福岡城天守 新資料で実在説が補強(前)

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 舞鶴公園は、古代の鴻臚館と近世の福岡城という数百年の時で隔てられた重要な史跡が同居する稀有の空間となっている。2024年、論争の的となっている福岡城天守について、実在説を補強する新しい資料が見つかった。現在、舞鶴公園と大濠公園を一体的に活用する構想が福岡市によって進められているが、福岡市がアジアの最も歴史ある国際都市の1つとして認識されるには、魅力あるランドマークの建設が望ましい。福岡城の天守こそ、まちづくりにおける景観のみならず、多くの謎を秘めた魅力によって、まさに福岡のランドマークにふさわしいのではなかろうか。

新資料が実在を補強 「石垣ヌルク」=天守台

CGによる復元図((株)ゼネラルアサヒGAデジタルグラフィックス) 出所:『甦れ!幻の福岡城天守閣』(佐藤正彦、2001)、画像1
CGによる復元図((株)ゼネラルアサヒGAデジタルグラフィックス)
出所:『甦れ!幻の福岡城天守閣』(佐藤正彦、2001)

 2024年12月10日、福岡市長・高島宗一郎氏が記者会見を行い、「福岡城の天守が実在していたことを後押しする新しい資料が、福岡市博物館で発見された」と発表した。資料は福岡教育大学の波多野晥三氏が収集したもので、資料自体は18年に発見されていたが、24年に「天守」というキーワードで再調査した結果、今回の発見につながった。

 発表によると、天守についての言及が見つかった資料は、江戸時代前期の1640~50年ごろのもので、黒田家の家臣である梶原正兵衛が毛利甚兵衛(母里太兵衛の孫)に宛てた書状。書状は福岡城の天守が実在していたと推定される時期(1607~20年頃)のものではないが、彼らの親・祖父世代は福岡城を築城した黒田長政と同時代であり、記された内容はその世代からの伝聞によるものと考えられ、書状が伝わった毛利家が黒田家に近い家柄であることから、内容の信ぴょう性は高いという。

現代語訳
名島城の石を石垣に使ったが、穴生衆(石積みのプロ集団)がいなかったため素人が石垣を築き、そのうえに天守が建てられたので石垣がヌルク(傾斜が緩く)なった。その後は(プロの?)小河長右衛門と理右衛門を雇い、(石垣の内側に詰める)栗石は能古島、(石垣に用いる)割石は唐泊で割ったものを用いて、石垣を築いた。

 書状を素直に読めば、「天守が建てられた」と言及されている石垣は天守台のことであり、そのうえに天守が建っていたことを示していると理解される。しかし、福岡城には天守台に建てられた大天守のほか、その東側に中小の天守が建てられており、これまでの天守の実在をめぐる論争でも古文書の「天守」がどれを指すのかが問題とされてきた。

 ここでヒントとなるのは「石垣ヌルク」と表現されているのが、どの石垣であるかということだ。「ヌルク」という表現について、福岡市博物館は石垣の傾斜が「緩く」なっていることを意味すると見ている。では、傾斜が緩い石垣はどこか。城内を見渡すと、まさに天守台の石垣こそが「ヌルク」なっていると表現するにふさわしい。

 画像は天守台を南側から見たものだ。石垣の角度が東南隅(右)と西南隅(左)で異なっている。東南隅が35~40度(赤マーク)、西南隅が45~50度(黄色マーク)。城内の他の石垣と比べ、40度程度はとくに緩い。天守台は石積みの様子などからして、城のなかで最も早く築かれたと考えられている。

南側から見た天守台
南側から見た天守台

 このような点から、書状が「素人つくりの石垣」で「ヌルク」、プロの「小河長右衛門と理右衛門」を雇う前に築いた石垣として話題にしているものは、天守台の石垣と見なすのが妥当と思われる。黒田藩の武士たちは日ごろ目にする石垣のうち、最も守りが堅くあるべき天守台が、なぜあのように緩いのかという疑問をもっていたのかもしれない。書状の一文は、その素朴な疑問に対する答えとして、天守台の由来を伝える文章とも考えられる。いずれにしても、この書状の書き手らが天守台の上に天守が建てられていたと認識していたことを示す資料であり、天守実在説を補強する有力な証拠となった。

(つづく)

【寺村朋輝】

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