2025年01月22日( 水 )

【新春トップインタビュー】福岡の未来を支える人づくりを軸に、設立50周年を超えて貢献を続ける

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(一社)福岡県中小企業経営者協会連合会
会長 小林専司 氏

 中小企業をサポートすることで地域経済の活性化に貢献する経済団体である中小企業経営者協会(以下、中経協)。福岡、北九州、筑後、筑豊の福岡県内4地区の中経協を総括する(一社)福岡県中小企業経営者協会連合会は、4つの中経協相互の交流促進、企業価値向上へ向けた人材育成などに取り組んでいる。同会の小林専司会長に、50周年事業を振り返るとともに2025年における方針について話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉直)

50周年迎えた中経協連合会 中小企業の人材育成を支援

(一社)福岡県中小企業経営者協会連合会 会長 小林専司 氏
(一社)福岡県中小企業経営者協会連合会
会長 小林専司 氏

    ──(一社)福岡県中小企業経営者協会連合会は2024年で50周年を迎えたそうですね。おめでとうございます。

 小林専司氏(以下、小林) ありがとうございます。かつては福岡県内にある4つの中経協は、各々の信念に基づき活動していましたが、より大きな力を発揮するためには連合会としてまとまった動きも重要であると考え、まずは合同例会というかたちで、すべての会員企業が顔を合わせる機会を設けました。はじめは弱かった連合会としてのつながりも、例会を重ねるなかで強固になっていきました。実は24年に50周年を迎えたのは中経協連合会と福岡中経協のみで、他地区はもう少し後になってつくられた団体です。それでも全員が同じ中経協の歴史を背負っている一員として、共に50周年を祝うという姿勢で50周年記念事業に取り組みました。

 ──10月11日に50周年記念事業として講演会を開催されました。

 小林 「感謝、そして未来へ」というテーマで開催しました。第1部で行われた片づけコンサルタントの近藤麻理恵氏による特別講演は「片づけから見えた世界、そして未来」という題でした。近藤氏は約1時間の講演のなかで、片づけの方法だけではなく、哲学的な面についても話してくださいました。たとえば、自分が「ときめく」ものだけを残して、次へと旅立つという考え方です。私たちは捨てるのは悪いことだと考えてしまいがちですが、これまでの感謝の気持ちをもったうえでそれに固執せず、未来へと歩んでいく姿勢が大事だと気が付かされました。日常生活にも役立つ講演内容でしたが、そういった精神性は経営においても大いに参考になる話でした。

50周年記念事業パネルディスカッションの様子
50周年記念事業パネルディスカッションの様子

    第2部では「日本が守るもの手放すもの、そして創るもの」というテーマでパネルディスカッションを行いました。(株)ボーダレス・ジャパン代表取締役社長・田口一成氏や(株)Ridilover代表取締役・安部敏樹氏など、30代から40代の若い経営者6名がパネラーとして登壇しました。事前にお願いしていたこともあって、忖度のない有意義な意見交換の場をつくることができたと思います。たとえば、パネラーの1人は「日本人は立場のある人の意見を精査せず受け入れる傾向が強いが、立場に関わらず意見の中身について判断する必要がある」と話してくれました。

 ──テーマにも掲げられているように、全体として次世代に目を向けた内容になっていると感じました。

 小林 企業団体の周年を祝う式典では、団体に深く関わった方や長く地域社会を支えてきた方が登壇される場合が多いです。貢献してくれた方への感謝の気持ちを伝える方法として、今回そういったやり方を選ぶこともできました。しかし、あえて私たちは次世代を担う経営者にパネラーを依頼しました。今回の記念講演会の構成は、これからの私たちの在り方を皆さんに示すメッセージでもあると考えています。前例がないこともあって、事前段階では賛否両論あることを予想していましたが、後日参加者の方に話をうかがった際は、良い講演会だったという評価がほとんどでした。

 人の成長なくして地域の発展はなく、地域の発展なくして国家の発展もありません。グローバル化する世界で、福岡のまちを活性化させるためにも、これからも人づくりは欠かせないと考えています。人材育成は企業存続のためには必要ですが、中小企業はリソースを割くのが厳しいのが現実です。よって中小企業をサポートする団体である私たちにとって「人材育成」は、注力して携わるべきとても重要なテーマであると考えています。

イングリッシュキャンプ 福岡から世界へ

 ──具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。

 小林 毎年行っている高校生向けグローバルキャンプ「福岡未来創造キャンプOn Your Mark!」は主要な事業の1つです。福岡で開催され、9回目となった昨年のキャンプは8月12~17日の5泊6日の日程で開催しました。ハーバード大学やスタンフォード大学といった世界トップクラスの大学に通う外国人学生と交流することで、高校生に自分の可能性や世界への視野を拓いてもらうことを目的としています。

福岡未来創造キャンプOn Your Mark!
福岡未来創造キャンプOn Your Mark!

    日本人の海外留学は04年をピークに減少傾向で推移している一方、中国やインドなどの他のアジア諸国は海外留学者数が増加しています。日本がさらなる発展を遂げるためには、世界で活躍できる人材の育成が急務です。できる限り早い段階でこれからの日本を支えていく子どもたちに海外とのつながりと広い視野をもってもらうための機会を提供するなど、私たちもできるかぎりの支援を続けています。かつてキャンプに参加していた高校生が、大学生として運営を担い、徐々に社会に出て活躍の場を広げています。彼らだけでなく、彼らから刺激を受けて、世界を見据えて、活躍する人たちがさらに増えていくことを期待しています。

中小企業経営者に産学官の対話機会を

 ──未来を担う若者はもちろん、今を支えていかなくてはいけない私たち経営者も、高い視座と広い視野をもたなくてはいけません。

 小林 各中経協・大手企業・学校法人・行政が連携を図っていくために開催している交流会「産学官ダイアログ」は、まさに今の社会を支えている人たちのための取り組みです。中経協の会員企業の皆さまに、普段の業務のなかでは獲得しづらい知見を蓄積できる機会を提供したいというのが始まりです。経済局や財務局などの行政機関、大手企業の支店、地元の大学などさまざまな立場の人たちにご協力いただき、これまでに11回の開催を実現しています。交流会では「人づくり」を主なテーマに掲げ、さまざまな視点から議論を重ねています。この取り組みは、先ほど述べた「福岡未来創造キャンプ」など中経協が行う事業の意義を、会員の皆さまにも理解してもらうきっかけにもなっていると感じます。また、地道に回数を重ねていくにつれて、各団体、各法人の地域活性化につながる絆が強固なものへと変化していることを実感しています。

カンファレンス開催 福岡を真の国際都市へ

 ──地域活性化に向けた取り組みは順調に進んでいるようですが、福岡が国際都市としてさらに成長するためにはどのような課題があると思いますか。

 小林 最初はグローバルキャンプの開催など地域と世界をつなげる社会貢献として始まった取り組みは、産学官ダイアログなどを通して横のたしかなつながりを得ることができました。次はこの流れを経済に落とし込むことで、中小企業の発展に寄与し、成果に結び付けていかないといけません。そのためには、中小企業の海外での動きを支援していくことが必要だと考えています。

 現在は台湾とシリコンバレーとの連携を重視しており10月16~17日には「九州・台湾クリエイティブカンファレンスin福岡」を開催しました。この会は弊会が事務局を担っている九州経済フォーラムが主催したものですが、今回のカンファレンスで主なテーマとなったのは、やはり半導体事業です。地場中小企業のなかで半導体事業に直接かかわるケースは限られていますが、サプライチェーンなど周辺産業には中小企業が関わる余地が数多く残されています。

 新型コロナの影響もあって停滞していた人の動きが活発になるなかで、住環境や教育環境のステージを次の段階へと引き上げるチャンスが到来していると思います。しかし、たとえば台湾企業の社員が日本に赴任する際、インターナショナルスクールなどの整備が追いついておらず、家族とともに移り住むことを躊躇してしまっているのが現状です。福岡が真の国際都市として認められるためには、経済面だけではなく、教育環境を含め多方面でステージを上げていくことが求められています。今回のカンファレンスでは40名を超える登壇者を迎え入れ、参加者は密度の濃い2日間を過ごすことができたのではないかと思います。

25年の取り組み 次世代育成を軸に

 ──今後の方針についてお聞かせください。

 小林 25年も引き続き、人材育成、産学官連携、海外連携の3つの柱を軸に事業を進める方針です。経営者の年齢層が高くなっていくなかで、確実にたすきを繋いでいくための施策を講じていきます。これからも、次世代の育成を重視していく姿勢には変わりありません。単なる英語能力向上のためのキャンプなら、中経協が行う必要はありません。重要なのはキャンプを通して、若い世代の挑戦するマインドを育てていくことです。

 福岡未来創造キャンプは、新年度はさらに発展させる予定です。服部知事からの提案を受け、福岡県のバックアップを得られることになりました。これにより、より多くの若い世代に参加の機会を提供できるようになります。行政が単体で行う場合、どうしても立場上さまざまな制約のなかでの最善を選びとるしかありません。一方で、民間団体が単独で関われる範囲も限定されています。しかし、私たちはこれまでの実績が評価され、プロデュースをわたしたち民間団体が担い、行政にはバックアップをしていただくというかたちを実現させることができました。

 ──50年という歴史を振り返ることよりも、むしろ未来を重視して活動を進めているという印象を受けました。

 小林 伝統を重んじる日本の価値観は大切です。また、今までの道のりを否定するのではなく、良いところは残していきながらも、同時に新しい価値を生み出していく必要があります。それを後押ししていくのが私たちの使命の1つといえるでしょう。歴史を重ねていくにつれ、その重みで動きが鈍くなっていくような組織にはならないよう気を付けなくてはいけません。理想とするのは、絶えず変化していく環境に対応できる柔軟さをもった組織であり続けることです。そのためには、自分から積極的に行動しようとする人の意見に耳を傾けることができる体制を維持していきたいと考えています。

 TSMCや天神ビッグバンなどの効果をその地域だけに留めず、福岡県全体、さらには九州全体に広く波及させていく力添えをしていきたいと思います。次世代育成を軸に据えた取り組みは、単なる一過性の施策ではなく、福岡県や九州全体の持続可能な成長につながる重要なステップです。私たちは地域全体に広がる好循環を目指して、これからも挑戦を続けていきます。

【文・構成:岩本願】


<COMPANY INFORMATION>
会 長:小林専司
所在地:福岡市博多区吉塚本町9-15
設 立:2015年10月(協会設立:1974年)


<プロフィール>
小林専司
(こばやし・せんじ)
福岡市出身。2005年10月に福岡ロジテム(株)を設立、代表取締役社長就任。会社経営とともに、ボランティア活動にも精力的に参加。(一社)福岡県中小企業経営者協会連合会会長を務め、福岡経済を代表する経営者の1人として活躍している。

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