トランプ大統領が台湾をウクライナのように扱わない背景
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国際政治学者 和田大樹
2月末に開催されたトランプ・ゼレンスキー会談は決裂に終わり、一部報道では、トランプ政権は停戦の前にもウクライナ支援を停止する可能性が示唆されている。「アメリカファースト」を掲げるトランプ大統領が自国優先、貿易保護主義、同盟国軽視の路線に舵を切ることは大いに予想されてきたが、今回の会談を通じ、いつまでも米国依存は良くない、いざとなったら米国は日本防衛に消極的な対応を取るだろうなどとの声が国内でも聞かれる。しかし、その懸念は理解できないものではないが、少し冷静に考えてみることが必要だろう。
まず、ウクライナ軽視の路線は、トランプ大統領の一貫した主張に表れる。2024年大統領選で、トランプ大統領は「ウクライナ戦争を24時間で終わらせる」と公約し、軍事支援縮小やロシアとの交渉を提案した。24年12月9日のNBCインタビューではウクライナへの支援削減を示唆し、早期終戦を強調した。また、トランプ大統領は1月23日にも、ウクライナ戦争は資源を浪費する「ばかげた戦争」と表現し、欧州に負担を押し付けたい意図を示した。トランプ大統領はウクライナの領土回復より終戦を優先する姿勢を鮮明にしているが、これはウクライナが米国の安全保障や経済に直結しない遠隔地の紛争と見なされるためだろう。
しかし、こういった姿勢が台湾に示されるかというと、その可能性は低い。台湾は中国への対抗という意味でトランプ大統領にとって戦略的価値が高い。トランプ大統領は24年10月、「中国が台湾侵攻なら壊滅的関税を課す」と述べるなど経済的抑止を強調し、また、1月には「台湾は防衛費を払うべき」と言及したが、ウクライナとは異なり台湾への関与の可能性を残した。トランプ政権の人事では、国務長官や安全保障担当の大統領補佐官にそれぞれマルコ・ルビオ氏、マイク・ウォルツ氏が起用されているが、両氏とも対中強硬派で、台湾を対中政策の中核に位置付ける。この違いは地政学的優先順位に由来し、ウクライナは欧州が対応すべき問題、台湾はインド太平洋での中国覇権阻止の最前線であり、ハワイやグアムなどを考慮すれば、米国の安全保障を直接脅かす問題ともいえよう。
また、トランプ大統領の個人的な世界観も影響していよう。トランプ大統領はイデオロギーより実利を重視し、ウクライナ紛争を取引で解決可能とみる。一方、台湾は中国との対決の舞台であり、強硬姿勢を演出する場であり、ウクライナを「終結すべき戦争」、台湾を「抑止すべき危機」と位置付ける違いが明確である。結論として、トランプ大統領がウクライナと台湾を同一視しないのは、ウクライナが米国の直接的利益から遠い一方、台湾は対中戦略の主要なファクターとなるからだ。トランプ外交は実利を優先し、台湾は中国との取引や抑止の駒として、ウクライナとは異なる扱いを受ける。これが両地域への対応の違いをかたちづくる背景といえよう。
<プロフィール>
和田大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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