【クローズアップ】ユニクロ、無印良品、ニトリ 海外で伸ばす事業戦略

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 日本経済は人口減と少子高齢化にともない需要が縮小し、大手専門店は国内拡大の限界を見据え海外展開に活路を求めている。アジアは経済成長率が高く購買力拡大が見込まれる一方、欧米は成熟市場ゆえにブランド評価の基準が厳しく、中東などの新興市場にも可能性がある。ただ海外進出には政治・経済リスクや文化的障壁が待ち構えるため、戦略的対応と現地との調和が不可欠だ。早期から試行錯誤を重ね、世界の消費者に適合する商品企画やブランディングを磨き上げ、事業を拡大してきたユニクロ、無印良品、ニトリの3社のケースを見てみる。

ユニクロ―海外売上が国内を超過

ユニクロ    ユニクロ事業を展開するファーストリテイリングは、近年、海外の売上規模が国内を大きく上回っている。2024年8月期は海外ユニクロ事業の売上高が1兆7,118億円、営業利益2,834億円に達した。一方、国内ユニクロ事業は売上高9,322億円、営業利益1,558億円にとどまる。すなわち、数字面で海外ユニクロが国内を上回っており、その差はさらに開いている。

 地域別に見ると、中国・香港・台湾のグレーターチャイナが売上高6,770億円・営業利益1,048億円と最大の市場を形成。韓国、東南アジア、インド、豪州を合わせた地域が5,405億円・同976億円、欧州が2,765億円・同465億円という内訳で、いずれの地域も好調だ。北米でも出店攻勢に拍車がかかっており、テキサス州やカリフォルニア州などでの店舗増設が加速している。

 海外事業を押し上げる要因は、大型店を積極的に展開し、ブランドコンセプトをグローバルに浸透させる戦略にある。ユニクロは「LifeWear」を掲げ、あらゆる人々が日常生活で必要とするベーシックウェアの機能性と品質を追求する方針を明確化している。これは流行に左右されるトレンド品ではなく、“究極の普段着”を提案するという考え方だ。

 欧州ではロンドンの主要駅周辺やイタリア・ローマの大型ターミナル駅に出店し、消費者の目に触れやすい立地で認知度を上げている。韓国ではソウル中心部のショッピングモールに大型店を構え、タイやインドなど新興国でも大型路面店舗を展開。このように、「LifeWear」を体験できる場をつくることで、海外進出においてカギとなるブランディングを強化している。

失敗を経て攻めに転換

 ユニクロの海外戦略が当初から順調だったわけではない。01年の英国進出は急激な店舗拡大に加え、商品構成や価格設定のミスマッチも重なり、不振に陥った時期があった。しかし、この失敗を糧に、ニューヨークやロンドンに旗艦店を設置し、ブランド認知度を引き上げる手法へ転換。また、外部のクリエイターやアートディレクターを活用して洗練されたイメージを打ち出し、大衆的な価格帯ながら高い品質を訴求する路線に切り替えた。

 近年はサステナビリティやSDGsに注力し、リサイクルや環境負荷低減の取り組みも加速している。自社運営施設の温室効果ガス排出削減を進め、製造プロセスでの人権保護や廃棄ロス削減にも取り組む姿勢を強調。世界の投資家や消費者からの信頼を獲得することで、さらなる拡大を見据えている。24年8月期には売上が3兆円の大台に達し、数年以内の5兆円、ゆくゆくは10兆円という目標を掲げている点にも、大胆かつ綿密な戦略がうかがえる。

無印良品—海外の利益が国内超え

無印良品    無印良品を展開する良品計画は、1991年にイギリスのロンドン、香港などへ海外進出をはたし、早くからグローバルを意識していた。しかし、当初は現地企業との合弁体制がうまく機能せず、意図した経営方針を実行できない状況が続き、撤退に追い込まれる事例も見られた。その後、2000年代に入ってからは自前主義を徹底し、家賃交渉や物件選定を含むコスト管理を根本から見直すことで、海外事業を立て直す方針を固めた。

 一方、中国では05年に100%出資子会社を設立して以降、都市部を中心に急速に店舗を拡大。ローカルのニーズと合致する商品構成を追求しながら、独特の「MUJI」ブランドを根付かせることに成功した。24年時点で中国大陸398店舗、香港22店舗、台湾65店舗という大規模な販売ネットワークを築き上げ、中東を含むほかのアジア諸国や欧州・北米にも広がっている。

 海外店舗数は合計682店舗に達し、海外事業の24年8月期の売上高は2,727億円。国内売上の3,889億円を下回るものの、営業利益では海外が456億円で国内の397億円を上回る。これは、中国を中心とするアジア地域での成功に加え、各国でのローカライズ戦略が奏功しているとみられる。感度の高い層に刺さるデザイン性や素材選びだけでなく、生活雑貨や食品など、地域の実態に合わせたラインナップを展開することでリピーターを増やしているのがポイントだ。

「わけあって、安い」の原点

 無印良品のブランド誕生時から続くコンセプトは、「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」によって実現する合理性だ。過度な装飾を排し、生活必需品をシンプルなデザインで提供するという哲学は、国境を越えて共感を呼ぶ。さらに、脱プラスチックや原料まで遡った主要取引先の100%開示などESG(環境・社会・ガバナンス)経営を強化しており、環境意識の高い欧米やアジアの都市部でも支持が広がっている。

 01年から無印良品を再建した松井忠三元社長の「グローバルマーケットというものは存在しない。ローカルマーケットがたくさんあるだけ」という考え方は、依然として経営の根幹にある。現地の暮らしや文化を重視しながら、グローバル共通のブランド価値を損なわないバランス感覚が海外事業の収益性を高める原動力となっている。

ニトリ―アジアでスピード出店

ニトリ    家具・インテリアのニトリホールディングスも、海外事業に大きく軸足を移す。国内832店舗に対し、海外は中国大陸・香港・台湾・韓国・東南アジアなど11の国・地域に計205店舗を構える。07年の台湾進出を皮切りに、13年には米国、14年に中国、その後東南アジア各国へ進出。24年にはフィリピン、インドネシアにそれぞれ初出店し、年末までにインド1号店をオープンする計画を明らかにした。

 ニトリは32年までに世界3,000店舗、売上高3兆円を掲げており、その達成に向けてアジア地域を最重要エリアと位置づける。とくに人口14億人超のインドでは、32年までに289店舗を展開する構想をもち、フィリピンやタイ、ベトナムなどでも出店網を急拡大させる方針だ。25年3月期末でアジア全体では279店舗に達する見通しで、早期に年間200店舗ペースの海外展開を実現できる体制を整えるという。

SPAモデルとデジタル基盤

 ニトリの強みは、商品企画から製造・物流・販売までのプロセスを垂直統合したSPA(製造小売)モデルだ。大量生産・大量流通によるコストメリットを確保しつつ、品質管理を一貫して行うことで「お、ねだん以上。」の価値を実現する。22年4月にはニトリデジタルベースを設立し、ECプラットフォームを整備。海外店舗の販売データや顧客ニーズを収集し、商品開発やマーケティングに反映させる取り組みを強化している。

 米国では「Aki-Home」ブランドでの展開が必ずしも成功していないとも指摘されるが、アジア市場では人口増と都市化を追い風に、着実にシェアを伸ばしている。ニトリは住空間への需要が急拡大する国や地域を攻めることで、グローバルチェーン化を加速させようとしている。

● ● ●

失敗と学習のプロセス

 海外市場には政治・経済・社会情勢の不確定要素が多く、リスクがつきまとう。さらには言語、文化、宗教などが複雑に絡む。もちろん、政治リスクや法制度の違い、為替変動など未知の要素も。ユニクロと無印良品、ニトリとも進出初期には大なり小なり失敗を経験している。ユニクロは英国での急拡大が裏目に出たほか、無印良品は合弁先との経営方針の相違が原因で撤退。ニトリも米国への挑戦で一定の苦戦を強いられた。

 しかし、それらの失敗から学んだローカライズとブランディング手法が、いまの海外事業成功を支える。ユニクロは海外売上が国内を大きく超え、無印良品は海外の営業利益が国内を上回った。ニトリはアジア市場を大きく切り拓いている。失敗のなかで得た教訓を踏まえながら、それぞれ戦略は異なるものの、ローカル市場への適応とグローバルブランドの維持を両立させ、さらなる収益機会を獲得している。

 無印良品が象徴するように、「グローバルマーケット」という抽象的な市場は存在せず、実際には各国のローカルマーケットの集合体であるとの認識が重要だ。成功企業はそれぞれの地域に合わせた商品ラインナップや価格設定、店舗運営スタイルを確立し、現地ニーズを正確に拾い上げている。

 一方で、グローバルで統一したブランドコンセプトを大々的に打ち出すことで、認知度と信用を得る手法も欠かせない。ユニクロの「LifeWear」、無印良品の「わけあって、安い」という合理性、ニトリの「お、ねだん以上。」はいずれも端的で、世界の消費者に伝わりやすい。同時に主要都市の一等地や大型商業施設に旗艦店を設けることで、ブランドイメージを印象づける戦術をとる企業が多い。

国内市場縮小時代の経営戦略と展望

 日本市場が少子高齢化と人口減により先行きに不安を抱えるなか、大手専門店が海外に軸足を移す流れは今後も強まりそうだ。ここで取り上げた成功事例をみれば、的確なローカライズとブランド戦略、さらにサプライチェーンやデジタル基盤の整備を組み合わせることで、大幅な収益拡大を狙える可能性がある。

 ユニクロの「LifeWear」で象徴されるグローバル戦略、無印良品の「わけあって、安い」という原点を軸とした再編、ニトリの「3,000店・3兆円」という壮大なビジョン。いずれも国内での飽和感を乗り越えるために海外事業を選択し、結果的に大きな成長機会を獲得している点が共通する。海外の政治・経済リスクや文化的壁に直面しながらも、ローカライズとブランド発信を両輪とした戦略によって拡大路線を支えてきた経緯は、他の日本企業にも示唆を与えるだろう。

 実際、国内市場への依存度を下げなければ中長期的な成長は難しいという見方は強まる一方だ。他方で、アジアをはじめとする新興市場は、依然として人口増と経済成長を続ける見通しがあり、若年層の可処分所得が増大する国も少なくない。そこに対して早期に参入し、需要拡大を取り込めるポジションを確立するかどうかが、各企業の将来を左右し得る。国内需要が萎む日本企業にとって、海外展開はいよいよ死活問題ともいえる局面に突入している。

 日本企業が国際舞台で存在感を高めるためには、現地企業との競争を勝ち抜ける商品力とサービスレベルを確立し、なおかつサステナビリティやESGの観点でも貢献できる体制を構築する必要がある。ユニクロの「服の新産業を目指す」宣言や、無印良品の省資源・シンプル・自然志向、ニトリの「住まいの豊かさを世界の人々に」など、ビジョンの明確化が世界の顧客とステークホルダーを巻き込むカギになりそうだ。

 一方、グローバル化の進展とともに、地政学リスクや経済連動の変化による影響も無視できない。米中摩擦やインフレ懸念、新型コロナウイルスなど予期せぬ事態に対するレジリエンスを企業としてどう構築するかが問われる。ユニクロ、無印良品、ニトリが示すように、大胆な投資と慎重なリスクマネジメント、そして丁寧なローカライズがあってこそ海外事業は軌道に乗る。こうした観点を総合的に踏まえ、海外市場を開拓していくシナリオを描くことが、今まさに国内企業にとっての喫緊の課題となっている。

 国内需要がこれから先も縮小し続ける見込みのなか、海外で得られる成長機会をいかに取り込むかは、日本企業共通の経営課題である。ユニクロ、無印良品、ニトリの取り組みは、国際舞台でも通用するブランド価値とビジネスモデルをいかに築くか、そして失敗の学習をどう生かすかを示す好例といえる。今後、他の流通企業がそれぞれの強みを生かして海外に挑むケースも増えるだろう。3社に続くグローバルチェーンが日本から誕生する可能性は十分にある。その際には、未知の課題に直面したときにどう軌道修正を図り、現地との協調を図れるかが試される。国内と海外、それぞれの市場特性を的確に把握し、持続可能な視点から価値提供を行う企業こそが、次のステージで成長の主役となるだろう。

【西川立一】

関連キーワード

関連記事