かつての天神ランドマーク イムズの追憶(後)
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イムズの経験を糧に三菱地所もレベルアップ
その一方で有馬氏は、当時の三菱地所による開発手法に対して、厳しい意見も寄せる。
「イムズは福岡における『コト売り』の走りであったことは間違いありませんが、今にして思えば、開発を担当する三菱地所としては『良いハコをつくって良いモノを入れればいい』というような意識も見え隠れする、ハード先行の開発であった面も否めません」(有馬氏)。
たとえば、地下部分からカーブを描いて緩やかに上るスパイラルエスカレーターや、吹き抜け部分に備わったシースルーエレベーター、地上4階部分の自動車展示場への車の搬入用エレベーターなどは、たしかに当時の最先端の設備であり、その目新しさが集客に寄与した面もたしかにある。だが、有馬氏にいわせれば、それらの設備がイムズに備え付けられたのは、当時の三菱グループの製品力を知らしめるための“見本市”のようなものだという。
「たしかに1つひとつの設備はすごいのですが、施設全体として見ると、たとえば業種別の動線計画がめちゃくちゃだったり、『コト売り』とはいえ物販を行っているにも関わらず、商品在庫を抱えるためのバックヤードスペースが貧弱だったり…。また、上層部の飲食店街と中層部以下の店舗スペースとの営業時間がかみ合っておらず、たとえば夜に飲食をしたお客が帰る際には、すでに営業時間が終了して真っ暗になったフロアを通っていかなければならない、といったようなケースもありました。極めつけは、『モノを売るための建物』と『家賃を取るための建物』の考え方がごっちゃになっていて、当初は総床面積に対して賃料を取れる面積の割合の試算などもできていなかったと記憶しています」(有馬氏)と手厳しい。
ただし、有馬氏によれば、三菱地所側はイムズの開発を通じて都心型商業施設におけるノウハウを蓄積し、手法をブラッシュアップ。その後の開発では、イムズのときとは比べものにならないくらい完成度が上がっているという。
「三菱地所はイムズで経験を積んだことで、その後に手がけた横浜・みなとみらい地区や東京・丸の内の開発などでは、いろいろと洗練され、こなれていっているように感じます。イムズは三菱地所にとっても初の都心型商業施設でしたから、手探りの部分も多々あったと思いますが、イムズの経験がその後の開発をレベルアップさせたのであれば、多少なりとも関わった人間としては嬉しい思いです」(有馬氏)。
イムズは消えるとも受け継がれるイズム
「イムズはおわる。イズムはつづく。」──そんな言葉を残しながら約32年の歴史に幕を下ろし、21年8月末をもってイムズは閉館した。イムズの閉館前の1カ月間は、これまでともに天神を盛り上げてきた13の商業施設(大丸、三越、岩田屋、VIORO、ソラリアプラザ、ソラリアステージ、レソラ天神、新天町、パルコ、天神地下街、ノース天神、ミーナ天神、天神ショッパーズ)から、懸垂幕や館内ポスター、SNSなどでイムズに対するお別れメッセージが送られた。また、それを受けてイムズ側も懸垂幕で、とくにライバル的な5つの施設(大丸、三越、岩田屋、パルコ、ソラリア)に対して、「これからの天神を任せた」的なエールを返している。こうしたライバル商業施設同士の粋なやり取りが繰り広げられる光景からは、イムズが天神に植え付けた“文化の芽”が、30年を経て順調に育ってきていることを感じさせる。
なお現在、すでに解体が完了してしまったイムズ跡地では、三菱地所による次なる再開発プロジェクト「(仮称)天神1-7計画」が今年5月に着工し、鋭意進行している。「(仮称)天神1-7計画」は、オフィス・ホテル・商業機能を集約した地上21階・地下4階建の大型複合ビルとなる予定で、米シアトル発のホテルブランド「エースホテル」が入る。建物外装に九州産材のCLT(直交集成板)のパネルと植栽を有機的に配置するほか、建物低層部にはV字柱と吹き抜け空間を整備することで、シンボリックかつランドマーク性の高いデザインを実現。イムズとは違ったアプローチで個性的なビルをつくろうとしている。
着工時に開催されたプロジェクト発表会において、三菱地所の中島篤社長は、「イムズを通じて成長した人材が、三菱地所グループが展開する国内外の各地域におけるプロジェクト、その屋台骨となっています。それは、イムズが目指したコンセプトの1つ、人育て・まち育ての体現であり、天神1-7計画においても、この思想を体現していきたいと考えております」と発言。イムズで経験を積んだことで、その他エリアで洗練された開発を行えるようになった三菱地所が、改めてイムズ跡地に凱旋して後継施設を開発しようとする様は、何とも感慨深い。
約30年という短い期間ながら、天神の歴史に閃光のように現れ、まばゆい光跡を刻んだイムズ。後継施設となる「(仮称)天神1-7計画」がイムズの“イズム(思想)”を受け継ぎ、天神の魅力をさらに一段上のステージに押し上げてくれることを心から期待したい。
(了)
【坂田憲治】
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