孫正義シリーズ(5):孫正義氏の飽くなき挑戦(前)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉明鎬 氏

 孫正義シリーズの第5回をお届けする。今回は、韓国経済に詳しい日韓ビジネスコンサルタント・劉明鎬氏による孫正義論をお届けする。

投資事業から徐々にAIや半導体へとシフト

イメージ    若き日から「時代の変化」を敏感に察知し、日本に情報革命をもたらした経営者「孫正義」。孫氏に対する評価は、すべてが好意的というわけではないが、筆者は日本で孫氏のような経営者は二度と現れないのではないかと思っている。

 孫氏は筆者と同年齢で、筆者の留学先である佐賀出身。同じIT業界に身を置いていたこともあって、いつも孫氏に関心をもっていた。在日韓国人として現在では考えられないほどの差別を受けて育った孫氏には、その差別や環境の壁を克服したいという強いエネルギーが体内に渦巻いており、それが行動の原動力になっていたと思う。

 孫氏の時代の波にうまく乗りながら、常にチャレンジを続ける姿に筆者は感動し、自分もそうなりたいと思っていた。とくに、日本にブロードバンドの象徴であるADSLを普及させ、通信スピードを上げた孫氏の功績は今でも忘れられない。ヤフーへの投資、ボーダフォン買収、iPhoneの日本販売など、数々の実績がある一方、投資の失敗などで、大きな挫折も経験している。しかし、大きな失敗を乗り越え、孫氏がまたニュースを賑わす機会が多くなった。孫氏の最後のかけが本当に成功するのか、世界が注目している。

 先日、ソフトバンクGがオープンAIに400億ドルを投資する予定で、検討が大詰めを迎えているとの報道があった。これに先立ち、ソフトバンクGは、オープンAIや米ソフトウェア企業であるオラクル社とともに、米国内にAI事業のインフラであるデータセンターを建設するため、約5,000億ドルを共同出資し、「スターゲート・プロジェクト」を始めると発表した。

 今回の投資が実現すれば、ソフトバンクGはマイクロソフトを抜いて、オープンAI社の筆頭株主に浮上する。ちなみに、マイクロソフト社はオープンAI社に140億ドルを投資。投資が実現すれば、企業価値が3,000億ドル以上に跳ね上がることも予測されている。

 ソフトバンクの最近の動きに対して専門家は、AI開発に必須のインフラを握ることで、AI時代における「地主」のような地位を目指しているのではないかと推測している。また、孫氏は就任したばかりのトランプ大統領の記者会見に登場し、アメリカに5,000億ドルを投資すると発表して周囲を驚かせている。

 このようなソフトバンクの動きに対して、イーロン・マスクはソフトバンクにはそんな資金を保有していないと指摘しているし、出資先のオープンAI社も、年間赤字が数十億ドルに上る赤字を垂れ流しており、AIビジネスが本当に収益を上げられるかどうかは、誰にもわからないとの指摘もある。

孫氏の伝説的な成功

 孫氏がヤフーやアリババを青田買いし、大きな成功を収めたのは有名な話だ。当時、スタートしたばかりのアリババに孫氏は2,000万ドルを投資し、2014年に同社は米国市場でIPOをはたし、孫氏に莫大な利益をもたらしただけでなく、ITバブルの崩壊から立ち上がるきっかけとなった。

 アリババの成功だけでなく、その数年後、英国の半導体企業ARMを3.3兆円で買収し、同社も上場をはたした。アームの時価総額は約1,060億ドルに膨らみ、ソフトバンクGに資金的な余裕をもたらした。アリババの創業者であるジャック・マーに会って、6分後に投資決定をしたというエピソードは、今でも伝説となっている。また、ソフトバンクが90%の株を保有しているアーム社は、チップ設計では欠かせない存在で、アームをベースにしてエヌビディアに対抗する構想を孫氏は密かに描いているのではなかろうか。

(つづく)

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