福岡県行政に「営業熱心」な元県議と駅前一等地にビル所有の業者
-
-
健康器具「ケア・トランポリン」を推進する福岡県の助成事業を巡る収賄容疑で逮捕・送検された元県議会議員の片岡誠二容疑者。議員歴は2期にもかかわらず、片岡容疑者は県行政に強い影響力を行使し、県内の多くの市町村が同器具を使った運動教室を開催。その見返りに業者から受け取った額は2,800万円と高額であった。
県幹部らが視察、行政のお墨付きに
今回、逮捕の決め手となったのは事業予算の成立後、書面で現金2,800万円を受け取る約束を業者側の代表と交わしていたことだ。また、片岡容疑者が現金を受け取る際、同容疑者の妻が代表取締役を務める会社名義の口座に入金させていたことが新たに分かった。
片岡容疑者のホームページを見ると、事業化の前に副知事や県職員がトランポリンの視察で地元・中間市を訪れて運動を体験している写真が掲載されている。当時は、小川洋前知事の時代だが、トランポリンを活用した地域健康教室を行っていた中間市長への表敬訪問も行われていた。県幹部が視察したことが宣伝に使われており、「お墨付き」を与えたという印象は否めない。
県が全額助成する事業を巡っての汚職事件とあって、服部誠太郎知事も「県民の健康増進のために実施した事業に関連して不正が行われたことが事実とすれば誠に遺憾」とのコメントを出した。また、事件を受けて中間市は、運動教室を開催している公民館に開催を見合わせるよう要請した。
福岡県は2019年度から「ふくおか健康づくり県民運動」をスタート。「ケア・トランポリン」運動は県民運動の柱である「運動習慣の定着」事業として採択され、運動教室の開催費用などが全額助成された。19年度は2,700万円だった事業予算が22年度には1億7,800万円まで拡大。ある県議によると「全額助成というのは珍しい」という。
21年からは超党派で構成される県スポーツ議員連盟事務局長として、同僚県議に実演を行い、県内市町村議員にも働きかけを行うなど「営業熱心」であったが、23年の県議選で落選し、その後は自民党県連の職員を務める(昨年退職)などしていた。
昨年の選挙後から県警が動きだし、「逮捕が近い」とみられたものの、なかなか逮捕されず、一部メディア関係者の間では「捜査が進まず見送られたのでは」との見方もあったようだ。
今回の件に関して不可解な点がいくつかある。1つは中間市議会議長を務めるなど政治歴はあるとはいえ、議員任期の数がものをいう世界にあって、2期生の片岡容疑者がどのような経緯で行政に強い影響力を行使できたのかという点だ。
前述のように県幹部や同僚議員へのアピールを堂々と自身のホームページに公表し、コロナ禍による外出自粛や公共施設の利用規制があったものの、県による全額助成のメリットで年々、トランポリンを使った健康教室の開催自治体も増えていった。並の政治家に、そうした政治力を行使することはできない。
独占事業で売上を伸ばす
もう1つの疑問は贈賄側の鬼木義美容疑者が代表を務める(株)サンライフの事業実態である。同社は1985年に設立され、メイン事業は婦人服販売。近年の売上高は1億8,000万円で推移している。
ケア・トランポリンを開発した(一社)日本ケア・トランポリン協会が市町村の委託を受けて運動教室を開催し、同器具の製造販売を行うサンライフが協会にトランポリンをリースしていた。器具を貸し出していたサンライフにはリース料として補助金の一部が協会側から支払われるというスキームだった。販売は同社の一社独占で、「ケア・トランポリン」が県内自治体の間に広がるに従って売上を伸ばしていった。
国や自治体の健康推進事業や健康ブームが同社にビジネスチャンスをもたらすこととなった。しかし、販路拡大には政治の力が必要で、片岡容疑者が行政への売り込みを行う「営業マン」を務めたといえるだろう。
片岡容疑者が代表を務める「自民党福岡県中間市第1支部」の政治資金収支報告書を確認すると鬼木容疑者が代表を務めるサンライフから多額の寄付を受けていた。
「羽振りの良さ」という点で注目したいのが、昨年10月、同社が博多駅から徒歩数分のオフィスビルを取得していたことだ(「博多駅4分のオフィスビルを北九州のサンライフが取得」)。
取得したのは、8階建のオフィスビル・歯臓ビル。同ビルに隣接するベルコモンズ博多も同社が保有しており、駅前の一等地にビルを所有できるほど、事業が好調だったとみて間違いないだろう。
県議や市町村議員からは「片岡元県議は実直に県民の健康増進に寄与する働きをしていると思っていたし、ケア・トランポリンは高齢者だけでなく、幅広い世代に有効な健康器具であっただけに残念」との声が少なくなかった。
健康増進のための県民運動の一環として行われた事業が一部の利益に使われた今回の件は、県民の行政や政治に対する不信を募らせる行為であり、大きな禍根を残す結果となった。
【近藤将勝】
関連キーワード
関連記事
2025年2月21日 15:302025年2月20日 15:002025年2月20日 13:002025年2月6日 11:002025年2月5日 15:002025年1月16日 16:402025年1月24日 18:10
最近の人気記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す