科学から日本を見る(4)日本社会はどうすれば再生できるのか?
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福岡大学名誉教授 大嶋仁
日本社会の変遷を考えると、「戦後のどさくさ」という表現がエネルギー源として蘇ってくる。プリゴジンのいう「混沌」と「散逸構造」に当てはまるように思えるのだ。
日本社会をレヴィ=ストロース的に見れば、その根底にある「部族社会」的性格が「歴史」の波風をくぐって持続してきたことになる。しかし、その「部族社会」的性格は、私に言わせればすでに「風化」している。
なぜそうなのかといえば、「グローバル化」による。世界を主導する経済システムが「部族社会」の存続を許さず、それでも「部族社会」の体を崩さないようにするとなれば、これを形骸化せざるを得ず、日本全体として形式的な秩序の維持に追われるのである。これをもって「平穏な日本」などといえようか。
近年、円安のせいで外国人観光客が急増し、その多くは日本の町の清潔さ、人々の生活の「平穏さ」、伝統と近代の「美的な共存」などに感嘆している。彼らに日本社会というものが見えていないことの証だ。
無論、観光客にすれば、目的は「観光」快楽の享受にあるのだから、異国情緒を楽しめればそれでよいのであって、現地の人々のことなどどうでもよい。責任は彼らにはない。それなのに、事もあろうに、NHKも民放テレビも、外国人に褒められる「日本」を喧伝している。そうやって、国民の眼を日本社会の現実から逸らそうとしているのだ。
日本社会の「平穏」は、プリゴジンのいう「散逸構造」から生まれ出る新しい秩序と正反対のものだ。現在の日本社会は戦後の驚異的な経済復興の末路であり、そこでは外部からのエネルギーが恐ろしいほどに制御され、社会を「混沌」に陥れる力にならない状況なのである。
つまり、外部からのエネルギーを消費しきれないために、また既存の秩序を維持するために、情報を制御し、「混沌」への恐怖感を蔓延させ、社会の命を止めてしまっているのだ。これでは本当の「混沌」は生まれ得ず、本物の「秩序」も生まれない。
日本は表面的な秩序づくりを強化することで、実質的なエネルギーの「散逸」を防いできた。これでは社会は活性化されるかわりに、「死」に向かっていると言わざるを得ない。小中学校の教育を見よ。細かい規則だらけで、本質がないではないか。
一見すると江戸時代の「鎖国」に似ているかに見える現状だが、「鎖国」時代はエネルギー備蓄の時代であって、士農工商のシステムがある種の「散逸」を実現していた。一方の現代は、「鎖国」理念そのものを許さない「グローバル主義」を掲げており、そうなると「鎖国」していないふりをしつつ、「鎖国」をするという矛盾を犯さざるを得ない。
しかも、「矛盾」といっても、それ自体が風化しており、本来ならエネルギーをはらむはずなのに、これまた情報レベルで制御されている。これが長く続くと感覚は麻痺し、思考力も判断力も衰え、エネルギーは社会の隅々に行き渡らない。
このような状況では「散逸構造」など望むべくもないが、それでも何とかしなくてはならないとすれば、1つは、すべてのエネルギーを一極に集中させないことだろう。現代社会で重要なのは情報であるが、この情報発信の多極化が今の日本には大切なのである。
政治レベルでいえば、地方の活性化ということになるが、もはや地方自治体に期待はできない。国の出先機関になってしまったからだ。そうなると、地方に住む1人ひとりの活性化ということになる。個々の人間は、各々の生活環境を見つめる能力を養わねばならないのだ。
ところで、以上のことは日本だけでなく、世界全体にもいえる。情報こそは現代社会のエネルギーであることを承知で、世界全体がヒトラーやスターリンが示した全体主義のマイルドな平準化を目指し、そのために、あらゆる情報の一元化が進んでいるのである。
この情報の一元化は経済グローバル化以上の威力があり、危険度も高い。私たちの世界は「散逸構造」の実現にはほど遠いのである。
世界における情報一元化は、アメリカの中枢にあるCIAが率先して行なっていることだ。しかし、それが世界中におよぼされそうになっている真っ最中に、当のアメリカ国内では綻びが目立ってきた。「民主主義」を謳う国が着実に全体主義国家となりつつあるそのときに、根本的な矛盾が露呈して国内が荒れ始めている。そこに、私はある種の救いを見る。
先にも述べたように、日本の場合は至極平穏に見えるが、この「平穏」が情報エネルギーの極度の抑制によって生まれている。全体主義の平準化が進んでいるのだ。はたして、そのような日本、アメリカに嵐が吹き荒れることで好転機を迎えることができるだろうか。トランプ台風は、日本を見舞ってくれるのか。
いずれにせよ、情報の多元化がエネルギーの「散逸」と重なることを忘れてはならない。日本社会の将来はこの一事にかかっている、と言わざるを得ない。
(了)
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