2025年01月08日( 水 )

【新春トップインタビュー】取引適正化の推進などに力を入れ 「信頼される商工会議所」を目指す

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福岡商工会議所
会頭 谷川浩道 氏

福岡商工会議所 会頭 谷川浩道 氏

 約1万9,700社の会員数を抱え、全国でも有数の規模と活動実績を誇る福岡商工会議所。九州・福岡にはTSMCの進出など経済成長を後押しする多くの要素があるとはいえ、中小企業は円安などで大きな影響を受け、かつ価格転嫁が難しいという困難な状況にある。同所会頭の谷川浩道氏は、この「取引適正化」は人材不足、デジタル化、事業再構築など中小企業が直面している課題とも関連していると指摘し、その解決に向け今年も引き続き注力するとしている。谷川氏に昨年を振り返ってもらうとともに、今年の抱負を語ってもらった。

激動の24年を振り返って

 ──昨年1年を振り返って、どのような年でしたか。

 谷川浩道(以下、谷川) 昨年は元日に能登半島地震、翌2日に羽田の航空機事故、さらに3日には小倉の鳥町食道街での火災と、嫌なムードでの年明けとなりました。

 そして、世界も激動の1年でした。アメリカでは「もしトラ」が「またトラ」となり、欧州ではドイツやフランスでも政治が流動化しました。中東ではガザの紛争が続き、シリアでは50年続いたアサド政権が崩壊するという歴史的な変動が起きました。さらに、隣国の韓国では、ユン大統領が弾劾されるという事態になっています。

 一方で、私たちを明るくさせてくれる話題も多くありました。

 まずは、やはり大谷翔平選手の大活躍です。「50-50」という歴史的偉業を成し遂げ、私たち日本人に勇気と希望を与えてくれました。

ソフトバンクホークスの優勝パレード
ソフトバンクホークスの優勝パレード

    そして、福岡ソフトバンクホークスの4年ぶりのリーグ優勝も忘れることができません。優勝パレードでは、沿道に28万人ものファンが集まり、熱い声援が響き渡りました。スポーツを通じて街が一体となり、地域の活気を再確認した瞬間でしたね。
 

元気な福岡経済の課題は

 ──日本および九州・福岡の経済情勢についてどうご覧になりますか。

 谷川 日本経済は、全体として回復傾向にありますが、なかでも九州・福岡の地域経済の元気のよさは全国でも際立っていると思います。その要因には、ビッグプロジェクトがいくつも進行していることがあります。

 とくに象徴的なのが、TSMCの熊本進出です。単に半導体の製造拠点ができるということにとどまらず、物流拠点の拡大や住宅・小売サービス需要の拡大、新駅の設置など、10年間で約20兆円ともいわれる波及効果が九州各地で現れ始めています。

 さらに、円安を背景にインバウンドが増加し、2024年の「九州への外国人入国者数」は過去最高を更新しました。

 福岡市においては、天神ビッグバン等の再開発プロジェクトが佳境を迎えています。これが、福岡のさらなる成長を後押しする重要な起点になると思います。

 ──九州・福岡には経済成長を後押しする要因が多くありますが、一方で実現のために解決すべき課題はどのようなものでしょうか。

 谷川 もちろん、私たちが目を向けるべき課題もあります。とくに、円安が中小企業に与えている影響は深刻です。現在の円安は、主に欧米との金利差を背景に進行していて、それによって大企業は為替差益で大きな利益を生んでいます。しかし中小企業は、円安がもたらす利益を享受できるどころか、むしろコスト上昇が経営を圧迫し、厳しい状況に追い込まれています。

 さらに、中小企業は大企業と異なり、価格転嫁が難しい状況にあります。全国平均で見ても、価格転嫁率は49.7%にとどまり、福岡県では40.5%しか転嫁できていません。これは、コスト上昇分の半分も価格に反映できていないことを意味しており、中小企業の経営を一層厳しいものにしています。

中小企業の経営課題は

 ──福岡商工会議所の昨年の事業を振り返ってみて、いかがでしょうか。

 谷川 当所の事業については、新たな中期方針のもと、事業者の自己変革を促すべくさまざまな活動に取り組みました。

 まずは、「取引適正化」、すなわち適正な価格での取引の実現に向けた取り組みです。福商ではこれまで、取引適正化の関連施策や「パートナーシップ構築宣言」の登録を推進してきました。1月から4月にかけては、職員が福商の議員企業約120社を全軒訪問して取引の実態や課題をヒアリングするとともに、同宣言の登録を呼びかけて回りました。

 しかし、情報発信だけでは価格転嫁は進みません。より踏み込んだ取り組みが必要だということで、5月には価格交渉や価格転嫁に関する相談窓口を開設しました。窓口の専門家が、各社の実態に合ったアドバイスをしています。これは九州の商工会議所で唯一の取り組みです。

 ──先ほども中小企業のお話がありましたが、どのような経営上の課題があり、その解決を支援するためにどのような取り組みを行っておられますか。

 谷川 中小企業にとって深刻な経営課題の1つが人手不足です。それを解決する有効な手段が、デジタル活用による省力化です。そこで、中小企業のデジタル化・DXを後押しするため、「FUKUOKA DIGITAL BOOST」を開催し、最新のデジタルツールの展示・体験や最新情報の提供セミナーとともに、個別相談に対応しました。

 さらに、販路拡大支援策として実施した九州・山口の農産品・加工食品の展示商談会「Food EXPO Kyushu 2024」では、過去最多となる291社・団体が出展し、国内外への販路拡大を狙う企業・団体たちが商談に臨みました。

FUKUOKA DIGITAL BOOSTの様子
左:FUKUOKA DIGITAL BOOSTの様子
右:クリエイターとの商談会の様子

福岡のまちづくりに 歴史・文化を活かす

 ──福岡商工会議所では、歴史・文化を活かしたまちづくりにも取り組んでおられます。その進捗についてうかがえますか。

 谷川 当所では、23年に地域の有志や有識者とともに「福岡・博多の歴史・文化を活かしたまちづくりに関する『15の提言』」を公表しています。そのうち、24年の主だった活動の1つが、「福岡城天守の復元」に関する議論です。

 まず、3月に山中伸一・元文部科学事務次官を座長とする「福岡城天守の復元的整備を考える懇談会」を設置しました。以降、6回にわたり議論を交わしてきました。8月には「福岡城天守の復元について考える市民フォーラム~お城のあるまちづくり~」を開催したのですが、当初設定していた定員を大幅に超える450名もの方にご参加いただきました。当日、急遽予備の椅子を座席として準備したほどです。

「福岡城天守の復元について考える市民フォーラム」の様子
「福岡城天守の復元について
 考える市民フォーラム」の様子

 ──想定以上に市民からの大きな反響があったということですね。実際に復元に取りかかることについての反応はどのようなものでしょうか。

 谷川 こうした取り組みやメディアの発信、そして福岡市が実施した「幻の天守閣」ライトアップ事業の効果も相まって、市民の関心は着実に高まっていると感じています。実際、9月に実施した市民向けのアンケートの結果では、概ね8割のほうが復元について前向きに捉えているようです。

 先日、天守に関する新しい史料が発見されたとの報道もありましたが、これを機に市民が地元の歴史に思いを馳せ、福岡城址の在り方について活発に議論を展開することを願っています。

取引適正化などに注力

 ──福岡商工会議所として、今年はどのような取り組みを予定されていますか

 谷川 「取引適正化の推進」は、引き続き重要課題の1つです。一部では、「価格転嫁は進んでいて、残りは労務費」との認識があるようですが、それは大企業や中堅企業が集積する東京や三大都市圏での話です。地方の中小企業では、コスト上昇分の半分も転嫁できておらず、まだまだ「緒についたばかり」なのです。

取引適正化推進相談窓口    中小企業は、この他にも人手不足やデジタル化、事業再構築といった課題に直面していますが、実はこれらと「取引適正化」は互いに密接に関係しています。適正価格での取引によって収益を確保し、それを原資に賃上げやデジタル化投資を進める。この流れが、中小企業の経営課題の解決につながっていくのです。取引適正化の実現には、地域や業界ごとの実態に即したきめ細かな対応が必要です。

 商工会議所として、実態の把握や行政への訴え、関連施策の周知など必要な方策に全力で取り組む所存です。また、中小企業の課題解決に向け、各種施策を活用しながら包括的にサポートできるような支援体制を整えていきたいですね。

 「福岡・博多の歴史・文化を活かしたまちづくり」についても、「15の提言」の実現に向け、今年も邁進していきたいと思います。

 ──最後に、読者に向けて、今年の抱負をお聞かせいただけますか。

 谷川 私たち企業にとって、これからの時代に必要なのは、自らの足で立ち、強く進んでいく姿勢です。厳しい状況であっても屈せず、周囲や環境に依存するのではなく、逆境を乗り越えようとする姿勢です。どうか皆さまも、それぞれの持ち場で自らを高め、挑戦し、共に新しい時代を切り拓いてまいりましょう。

 私ども商工会議所は、引き続き会員や地域の皆さまにとって「行動する商工会議所」「役に立つ商工会議所」「信頼される商工会議所」を目指してまいります。

 会員企業の皆さまの新たな挑戦を後押しするため、全力を尽くしてまいる所存です。

【茅野雅弘】


<プロフィール>
谷川浩道
(たにがわ・ひろみち)
1953年福岡市生まれ。76年東大法学部卒業、大蔵省入省。財務省横浜税関長、大臣官房審議官、(株)日本政策金融公庫常務取締役などを経て、2014年、(株)西日本シティ銀行代表取締役頭取就任。16年、西日本フィナンシャルホールディングス代表取締役社長就任。21年6月、西日本シティ銀行代表取締役会長(現任)兼西日本FH代表取締役副会長、福岡商工会議所会頭に就任。24年6月、西日本FH代表取締役会長就任(現任)。

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