トランプ政権 ウクライナと台湾への対照的な関与姿勢、その違いとは

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国際政治学者 和田大樹

台湾海峡 イメージ    トランプ政権がウクライナへの関与に消極的である一方、台湾への関与を続ける理由は、米国の安全保障における優先順位と対中国戦略に深く根ざしている。ウクライナは欧州におけるロシアとの地政学的対立の焦点であり、米国にとって直接的な安全保障上の脅威とはみなされにくい。これに対し、台湾はインド太平洋地域での中国の覇権拡大を抑止する要として、ハワイやグアムを含む米国の安全保障に直結する戦略的要衝である。この違いが、トランプ政権の姿勢を明確に分ける核心である。

 まず、ウクライナへの消極性を考えると、トランプは一貫して「アメリカ第一」を掲げ、遠隔地の紛争への介入に懐疑的だ。ウクライナ紛争はロシアとの代理戦争の側面をもちつつも、米本土やその直接的利益に即座に影響を与えるものではない。2025年4月時点で、トランプ政権はウクライナ支援を縮小する意向を示唆しており、これは欧州同盟国への負担分担を求める姿勢と一致する。ロシアの脅威は主に欧州におよぶものであり、米国が過度にリソースを投入する必然性は低いと判断している。加えて、トランプは軍事支援よりも経済的・外交的圧力を優先し、コストのかかる長期関与を避ける傾向がある。

 対照的に、台湾への関与は対中国戦略の不可欠な一部だ。中国は経済力と軍事力を背景にインド太平洋での支配を拡大しており、台湾はその最前線に位置する。台湾が中国に支配されれば、南シナ海や東シナ海の制海権が中国に傾き、ハワイやグアムといった米国の太平洋拠点が直接的な脅威にさらされる。ハワイは米太平洋軍の司令部があり、グアムは戦略爆撃機や潜水艦の基地として機能する。これらが中国のミサイル射程内に入るリスクは、米国の安全保障にとって看過できない。トランプ政権が台湾への武器売却や軍事協力を継続しようとする背景には、中国の海洋進出を封じ込め、太平洋における米国の覇権を維持する意図がある。

 さらに、経済的観点もこの違いを補強する。ウクライナ支援は主に軍事援助に依存し、米国の直接的な経済利益に結びつきにくい。一方、台湾は半導体産業の世界的拠点であり、とくにTSMCは米国のハイテク産業に不可欠だ。中国が台湾を掌握すれば、米国のサプライチェーンが混乱し、経済安全保障が脅かされる。トランプの現実主義的アプローチは、こうした戦略的・経済的利害を重視する。

 要するに、ウクライナへの消極性は直接的脅威の不在とコスト回避によるものであり、台湾への関与は対中国抑止と米国本土の安全保障に直結する戦略的必要性に基づく。ハワイやグアムを守るため、トランプ政権は台湾を防衛ラインと位置づけ、中国への対抗を優先するのだ。この対比は、トランプの安全保障政策が地域ごとの利害計算に依存していることを示している。


<プロフィール>
和田大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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