2024年12月22日( 日 )

トランプ政権下の日米関係 日本に求められるテクニカルな話術

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

国際政治学者 和田大樹

日米関係 イメージ    来年1月にトランプ氏が政権に返り咲くため、各国はすでにトランプ外交を展開し始めている。カナダのトルドー首相は、フロリダにあるトランプ氏の自宅を訪問し、夕食を共にしながら健全な両国関係の構築に向けて尽力した。なお、トランプ氏は、今後フランスを訪問する予定だという。

 一方、トランプ氏は日本製鉄による米国の大手鉄鋼メーカー・USスチールの買収計画について、かつて強力で偉大だったUSスチールが日本製鉄に買収されることに全面的に反対し、この取引の実現を阻止すると自身のSNS上に投稿した。

 昨年12月、日本製鉄とUSスチールは買収で合意したが、米国を政治的、軍事的、経済的に世界ナンバーワンの国家にするという野心に燃えるトランプ氏がこの問題で妥協するとは考えにくい。しかも、それを主張してきて大統領選で圧勝したことから、この問題を機に直感的に日本企業に対するイメージを悪化させる可能性すらある。

 今後の4年間、日本には安定した日米関係が必要となる。そのためには石破首相がトランプ氏と良好な関係を築くことが絶対条件となる。では、どういったかたちで石破首相は対トランプ交渉を進めていく必要があるのか。

 まず、絶対に避けたほうが良いケースを述べる。バイデン大統領と違い、トランプ氏は自由や人権、民主主義などといった価値や理念に重きを置かず、米国の利益を最大限引き出し、米国が最大限負担を負わず、「こっちがやったんだから相手も見返りを提示しろ」というディール外交を基本とする。よって、その性格や方針を理解したという前提で、石破首相は「日米は自由や民主主義といった価値観を共有している」「我々は中国の海洋進出やロシアのウクライナ侵攻などの権威主義に負けてはならない」「台湾は民主主義と権威主義の戦いの最前線にある」などといった理念主義的な言動を全面に出すことは避けたほうがよいだろう。そうすれば「日本は、石破総理は自分に合わない人物」と判断され、これまでの日米関係が後退に向かうリスクがある。

 そういった価値が重要であることはいうまでもないが、何がどう米国にとってメリットになるのかを具体的に説明するテクニックこそ石破総理には求められる。たとえば日米首脳会談においては両国関係がいかに米国にとって利益となるか、日本企業の米国企業買収によって、むしろ米国経済にはプラスになるなどといった米国目線での交渉を開始し、それを日本の国益と合致させて考えることが極めて重要となる。

 また、これまでの発言や投稿を踏まえると、トランプ氏は米国が最強国であることに強いプライドをもっており、それを覆そうとする中国に強い執着心があると見られる。たとえば「中国の海洋進出に対抗するために米国にとって日本は重要なパートナーとなる」「米国がアジアへの関与を薄めたら、米国の同盟国は米国を最強国と思わなくなる」など、トランプ氏を誘うようなテクニックで交渉を進めることも有益だろう。


<プロフィール>
和田大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

関連キーワード

関連記事