【クローズアップ】技能実習から育成就労へ 制度導入を見据えて変わりゆく外国人材

 外国人技能実習制度が廃止され、育成就労制度が2027年4月に施行される方向で調整が進められている。制度の転換は、外国人材の定着と育成を見据えた、企業側の姿勢と体制づくりを見直す契機になるとみられ、企業はこれまで以上に外国人材との向き合い方が問われることになる。

外国人材の新制度 2027年4月から施行に

 外国人技能実習制度が、まもなく大きな転換点を迎える。政府は、外国人技能実習制度の廃止と、外国人材の受け入れに関する新たな制度「育成就労制度」の導入に向け、関連する出入国管理法等の改正法を2027年4月1日に施行する方向で調整に入った。

 外国人技能実習制度は、1993年に制度化され、「開発途上国への技術移転」を目的として運用されてきた。しかし実際には、人手不足に悩む国内企業が安価な労働力を確保する手段として利用してきた側面が強く、本来の研修・教育的な意義は次第に形骸化し、制度の理念と現場の実態との乖離が深刻な問題として指摘されるようになっていた。加えて、実習生の長時間労働、低賃金、暴力やハラスメントといった人権侵害事例が後を絶たず、制度全体に対する国際的批判も発生していた。たとえば、米国務省は2024年6月発表の人身売買報告書において、日本の外国人技能実習制度は強制労働防止対策が不十分であるとし、日本を上から2番目の評価ランクに据え置く判断を下している。

 こうした背景を受け、政府は23年11月、有識者会議の最終報告書を基に、技能実習制度を廃止し、新たに「育成就労制度」へ移行する方針を示した。新制度の最大の特徴は、外国人材を自国へ技術を持ち帰る研修生ではなく労働者として正式に位置づけ、労働法の適用と在留資格の明確化を図る点にある。さらに、一定の要件を満たせば転籍も可能となった。これによって企業側には従来以上に、職場環境や待遇、教育体制の整備が求められるようになり、受け入れ体制が整っていない企業は、人材の定着はおろか、確保すら困難になる可能性もある。

 この制度転換により、企業は、今まで以上に外国人材を共に働く人材として、より長期的な視点を重視した制度利用が求められるようになる。外国人労働者に対する育成支援の環境をいかに構築できるかが、企業の外国人材戦略の成否を分けると考えられる。

数字が示す採用後の課題

技能実習生失踪者数推移

 従来の技能実習制度の構造的な限界は、近年の統計からも明らかだ。23年末時点での技能実習生の在留者数は約40.5万人に上り、永住者に次ぐ規模を占めている一方で、同年の失踪者数は9,753人、失踪率にして約1.9%に達している。これは実習生50人に1人が失踪している計算であり、制度設計の不備や運用上の問題が背景にあることは明白である。低賃金、長時間労働、劣悪な住環境といった待遇面の不満があったとしても、原則として転籍が許されていないことが、こうした失踪の一因とされている。

 また、制度に対する違反や不正も深刻な水準にある。外国人技能実習機構によると、23年度の実習実施者(実習生の受け入れ先)および監理団体への是正指導件数は合計で1万723件。とくに実習実施者に対する指導件数は8,371件に上り、違反内容は時間外労働の超過、業務逸脱、ハラスメント対応の不備など多岐にわたる。さらに技能実習計画の認定取消は、23年は1,403件に達しており、制度の健全性が根底から問われている状況だ。

指導件数の推移

 こうした違反には、監理団体の機能不全も背景にある。全国に約3,700件の監理団体が存在するが、その質には大きなばらつきがあり、十分な監督・支援を行っているとはいえない団体も少なくない。監理団体が機能しなければ、制度全体が形骸化し、不正や人権侵害を見過ごす土壌が広がることになる。

 また、制度の目的と実態の乖離は、技能実習生から特定技能制度への移行率にも表れている。技能実習制度は本来、習得した技能を母国に持ち帰り活用することを前提としていた。にもかかわらず、実際には多くの実習生が日本国内での継続就労を選択している。24年12月末時点における特定技能1号在留外国人28万3,634人のうち、およそ6割にあたる16万5,397人が技能実習からの移行であり、これは、技能実習制度がもはや研修という建前で語ることは難しい現実を示しているといえる。

「受け入れる」から「育てる」へ

 こうした実態を踏まえて、新しい育成就労制度では、3年間の就労を通じて特定技能1号に相当する技能を身につける人材を育成することが、制度の主要な目的の1つとして明確に位置づけられることになった。この育成期間のなかで、外国人労働者が特定技能1号の在留資格へ円滑に移行できるよう、企業には計画的な人材育成が求められることになる。

 特定技能1号への移行には、一定の技能と日本語能力が必要とされる。具体的には、技能検定試験三級または特定技能1号評価試験に合格することに加え、日本語能力ではA2相当以上、いわゆる日本語能力試験のN4程度の水準が求められる。企業には、これらの要件を見据えた日常的な実務指導と日本語学習機会の提供体制が求められている。

 特定技能1号の在留期間は最長5年であるため、育成就労制度の3年と合わせると、最大で8年間の中長期的な雇用が可能となる。さらに、高度な技能を有する者が特定技能2号へ移行した場合には、在留期間の上限が撤廃され、事実上、日本での永続的な就労や在住も視野に入る。これは、外国人材を一時的な労働力としてではなく、社会の担い手として迎え入れる可能性が開かれていることを示している。

 また、育成就労制度の特徴の1つに、条件付きながら転籍の自由が認められる点がある。これにより、外国人労働者は自身の判断で職場を選び直すことが可能となり、企業の内部環境が外国人材の定着や流出に今まで以上により影響することが十分予想される。労働条件、教育制度、福利厚生、職場文化といった要素が、外国人材の定着を決める重要なファクターとなるだろう。

 国内の人材市場においても、離職率や働きやすさが企業の採用力に直結する状況が定着してきているが、外国人材の採用・定着においても同様に、信頼される職場であるかどうかがより重要視されるようになる。このように育成就労制度の導入は、制度を利用する企業に対して、制度への形式的な対応を求めるにとどまらず、人材とともに成長する組織へと進化するよう求めるものと理解できる。この意識転換を企業自身が取り組むことができるかが問われることになる。

 また、制度移行にともなって従来の監理団体も監理支援機関と名称が変わり、あらためて許可が必要となるほか、外部監査人の設置が義務づけられるなど、監理の独立性や中立性を高めるための措置も講じられる。また、外国人材の受け入れにともなう費用負担についても、企業側が一部を担う仕組みとなる見込みであり、受け入れる側の責任はこれまで以上に重くなる。

 制度全体の自由度が高まる一方で、企業にとっての運用上の負担も確実に増していく。だからこそ、外部任せにせず、自社の方針としてどこまで体制を整えられるかを見極め、具体的な取り組みへとつなげていく姿勢が求められる。

制度を踏まえた外国人材支援の最前線

 制度移行を前に、企業からは育成就労制度が具体的にどのように変わるのかという不安や疑問の声が大きい。とりわけ注目されているのが、先述の通り制度改正によって2年目以降に転籍が可能になる点だ。このような制度設計の変更は、企業に対して外国人材をどのように定着させるかという視点を迫るものとなるため、地方の中小企業ではとくに深刻な課題として受け止められている。

 こうした現場の声に対応する支援機関の1つが、地球人.jp(株)(福岡市博多区)である。同社は、福岡市に本社を構え、外国人材の採用支援、就労環境整備、キャリア支援を手がける。1999年の創業以来、制度の変遷と現場の実態を両面から見つめ、外国人材と企業がともに成長できる仕組みづくりを支えてきた。

同社執行役員・事業管理本部長の山本剛央氏から、制度移行期における支援現場の課題と今後の展望について話を聞いた。

 山本氏によれば、実習実施者においては、時間外労働の過多や業務範囲の逸脱、宿舎基準の不備、残業代の誤計算といった意図しない違反が依然として多く見受けられるという。これは制度理解の不足や担当者不在といった社内体制の不備に起因するものであり、早期の対応と継続的な教育による改善が急務だと指摘する。

 また、山本氏は「外国人労働者側のニーズも大きく変化している」と話す。かつてのような短期就労型モデルから、長期的なキャリア形成や生活の安定を求める傾向が強まっており、勤務地の希望や日本語教育、福利厚生などを重視して職場を選ぶケースが増えているという。育成就労制度により日本で長く働く人が増えることが予想されるなか、給与額のみならず職場環境や成長機会を重視した職場づくりが求められる。

 こうした変化に対応するため、地球人.jpでは外国人労働者に対する支援体制を構築している。日本語教育の提供、一時帰国制度への対応、生活面のサポート、文化的相互理解を深める社内研修など、多角的な取り組みにより、制度対応を超えた育成支援を行っている。

 とくに福岡のような地方都市では、関東・関西エリアの都市部との賃金差による人材流出のリスクが高い。これに対して地球人.jpは、地域内の企業連携やキャリアパスの明示といった工夫により、地方においても十分な人材定着が可能だと見ている。今後の受け入れ企業の在り方について尋ねたところ、「企業が選ばれる側であるという意識をもち、制度や支援の在り方を見直すことがカギとなるだろう」と山本氏は強調した。

 今後、地球人.jpがより注力していくのは、外国人材のキャリア支援と企業の人材育成支援という両輪の強化だ。育成就労制度下で特定技能1号・2号へのステップアップを実現するためには、日本語能力の向上支援やキャリア設計の支援が欠かせない。同時に、転職市場の整備や労務トラブルの予防といった観点からも、企業の側における人的資本への投資が求められる。

 育成就労制度は、制度そのものの柔軟性が高まる一方で、企業にとっては法令遵守、教育体制、職場環境整備といった運用負荷も確実に増す制度である。「制度が変わっても、人を育て、人が育つ企業づくりをサポートするという姿勢は変わらない」と語り、今後も現場に寄り添いながら支援を続けていく考えを示した。

実習実施者における主な違反指摘内容別件数

外国人材も社会を支える1人として

 今後、日本の深刻な人手不足を補ううえで、外国人材が社会の一員として働く光景は、ますます当たり前のものになっていくだろう。もはや一時的な労働力ではなく、地域や産業を共に担う人材として、外国人を迎え入れる視点が、企業にも社会にも求められている。

 これからの外国人雇用においては、単に人を雇うという考え方から脱却し、長期的に共に働く関係を築くという発想が不可欠である。そのためには、外国人材の育成を前提とした雇用体制を整えるとともに、それぞれの文化や価値観を尊重する社内風土を培うことが求められる。制度が変わる今こそ、企業は社会を支える存在として外国人材を迎える環境を整える必要がある。

【岩本願】