九州の観光産業を考える(27)没入感へ導くイルミ・マジック
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観せたい!を際立たす
街中にX’masの電飾がまだ残っているだろうか。トナカイの牽くソリで中空を行くサンタなど、多色のオーナメントが年の瀬になるとここかしこに見られ、そうした街区への訪問動機を喚起して久しい。迎えて新年、正月飾りに衣替えを済ませた門には、きらめく福がそうそうと訪れる。
イルミネーションにより気分を揚げ揚げにしていくのは、先史時代、洞窟の奥に身を寄せ合い、漆黒の夜に恐怖を覚えた原人のDNAのなせる業やもしれぬ。電気を手に入れた現代人は、安全でコントロールの効く光を嬉々としてエンターテインメントに用いる。
神戸ルミナリエが1995年冬に初実施されたとき、革新的なその光の幻想空間は、まるで光の滝壺にはまり込んだように止めどない光のシャワーを行き交う人々に浴びせた。同年1月の大震災による犠牲者への鎮魂と復興への願いを開催主旨とするこの事業は、昼の街並みが夕闇に沈んだ後、宮殿回廊をまばゆく浮かび上がらせ、人々にひととき勇気をもたらした。筆者は溢れる光に、ゲップが出るほど満腹感を覚えた。
光観光の並走と進化
プロジェクションマッピングが覇権を握って久しい。2012年、大改修を終えた東京駅丸の内駅舎に映し出されたそれは、見ごたえあるものだった。以降、全国各地でプロジェクションマッピングが見られる端緒だったように記憶する。
“Son et Lumiere(ソン・エ・ルミエール)”という大掛かりで壮麗な幻燈ショーは、夜の観光プログラムとしてエジプトのピラミッド、フランスのヴェルサイユ宮殿など歴史的構造物を巨大スクリーンに見立て、各国の観光地で上演されている。遺構の物語を、ナレーションに合わせ照らし出す。我が国では安芸の宮島 ・厳島神社で実施された。
ライトアップを起点とする光のショーは、今やドローン大編隊が描き出す中空のLEDアニメーションへも領域を広げる。無地の夜空をキャンバスに、立体的な構図で文字や絵柄を正に浮かび上がらせる。アメーバーのように変幻自在な光の群舞が、さらにどう進化していくか楽しみだ。
「暗転」という舞台演出
大規模なマジックショー“イリュージョン”では、まぶしい照明を観客側に向け、一時的に視野を制限しトリックを完成させる技法がある。気づかないうちに狭まった視野あるいは暗黒を一瞬経た瞳孔は、突如眼前に出現する光景に驚嘆する趣向。
街中の、沿道の光の帯も同様の効果を起こす。点灯シーンのどよめきを思い起こすとよい。日暮れ時の日常が、瞬時に非日常の景色に変転する。人々は降り注ぐ微光のフェアリーダストを浴びて、甘美なマジックワールドに幻惑される。
ただ、地域の観光施策連携という面で、地方都市の不首尾は嘆かれる。ナイトエコノミーは、光に照らされる主役よりは、むしろ漏れ出る明かりの縁辺にある商業者にこそ稼ぎ場を広げてほしいのに、地方小都市は夜8時も過ぎると、一般店は軒並み戸口を閉めてしまう。欧州の国々のように、夜のスポーツ観戦や観劇の後、街に繰り出し飲食をはじめ大いに弾けようという構図にはない。地方自治体や観光事業者が夜遅くまで地域自慢を煌々と照らしたりLEDを明滅させたりしても、その人出をすくい取る商いが同期しなくては、ただ無駄な電力消費で終わってしまう。
野暮な骨組み消失
かつてそびえて立っていたはずの天守を、光の点描で再現する手はある。天守閣をコンクリートなり木造なりで実物大に復元整備しようとなれば、大変な資金と日数が必要だ。国の許諾、市民のコンセンサスも得なくてはならない(本誌vol.72[24年5月末発刊]記事参照)。
夜の帳に輝点を連ねて線を想起させ、矩形を浮かび上がらせる試みは、24年春に「福岡城の天守閣ライトアップ」としてなされた。幻の天守閣の輪郭を描き出す輝点を仕込む足場を築くため、昼間の見栄えに目をつむる必要はあったが、拍手喝采の取り組みだ。
妥協のシロモノをこしらえてしまうより、アウトラインを夜の漆黒に浮かび上がらせ、劇的に想いをめぐらせることのできる仕掛けはないものだろうか。
01年9月11日──「9.11」のアメリカ同時多発テロ事件から10年後、隣り合う2棟の超高層ビルが占めていた空間に、強力なサーチライトが天空へ向け放たれた。「追悼の光」は、かつてそこにあったシンボリックな名建築と尊い命の営みを思い至らせるものだった。
たとえば再築城に関しては、ひとまず仮設的なプロセスを踏むものでよいと思う。平城なり山城なり、かつてそこにそうした形状のものがたしかな質量をもって鎮座し城下を睥睨していたことを、輝点の造形を見上げる人は想像し、本格再築城への機運を高めていくやもしれない。
暗がりのなか、光の明滅によってないものをあるように見せる。イルミネーションの新領域は、真正や実体へ向かうための機運づくり、あるいは現状では再築困難なものを記憶の淵から蘇らせ、いつの機会か、採り得る手段を導き出し、地域のシンボルあるいはモニュメントとして降臨を誘う手段と考えられる。
ドローン編隊の輝点が天守台の上に大櫓のアウトラインを描き、フォーメーションを組み換えては物語のシークエンスを次々に展開させる。マーチングバンドの秀逸な隊形推移のように。想像して心弾む。
<プロフィール>
國谷恵太(くにたに・けいた)
1955年、鳥取県米子市出身。(株)オリエンタルランドTDL開発本部・地域開発部勤務の後、経営情報誌「月刊レジャー産業資料」の編集を通じ多様な業種業態を見聞。以降、地域振興事業の基本構想立案、博覧会イベントの企画・制作、観光まちづくり系シンクタンク客員研究員、国交省リゾート整備アドバイザー、地域組織マネジメントなどに携わる。日本スポーツかくれんぼ協会代表。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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