【トップインタビュー】百貨店らしさと人の価値の追及で 地域とともに継続的な成長を目指す

(株)井筒屋
代表取締役社長 松本圭 氏

 創業90周年という節目の年、(株)井筒屋は新たな中期経営計画をスタートさせた。百貨店業界を取り巻く環境は厳しさを増す一方で、同社は「北九州地域唯一の百貨店」としての存在意義を再確認し、中長期的に目指す姿として地域経済と社会の発展への貢献を明確に掲げている。5月に代表取締役社長に就任した松本圭氏のもと、百貨店らしさの追求を経営の核に据え、顧客基盤の拡大と店舗価値の向上に取り組む。松本社長に話をうかがった。

百貨店らしさを追求

(株)井筒屋 ​​​​​​​代表取締役社長 松本圭 氏
(株)井筒屋
代表取締役社長 松本圭 氏

    ── このたびは社長就任おめでとうございます。創業90周年という節目の年に就任されました。

 松本圭氏(以下、松本) このタイミングでの交代は実は偶然と影山会長(前社長)も話しているのですが、先般、私が策定に携わった中期経営計画を出したところでもあり、そのスタート年度ということは多少関係しているかもしれません。

 ── 中計の施策の一番目に「百貨店らしさの追求」を掲げていますね。

 松本 今中計には私の思いがかなり入っています。目指す姿として、「地域の百貨店として、地域の経済・社会の発展に貢献すること」を改めて定めました。地方百貨店は厳しい状況にあり、多くの百貨店が人件費を削減し、テナントに任せる流れになっています。

 しかし、百貨店はかつて流行の発信源であり、良い商品を地域の皆さまに紹介する役割を担っていました。現在はナショナルブランドの取り扱いが多くなっていますが、当社は地域の百貨店として、地域の皆さまのご要望にお応えし、地域経済・社会の発展に貢献するという目標を掲げ、百貨店らしさの追求に徹底して取り組んでいます。

 取り組み指針の一部には、「地域の皆さまの生活の質の向上」「地域の稼ぐ力」への貢献も掲げています。管理本部長時代、約1年半かけて北九州市と近隣の行政機関を回り、意見交換をさせていただきました。

 その過程で各地域にはたくさんの魅力を秘めながらも、流通や売り方が十分でなく利益をもたらしていない商品が多く眠っていることに気づきました。90年の小売の経験を活かし、行政や事業者と一緒に取り組むことで良い商品をつくれるのではと考えています。

 当社は小倉店、山口店に加え多くのサテライトショップをもち、EC、そしてグループ内に卸会社があります。この強みを生かし、事業者とともに商品をつくり、売場で育て、そして外部に広げていくという一連の流れを自社で完結できます。

 地域商社機能の確立にも取り組みます。北九州は「ものづくりのまち」で、優れた技術を持ち国内シェアを何割も占める商品を有する会社が多くあります。そうした技術を最終消費者向けの商品に活かすことができれば、将来性は非常にあると考えています。その実現のため、3月に「地域商品開発担当」という専門部署を立ち上げ、専属の社員を配置しました。北九州のものづくりの強みを小売の立場から商品化に活かし、日本中ひいては世界中に紹介していくことが目標です。

 武内和久北九州市長も「ブランド化」と仰っていますが、「北九州ブランド」の認定などにおいて行政・自治体の力をお借りし、商工会議所にも企業と繋いでいただくなどして、進めていきたいと考えています。ECでも地域性のある「井筒屋でしか買えないもの」をそろえて、当社の強みを出したいと思います。

人ならではの価値を

 ── 百貨店が弱い客層の取り込みにはどう取り組まれていますか。

 松本 現在の中心顧客は60代以上ですが、40代、50代ほか若い富裕層にもアプローチしています。昨年4月に「井筒屋アプリ」をリリースしました。会員は現在約9万3,000名と、当初見込みより前倒しで増えており、当社既存のハウスカード顧客に比べ比較的若い世代が中心です。購買実績を基に効果的な情報提供ができる仕組みの構築に取り組んでいます。

 物販以外で楽しんでもらう試みも始めており、アプリを通じて旅行など非競争領域のサービス情報を提供しています。5~6月に開催した「井筒屋モーターフェスティバル」ではランボルギーニ、マクラーレンなどを展示し、商談のきっかけを提供しました。

 終活に関するサービス(「MUSUBI」)も提供しており、相談先がわかりにくい分野においては外部業者と連携しております。お客さまが「困ったら、とりあえず井筒屋に相談すれば何とかなる」と思ってもらえるようサービスを拡充し、幅広い層のお客さまの力になりたいと考えています。

 ECではシステムを刷新し、取扱商品も倍増させています。インバウンド需要は福岡に比べて大きくはないですが、行政や中心市街地と連携して、SNSなどでの情報発信強化により需要増加に取り組んでいます。

 多くの小売業がデジタル化により省人化を熱心に進めていますが、AIの進化で他の小売業が人的要素を縮小していくなかで、生身の人間が対応することの良さはより価値が増すと考えています。ECの利便性を好むお客さまはいますが、ECがすべてを代替することは難しいのではないでしょうか。

 百貨店ではお客さまとの「人と人のつながり」が非常に重要であり、当社はむしろ人ならではの価値を追求し、対面販売を重視しています。そこで顧客満足度(CS)の向上を重要課題と捉え、以前から「CS統括部」を設け、各フロアにベテランのCS担当者を配置し、テナントとも密に連携して取り組んでおり、効果を実感しています。

【茅野雅弘】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:松本圭
所在地:北九州市小倉北区船場町1-1
設 立:1935年7月
資本金:1億円
売上高:(25/2連結)221億5,800万円


<PROFILE>
松本圭
(まつもと・けい)
1968年3月生まれ、大分県宇佐市出身。91年広島大学経済学部卒業、(株)井筒屋入社。2020年執行役員兼(株)山口井筒屋代表取締役社長。井筒屋取締役本店長、管理本部長などを経て25年5月、代表取締役社長執行役員に就任。休みの日は街に出て散歩をしたり商業施設を訪れたりして過ごす。

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