【マックス経営講座】中小企業の生き残り戦略 (7)企業価値向上につながる『人的資本経営』の取り組みについて
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はじめに
今回は、前回お話した企業価値向上に不可欠な『人的資本経営』の考え方について、具体的なストーリー展開の例を用いてお話します。
『人的資本経営』の具体的な取り組み例
まず、取り組みの第一歩として、人件費(教育研修費などを含む)をコストではなく投資と捉えた場合、取り組みの目的と投資効果の目標を設定することが重要になります。その流れをわかりやすくするため、実態に即しているとは限りませんが、医療機器販売業(A社)の例を、あえて数字を交えて話を進めます。
まず、A社の現状と問題点の把握から出発します。A社は、営業担当者(6名)全員が頑張って自社製品を導入してもらうため、病院への営業活動を行っています。月平均1人あたり約40件の訪問実績がありますが、そのなかで、訪問後に医療機器のデモ依頼を受ける件数は平均して20件くらいです。ただ、デモ機の試用期間が終了した後に営業担当者が病院に対して、導入した場合のメリットを具体的に提案できている件数は5件程度で、ここの割合がボトルネックとなって成約件数が平均して月1件と停滞している状況です。提案率が低い原因を営業会議などで分析した結果、営業担当者のやる気の問題というより、病院の真のニーズを担当者が正確に把握できていないことが、そもそもの原因であろうという結論に至りました。
そこで、営業担当者のヒヤリングスキルを上げるため、A社は営業に特化したカウンセリング・コーチングの研修を受講させることにしました。ここで重要なポイントは、営業担当者全員に研修を受けさせる費用を投資と捉えた場合、その効果をどの程度と見込んで目標を設定するかです。細かい金額の計算過程は割愛しますが、仮に研修費予算が総額120万円とした場合、研修で学んだスキルを生かして1人あたり平均で現在の3倍の3件の成約を継続して獲得できれば、研修にかかるその他の諸費用や営業担当者が研修に拘束されることによる一時的な成約件数の減少を考慮しても粗利の増加3カ月分で回収可能と試算されました。それを基に、提案率をKPI(プロセス指標)、成約率をKGI(ゴール目標)として、現在のデモ依頼件数20件をベースに目標を設定しました。その実現に向けては、各営業担当者が研修による成果をどう営業に生かしていくかを自身で考えて行動に移す習慣をつくっていくことも重要になります。
「企業価値向上」への道筋
営業職を具体例として『人的資本投資』の目標と効果について見てきましたが、もちろん製造業の現場従業員や総務・経理等の間接部門スタッフについても同じような流れで人的資本経営を実施できます。
経営者としては、自社にとって今後どんな人材が必要になるのか、そのためにはどういう投資をしないといけないのかを考えることが重要です。投資が成果を生む流れができれば、企業内で “成長と分配の好循環” が生まれ、賃上げの実現やさらなるスキルアップを通じて従業員のモチベーションも高まり、離職率が下がることで自社の持続的な成長が可能になります。ただ、最初の出発点は、今回のように課題解決の観点からスタートして長期的な企業価値向上につなげていく方が、取り組みやすいかと思います。
まとめ
中小企業は、人の採用にはコストをかけたとしても、採用後はいかにコストを抑えるかという思考に陥りがちです。しかし、人的資本への投資は、コストではなく未来への投資です。目先の業績向上も無視はできませんが、もう少し長いスパンで3~5年後のビジョンを実現するために、従業員の能力を最大限に引き出す成果測定や評価の仕組みが必要になります。次回は、これまで解説してきた人的資本への投資も重要な要素として深く関わるDX(デジタル・トランスフォーメーション)について、経営戦略的な観点からお話を進めていく予定です。
<INFORMATION>
(株)コンシャスマネジメント
所在地:福岡市中央区天神1-4-1
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TEL:092-736-7528
<プロフィール>
(株)コンシャスマネジメント代表取締役/中小企業診断士
西岡隆(にしおか・たかし)
大学卒業後、会計事務所、監査法人などを経て2001年中小企業診断士登録と同時に西岡経営管理事務所を開設。21年、事業拡張にともない(株)コンシャスマネジメントを設立法人名
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