【鮫島タイムス別館(33)】少数与党国会 勝者は維新? 自民・立憲の大連立?
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自公連立の石破政権は昨年10月の衆院選に惨敗して過半数を割り込み、少数与党となった。立憲民主党か、日本維新の会か、国民民主党か。野党3党のうち少なくとも一党の賛成を取り付けなければ予算案を可決できない。今年の通常国会は与野党5党が入り乱れ予算案の修正協議を繰り広げている。石破政権はどの野党の主張を受け入れるのか。国会は明らかに緊張感を増した。
国民民主党が予算案賛成の条件に掲げたのは「年収の壁」(所得税の非課税枠)を103万円から178万円に引き上げることだ。所得税の大幅減税である。衆院選でこの公約を掲げて「手取りを増やす」と訴え、議席を4倍に増やした。石破政権は昨年末の予算編成で123万円への引き上げを決めたが、国民民主党は178万円の満額回答を主張し継続協議となった。
維新が賛成の条件にしたのは「高校無償化」だ。自民党より立憲民主党を敵視して「野党第一党の奪取」を目標に掲げてきたが、衆院選で惨敗。新代表に就任した吉村洋文・大阪府知事は野党第一党奪取の目標を引き下げ、今夏の参院選1人区で立憲と予備選を実施し候補者を一本化すると表明する一方、国会運営を仕切る共同代表には石破茂首相と親密な前原誠司元外相を起用し石破政権への接近を図った。前原氏は早速高校無償化を受け入れさせ、国民民主党を追い抜くように石破政権へ急接近したのである。予算案は維新の賛成で成立が確実になった。維新の「大逆転」という様相だ。
国民民主党は不要になった。石破政権は一変して冷淡になり、「年収の壁」の修正案は「所得制限」を設ける骨抜き案に。同党の躍進を支えたサラリーマンら中間層に減税効果はほとんどなく、手取りはさして増えない。容認できない修正案を示して、国民民主党を切り捨てたのだ。
立憲民主党は、与党との政策協議でしのぎを削る維新や国民民主党とは一線を画しながらも、与党との距離を着実に縮めた。少数与党国会の予算審議を仕切る衆院予算委員長に就任した安住淳元財務相は、自民党の森山裕幹事長とは昵懇の仲。2人は与野党の国会対策委員長として「裏取引」を重ねた大物国対族だ。今国会は森山-安住ラインが水面下で示し合わせた通りに進んでいるとみていい。
まずは旧安倍派裏金事件で有罪判決を受けた元会計責任者・松本淳一郎氏の参考人招致問題である。安住氏は全会一致で招致を決める慣行を51年ぶりに破り、野党の賛成多数による議決を容認した。参考人招致に強制力はなく、松本氏は出席を拒否したが、衆院の予算審議が大詰めを迎えた段階で森山氏が松本氏を説得し、国会外で非公開で行うことを条件に容認に転じた。実施方法をめぐって与野党の調整はなお難航し、この問題が予算審議最終盤の最大の問題となっているが、最終的には与野党は合意し、参考人招致の実現と引き換えに予算案は円満に採決されることになろう。与野党の激突を演出しつつ、予算の年度内成立ははたす。すべては森山氏と安住氏のシナリオ通りである。
安住氏が裏金事件の真相解明を本気で目指すのなら、参考人招致ではなく、強制力をともなう証人喚問を最初から決めるべきだった。あえて参考人招致の実現を与野党最大の攻防ラインに据え、証人喚問を回避したい森山氏の顔を立てたのだ。当初から「落とし所」は決まっていた。まさに出来レースといっていい。
予算の年度内成立と証人喚問の回避。森山氏は安住氏から満額回答を得た。それだけでは安住氏の「一方的な損」になる。国対政治は貸し借りだ。返礼をしなければ成り立たない。
立憲民主党が手にしたのは、高額療養費の自己負担の上限額引き上げの一部凍結だった。石破政権は予算案に大幅引き上げを盛り込み、難病やがんの患者団体が猛反発していた。立憲は国会審議で全面凍結を迫り、石破首相はこれに応じて一部を凍結すると表明したのである。立憲は予算審議で「戦果」を得たのだ。
これも出来レースだった可能性が高い。そもそも自己負担の上限額引き上げは無理筋だった。難病やがんの患者が治療を継続できない恐れがあり、世論の批判が高まるのは予測できた。少数与党国会に提出する予算案としてはあまりに無防備だった。それをあえて盛り込んだのは、当初から立憲の反発を受けて修正することを織り込んでいたからだろう。ハナから「立憲に花をもたせる」ことを予定していたのである。これが森山氏から安住氏への返礼だ。
森山氏と安住氏が目指すのは、参院選後に消費税増税を旗印とした自民・立憲の大連立である。これが実現すれば、2人は大連立政権のど真ん中に君臨する。参院選までは与野党激突を演出し、参院選後は一転して手を結ぶ極秘シナリオを着実に進めているようにしか私には見えない。
森山氏は国対族として野党に人脈を広げる一方、自民党内では少数派閥の領袖に過ぎず、政治基盤は弱い。「影の総理」と呼ばれる権力者に台頭したのは、自公与党が過半数を割り、野党との協議が不可欠になったからだ。自公が過半数を回復すれば、森山氏の出番はなくなる。このまま大連立に持ち込むことが森山氏の政治力を最大化する最善手であり、そのカウンターパートが安住氏だ。
国民民主党はもはや石破政権との関係修復は難しい。岸田政権下では麻生太郎副総裁(当時)を窓口にガソリン税減税の協議を続けた。その麻生氏は今や反石破の急先鋒。国民民主党は予算案に反対し、麻生氏らと組んで石破おろしに加勢するほうが得策であろう。
維新は前原氏と石破首相の盟友関係を頼みに急接近したが、石破首相が退陣すれば共倒れになろう。森山氏は石破首相と心中する気はなく、林芳正官房長官らを後継に担ぎ、現主流派の枠組みを維持して幹事長留任を目論むに違いない。
今国会の予算修正協議は「国民VS維新」で展開し、最後は維新が国民を追い抜くかたちとなった。しかし裏の主役は森山氏と安住氏の国対政治であり、自民と立憲の大連立への布石が着実に打たれているというのが私の見立てである。
【ジャーナリスト/鮫島浩】
<プロフィール>
鮫島浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月、49歳で新聞社を退社し独立。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)。
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