卯の花の咲く頃

 福岡市早良区脇山から五箇山ダム方面へ通じる県道136号線は、曲がりくねった山道です。早良区南部の荒谷集落や板谷集落の生活道路でもあります。板谷集落までの道路にはカーブに番号が表示されており、30カ所以上にのぼります。

 標高約600mの板谷集落からさらに上ると、脊振山(1,055m)に自衛隊のレーダー基地があります。このレーダー基地は、日本における南の防衛の要とされる重要な施設です。

脊振山概念図
脊振山概念図

 4月末から初夏にかけて、その曲がりくねった県道の両端は、白い木々の花で彩られます。背の高いサワミズキは樹木いっぱいに白い大きな花をつけ、山の風景をにぎやかにしています。

 また、斜面には白い花がお辞儀をしてのり面を飾っています。卯木(ウツギ)の花です。「卯の花(ウノハナ)」といったほうが、親しみがあるかもしれません。童謡「夏は来ぬ」で歌われている花です。

卯の花
卯の花

 白い花にアオスジアゲハやクロアゲハなどの大型のチョウ類が蜜を吸いにやって来ます。チョウも種類によって好みの花があるようです。

卯の花に泊まるアオスジアゲハ
卯の花に泊まるアオスジアゲハ

 童謡「夏は来ぬ」の歌詞は、明治の歌人であり国文学者の「佐々木信綱」によるものです。三重県鈴鹿市の旧東海道・石薬師に佐々木信綱の記念館があります。娘家族が四日市市に在住しており、遊びに行った際、旧東海道を歩いたことがあります。

 鈴鹿市は四日市市の隣街で、旧東海道を歩いているときに一度、佐々木信綱記念館を訪ねたことがあります。国文学者としてドイツに留学もしていたようです。記念館では『夏を来ぬ』を記念して卯の花の苗木が売っていました。石薬師の旧東海道筋の各家々の軒先には和歌が飾られ、佐々木信綱の功績をたたえていました。また、鈴鹿市は鈴鹿サーキットのある所です。

「卯の花の、匂う垣根に時鳥(ほととぎす)、早も来鳴きて 忍び音(しのびね)もらす、夏は来ぬ」
(注釈:忍び音もらす:こっそりとホトトギスが鳴く様子/夏は来ぬ:夏がきた)

 今では使われない歌詞もありますが、初夏の時期、脊振の山では歌詞のようにホトトギスが忙しく「トウキョウ トッキョ キョカキョク」と鳴いています。

 夏鳥のホトトギスは別の種類の鳥の巣に卵を産み落とし、自分では子育てをしません。いわゆる托卵です。親鳥は自分の子どもと思ってせっせと餌を与え、親鳥より大きくなっても子育てをするようです。

 脊振の山では5月~7月にかけて白い花で賑やかになります。NHKラジオの植物に関する番組で「野生の花の色は、白が33% 黄色が30% 」と伝えていました。

 ある日、若い女性に「卯の花を知っていますか」と尋ねたところ、「豆腐のオカラのことですか」と返されました。時代も変わってきました。

脊振の自然を愛する会
代表 池田友行

関連記事