【トップインタビュー】低価格と魅力ある商品で二極化対応 新業態で成長目指す

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イオン九州(株)
代表取締役社長 中川伊正 氏

 2024年のスーパー業界は、食品価格の高騰、電気代の上昇、賃上げといったコスト増の影響を受けた。そのなかでイオン九州(株)は総合スーパー(GMS)事業の再構築や、新業態「マックスバリュエクスプレス」「ウエルシアプラス」の展開、生産性向上に向けたDX投資などに取り組んだ。その結果、客数は安定して増加し、25年2月期は過去最高の売上高を達成する見通しだ。昨年5月、同社の代表取締役社長に就任した中川伊正氏に、今後の成長戦略を聞いた。

物価高騰のなかで「安くて良いもの」を追求

イオン九州(株) 代表取締役社長 中川伊正 氏
イオン九州(株)
代表取締役社長 中川伊正 氏

    ──2024年9〜11月の第3四半期は減益になりました。

 中川伊正氏(以下、中川) 第3四半期は9月と11月が比較的好調で、売上も安定していました。しかし、10月は気温が高かった影響で、秋冬物の衣料が思うように動かず、GMS(総合スーパー)全体の収益面に響きました。例年であれば10月初旬から徐々に売れ始めるものが、11月に入ってやっと動き出したという印象です。11月後半に実施したブラックフライデーでは季節商品の売れ行きが一気に回復し、そのまま年末年始にかけて良い傾向が続いています。

 一方で、円安による原材料の値上げや人件費、電気代などのコスト増が顕著でした。食品の売れ行きは堅調ですが、利益幅の大きい衣料品や日用品、生活用品などの住居余暇商品が売れないと全体の利益率を押し上げにくいです。また物価高が続くなかで、お客さまが賢い買い物をされるようになりました。安い商品を求める傾向が強まり、当社としても価格設定には慎重にならざるを得ない。それも利益を圧迫する要因の1つになっています。

 ──実質賃金が伸び悩み、消費者は節約志向を強めています。イオン九州としてどのように対応していますか。

 中川 メーカーからの値上げ要請が相次ぐなか、すべてを転嫁してしまうと客数の減少や購入点数の減少につながります。それを避けるために、プライベートブランドの「トップバリュ」などのお得感のある商品をさらに充実させています。

 たとえば、コーンスープのリニューアルでは、1食分の個包装をなくし、パウチ状の袋に入れる工夫を行ったことで、1食分のコストが大幅に下がりました。さらに消費者の利便性を損なわないよう工夫しました。安価で品質が良い商品を提供することで、客足を確保しながら利益を少しでも生み出していこうというわけです。

 ──売価に転嫁するのが難しいなかで利益を残すのは大変だと思いますが、その点はどうですか?

 中川 たしかに難しい局面です。ただ、小売業としては「いかにお客さまに選んでいただくか」が最も大切。品質のともなった低価格の商品をそろえて客数を増やし、売上規模を維持する。その一方で、付加価値のある商品を提案して利益を確保する「ほぼ荒利ミックス」が重要になってきます。さらに値ごろ感のある商品を拡充することで、継続的に店舗にきていただく仕掛けをつくることが必要不可欠です。

しあわせプラス商品(以前の一例)
しあわせプラス商品(以前の一例)

    イオン九州では、商品と価格でお客さまの毎日のくらしを応援する取り組み「しあわせプラス」を展開しています。物価高騰のなかでもよりお客さまに満足いただける施策を打ち出し、まずは九州で一番信頼される企業を目指します。

地域にあった事業展開
老若男女の「便利」を追求

 ──GMSは気温などの外部要因に影響を受けやすい業態です。安定収益の確保にどのような取り組みをされていますか。

 中川 GMSの取り扱い商品は、食料品だけでなく衣料品や住居余暇商品など多岐にわたります。季節に左右されるカテゴリーも多いため、天候で売上が大きく変動する傾向があります。それでも既存店のリニューアルや新設・建替えを通じて、地域の商圏特性に合った店舗設計へと転換することが重要だと考えています。

 たとえば、鹿児島市の店舗では建替え計画がありますし、佐世保市ではマンションの下層階にSM(スーパーマーケット)を併設するかたちで出店を進めています。人口動態が変わるなかで「若い世代をどう取り込むか」「シニア層にどう便利に感じてもらうか」を店舗設計から見直しているところです。

 ──衣料品の売れ行きは、ユニクロやGU、専門店などとの競合も大きいですね。そこへの対策はありますか?

 中川 若い世代の衣料は専門店やECサイトに流れる傾向が強い一方で、40代以上のお客さまのなかには当社の衣料品を好んで買ってくださる方も多いです。そこをしっかりつかむための品ぞろえや売場づくりを強化しつつ、若年層向けの商品も少しずつ拡充していきたいと考えています。たとえば、機能性や着回しに優れたオリジナルブランドの開発なども検討しており、GMSだからこそできる幅広いニーズへの対応を目指しています。

 また、店舗オペレーションの面でも改装やレイアウト変更によって、衣料売場をより見やすく、手に取りやすく工夫しています。単純に面積を減らすだけでなく、適正在庫管理や売場演出を強化することで、お客さまに新鮮な印象を与える売場づくりを推進中です。

 ──都市型SMの「マックスバリュエクスプレス」、調剤薬局併設の「ウエルシアプラス」など、新業態にも積極的ですね。それぞれ狙いはどこにあるのでしょう?

マックスバリュエクスプレス
マックスバリュエクスプレス

    中川 「マックスバリュエクスプレス」は都市部のコンビニ市場を一部取り込みながら、コンビニよりも生鮮品や惣菜を充実させることで差別化を図っています。3年間で60店舗出店を目標としており、立地によって80坪や100坪など店舗サイズを柔軟に変えています。

 「ウエルシアプラス」は調剤を併設するドラッグストアと食品を融合させた形態です。高齢化が進む住宅地では、医薬品と食品の同時購入ニーズが高まっており、そこで一定の価格競争力をもった店をつくることが肝要です。これからの社会構造を考えても「薬×食」の組み合わせは相性が良いと見ています。

 ──コスモス薬品など、食品の低価格販売を強みにしている競合他社もありますが、どのように差別化を図りますか?

 中川 たしかにドラッグストアとは激しい価格競争があります。ただ当社の場合は、惣菜・生鮮食品・冷凍食品などを独自に強化し、調剤薬局と組み合わせた「買い物の総合力」をアピールすることで商機があると見ています。価格だけではない利便性や品ぞろえで評価していただく戦略です。今後は、地域の方々にとっての「健康と日常の買い物を同時に完結できる場所」となることを目指しています。

新しい取り組みを推進 さらに成長を続ける企業へ

 ──新業態や店舗改革を進める一方で、既存店全体の生産性を高めるためのDX投資も重要視されています。具体的にはどのような取り組みをしていますか?

 中川 まず電子棚札を導入することで、価格変更の手間を削減し、作業時間を大幅に短縮しています。これまでは紙のPOPを1枚ずつ交換していましたが、今はシステム上で一括変更が可能です。次にレジシフトの管理をDX化しました。従業員の希望シフトや実働時間、客数のピークに合わせて最適配置を行うことで、過不足のない接客とコスト削減を同時に狙っています。実際に、人時生産性は第1四半期で102%、第2四半期で103.6%、第3四半期で104.2%、そして12月には106.8%まで改善してきました。

食品チェッカーのスケジュールをAIで管理
食品チェッカーのスケジュールをAIで管理

    労働力不足が深刻化しているなかでは、「少ない人数で売場を維持しながら高い満足度を得る」仕組みづくりが不可欠です。DX投資は初期コストこそかかりますが、中長期的には人件費の最適化と従業員の負担軽減につながっており、当社としては引き続き推進していきたいと考えています。

 また、従業員の働きやすい環境を整える一環として、アルバイトやパートの時給については現行より約7%の引き上げを予定しています。社員についても、年間の業績を踏まえたうえで、段階的な昇給を検討していく方針です。

 ──中期計画ではM&Aも視野に入れています。どのような方針で検討しているのでしょうか?

 中川 水平統合では、同業他社との連携や買収によるスケールメリットを狙います。一方で、垂直統合では惣菜加工場やカットサラダ製造業者など、食品製造領域を取り込むことを検討しています。自社で製造部門をもてば、商品の差異化と安定供給、品質管理を強化でき、利益率向上にも寄与すると考えています。

小売業を通して地域貢献 お客さまのくらしのために

 ──出店や売上拡大の余地はまだありますか?

ウエルシアプラス
ウエルシアプラス

    中川 商圏によってはまだまだ出店のチャンスがあると見ています。たとえば「マックスバリュエクスプレス」や「ウエルシアプラス」のような小型店舗で都心部の空白エリアを埋めていく手もあります。さらに物流拠点の充実も進めており、昨年夏稼働を始めたアイランドシティの新物流センターを活用すれば、福岡エリアの配送効率は飛躍的に向上できます。

 M&Aの際には地域企業との連携を重視したいと考えています。地元密着のスーパーや専門店と組むことで、地域の食文化や産業を活性化しながら、当社の経営資源を生かせる可能性が広がると見ています。

 ──2025年の抱負を聞かせてください。

 中川 小売業は非常に変化の激しい業界で、気候変動や物価上昇など不確定要素が増えています。しかし、そのなかでも最も大切なことは「地域のお客さまにとって必要とされる存在であり続ける」という姿勢です。低価格商品を求める声に応える一方で、魅力ある商品やサービスを提案し、DXによる生産性向上を図る。さらにM&Aなども含めて、持続的に発展していく基盤を整備し続けることが重要です。

 2025年以降も、地域に根ざしながら新しい価値を生み出せる企業であるように、挑戦を続けていきたいと思います。そのためには若手や新たな人材を積極的に登用し、これまでにない発想を取り入れ続ける姿勢が欠かせません。お客さまの生活をより豊かにする存在として、これからもイオン九州は変革を止めません。

【立野夏海】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:中川伊正
所在地:福岡市博多区博多駅南2-9-11
設 立:1972年6月
資本金:49億1,500万円
営業収益:(24/2連結)5,103億1,700万円


<プロフィール>
中川伊正
(なかがわ・いせい)
1966年11月生まれ。90年にジャスコ(株)(現・イオン(株))に入社。以来、一貫してイオングループに従事し、国内外での事業運営に携わる。2010年にマックスバリュ北陸(株)の代表取締役社長に就任後、イオンリテール(株)東北カンパニー支社長、青島イオン取締役社長、イオンストアーズ香港取締役社長、イオン中国本社取締役社長など、国内外の経営要職を歴任。24年5月よりイオン九州(株) 代表取締役社長を務める。

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