獲得した選挙人は226人にとどまり、民主党内部では歴史的敗北の原因はバイデン大統領がもっと早く選挙戦からの撤退を決めなかったからだとの批判も上がっている。では、トランプ氏がホワイトハウスに戻ることで、日本経済にはどのような影響が考えられるのか。
始めに指摘しておきたいことがある。トランプ氏が再選をはたしたことで、一部で米中貿易戦争が再び勃発するというような論調が見られるが、それは現在進行形の現象であり、決して再来するものではない。17年1月に発足した第1次トランプ政権は、米国の対中貿易赤字を是正する手段として、18年から4回にわたり、中国製品に最大25%、計3,700億ドル相当の関税を課す制裁措置を次々に発動した。
それによって、いわゆる米中貿易戦争が勃発し、世界経済は大きな不安定要因を抱えることになった。第1次トランプ政権によって歯車が狂った米国をリセットすることを訴えて当選したバイデン大統領ではあるが、対中国という点ではトランプ氏の姿勢を継承した。バイデン政権は新疆ウイグルの人権問題や中国による先端半導体の軍事転用防止という観点から、22年6月のウイグル強制労働防止法の施行、22年10月の米国による先端半導体分野での対中輸出規制などのように、中国に対する貿易規制措置を強化していった。トランプ氏は選挙期間中から中国製品に対して60%の関税を課す、諸外国からの輸入品に10%から20%の関税を課すなどと主張しており、第2次トランプ政権は第1次トランプ政権、バイデン政権というかたちで対中姿勢を継承していくことになる。よって、これは現在進行形の現象なのであり、第2次トランプ政権から次の政権にも受け継がれていく可能性が高い。
第2次トランプ政権による日本経済への影響であるが、上述のようにトランプ氏は中国を除く外国製品に10%から20%の関税を課すと主張しており、これは政権発足後に実行に移されていくことになろう。今回の選挙で、トランプ氏は獲得した選挙人で圧勝し、獲得票数も過去2回の大統領選挙と比較して最多を記録し、上院でも共和党が過半数を占めるなど、この上ない環境にある。しかも、2期目の政権運営は再選リスクを考える必要がないので、1期目以上に強い、大胆なアメリカファーストが経済や貿易の世界で表現される可能性があろう。要は、もっと過激な貿易規制措置が発動されるシナリオが考えられるということだ。
トランプ氏がバイデン政権下で激化した半導体覇権競争にどう対応していくか不透明な部分もあるが、仮に先端半導体分野の対中輸出規制をさらに強化する場合、日本に対して同調を要求するケースが想像できる。また、バイデン政権の時と比べ、トランプ氏がもっと強い態度で対中輸出規制に同調するよう日本に圧力を掛けることも考えられる。そこで日本がトランプ氏の納得しないような姿勢を示せば、直感で判断する傾向が強いトランプ氏が日本に対して疑念を抱き、何かしらの経済的な圧力を示してくる可能性がある。
<プロフィール>
和田大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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