自民党が惨敗した「東京都議選(6月22日投開票)」は、飛ぶ鳥を落とす勢いだった国民民主党の失速を可視化する結果でもあった。「都議選完全予測」(『週刊文春』6月19日号)が12議席と予測するなど、2ケタの議席獲得が確実視されていたが、9議席にとどまり、目標とした条例提出権のある11議席にすら届かなかったのだ。
国民民主党の失速を物語る象徴的選挙区の1つが、立憲民主党との因縁の対決となった八王子選挙区(定数5)。ここで立民現職だった須山卓知(たかし)都議が3月30日に離党届を提出して無所属となり、5月16日には立民会派を離脱、6月13日公示の都議選では国民民主党から推薦を受けることになったのだ。

これに対して立民は、元衆院議員秘書で目黒区議だった細貝悠氏を急きょ公認候補として擁立。当初は、地方選挙でほぼ連戦連勝、政党支持率でも上回っていた国民民主党推薦の須山氏が有利と見られていたが、ふたを開けてみると、細貝氏が4位で当選する一方で須山氏は落選してしまったのだ。公示翌6月14日には玉木代表が応援に駆けつけたにもかかわらず、である。
私はこの日、八王子駅前街宣を終えた玉木代表を直撃、「変節候補を応援するのか。(立民離党の須山都議は)小池野党だったではないか。変節候補の(選挙)互助会ですか、国民民主党は。小池都政は批判しないのですか。巨大噴水――」と声かけ質問をしたが、玉木代表は無言のまま車に乗り込み、走り去った。
その後、須山氏にも素朴な疑問をぶつけてみた。
――小池野党だったのに今回、国民(民主党)から応援を受けたら小池与党になるのではないか。
須山氏 そこまで(小池)与党という感じにはならないと思う。是々非々でやっていくし、都議会の候補者の仲間もけっこう都民ファとも、もちろん同じ考えのところもあるし、違うところもあるしという感じでやっているので、そこは(小池知事)べったりにはならないと思う。
――玉木さん、巨大噴水とか小池都政を批判しなかったではないか。
須山氏 そうです。あまり頭に入っていないのかもしれない。
――小池さんと仲はいいので。
須山氏 仲はいい。
――(国民民主党の)支援を受けたら小池与党になってしまうのではないか。
須山氏 (小池知事からは)支援を受けていないから。
――(国民民主党の)応援を受けているではないか、玉木さんから。
須山氏 玉木さんはね。
――榛葉さんの写真もあったし。
須山氏 小池さんにはそんなに(応援)されていないので。

国民民主党が地方選挙で上位当選を繰り返してきた今年春までは「同党の看板を背負えば、当選確実」とささやかれていたが、6月の都議選では状況が一変。潮目が変わった主原因は、5月14日に参院選比例区の候補予定者として、山尾志桜里・元衆院議員や須藤元気・元参院議員ら4人の発表であったことは明白だ。直後の静岡県島田市での国民民主党の街宣に駆け付けた女性支持者ですら、こうあきれ返っていた。
「不倫スキャンダルの山尾さん公認で女性票が激減しているのは確実。私の周りにも『選挙区は国民民主党に入れても、比例はほかの党に入れる』という支持者がたくさんいます」
このころから野党トップだった政党支持率は急落、立民に追い抜かれることになった。こうした支持者離れに耐えかねてか、国民民主党は6月11日、公認取り消しを決めた。山尾氏が単独で2時間以上におよぶ記者会見をした翌日のことだった。
これに対して山尾氏は離党届を出して決別。玉木代表が前日の会見に同席しなかったのは、公認辞退が条件だったという内情も暴露した。会見前から公認取り消しが党の既定路線だったのに、不倫報道に関する質問が相次いだ出馬表明会見でさらし者になる羽目に陥ったのだ。「候補を切り捨てる冷酷な国民民主党」というイメージが一気に広がり、さらなる支持率低下を招いたのだ。
そこで都議選公示日の6月13日、都内での応援演説を終えた玉木代表に「山尾切りを説明しないのはなぜか。候補者切り捨て政党、使い捨て政党と呼ばれますよ」と声掛け質問をしたが、玉木代表は「頑張ってください」というだけで車に乗り込み、次の街宣場所に向かっていった。
昨年秋の衆院選で東京15区から出馬した須藤氏にも、須山氏と同じような変節批判の声が上がっていた。脱原発派だったのに、原発推進の国民民主党の予定候補となったためだ。
全国各地で街頭演説をする玉木代表の定番ネタは「受かりたいから国民民主に来るとか、選挙を就職活動にしない」と強調することだ。しかし「元議員再就職の受け皿(選挙互助会)政党なのか」といった疑問が噴出。れいわ新選組の山本太郎代表も5月17日、大阪で開かれた「おしゃべり会」で須藤氏について議員復帰を優先したのだろうと述べた。
質問タイムのときに私が「かつて山本代表と連携、ともに脱原発を訴えていた須藤元気さんが先日、国民民主党の予定候補になったが、その際、原発推進の確認書にもサインをした。脱原発から原発推進にかじを切ろうとする国民民主党の危険性、および庶民の味方みたいなアピールをして支持率が野党で一番になっているが、国民民主党の化けの皮をどう剥がして、対抗していくのかについておうかがいしたい」と聞いたときのことだ。山本代表はこう答えた。
「(東京都知事選で)須藤さんは立憲民主党を辞めて山本太郎を応援してくれた。そういった意味で、私は彼に恩を感じている部分はある。今回の選挙において須藤さんは、国民民主党から出られる。何を狙ったのかというと、確実に議席を取ることを多分目指されたのだろうと思います」「これまで言ったことと少しタッチが変わったのではないかということで批判を浴びているのだと思うが、でも、究極はその人の人生であり、彼が一番最優先させたことは議員バッジをつけることだったのだろうと思います」
穏やかな話しぶりで、玉木代表の常とう句「受かりたいから国民民主に来るとか、選挙を就職活動にしない」を打ち砕いた瞬間だった。「国民民主党は、変節した元議員再就職の受け皿」「玉木代表はきれいごとを言っているだけ」という不信感が募るからだ。山本代表は、こう続けた。

「国民民主党を見てみれば、原発関連の労組だったり、そこからもお金をもらっていますよね。だから、彼ら(国民民主党)は確認書のなかで原発再稼働だと言っているわけです。日本国内で原発を再稼働させていって、エネルギーの中心を担うのは自殺行為なのです。大きな地震が山ほどあって、地震に耐えられないということが明らかなのだから、国民の生命財産を守るために原発を再稼働するのは、詭弁(きべん)でしかない」
須藤氏がサインした確認書には「エネルギー安全保障の観点から原子力発電の必要性を認め、議論する」と書かれている。しかし2024年衆院選候補者アンケート調査で須藤氏は「『段階的に廃炉し、将来的に原発を全廃する』に近い」と答えていた。議員バッジをニンジンのようにぶら下げられ、原発の必要性を認める確認書という踏み絵を踏んだとしか見えない。「変節候補」と呼ばれても仕方がないのではないか。
原子力ムラの一翼を担う国民民主党は、脱原発派を変節させるけん引車役をしているともいえる。原発事故のリスク増大で国民の生命財産を脅かす疫病神のような存在であることに、どれだけ多くの国民が参院選投開票日(7月20日)までに気が付くのか否かが注目される。
【ジャーナリスト/横田一】