箱崎、アイランドシティ、千早──開発旺盛な福岡市東区(後)

「FUKUOKA Smart EAST」
アイランドシティは対象外に

 ところで九大・箱崎キャンパス跡地といえば、忘れてはならないのが、福岡市が進めるプロジェクト「FUKUOKA Smart EAST」の舞台となっていることだ。

 16年秋に発表された同プロジェクトは、世界経済フォーラムの「トップ10の都市革新」などの事例を参考に、アジアのリーダー都市を体現する新たなまちづくりのチャレンジとなるもの。全体で約50haという広大な敷地で新たなまちづくりを行うことができる強みを生かし、「跡地利用将来ビジョン」や「跡地利用計画」を踏まえながら、モビリティやセキュリティ、エネルギーといった最先端の技術革新による、快適で質の高いライフスタイルと都市空間を創出し、未来に誇れるモデル都市を創造していくとしており、イノベーションの導入などによってさまざまな社会課題を解決することで、持続可能で快適なまちづくりを目指す壮大なプロジェクトとなっている。その先駆けの場所として選ばれたのが、東区・箱崎(九大・箱崎キャンパス跡地)の地であり、箱崎でのまちづくり事例をやがては全市、さらには都市圏・全国・海外へと波及させていきたい考えだ。

 同プロジェクトでは、18年からはまちづくりに先行して、実証実験や体験会、イベントなどを実施。これまでに「自動運転バス実証実験」「交通事故のない安全な街づくりトライアル」「1人乗り自動運転モビリティの試乗会」「視覚障がい者の歩行をアシストするAIシステムの実証実験」「センサーによる居室での見守りができるシステムの実証実験」などが行われてきており、現在も新たな実証実験の募集を行っているところだ。

 ところで、この「FUKUOKA Smart EAST」だが、16年秋に発表された当初は、箱崎だけでなく、同じ東区のアイランドシティも対象エリアとなっていた。ところが現在では、プロジェクトの対象エリアは箱崎のみとなっており、アイランドシティは外れている。同プロジェクトの発表後からこれまでに、アイランドシティの各所ではさまざまな開発が順次進み、都市機能が充実。そのため、“ゼロベース”で新たな先進的なまちづくりを行おうという同プロジェクトの目論見とそぐわなくなったと見られる。

20周年のアイランドシティに
グランドメゾンも誕生へ

 前述のように「FUKUOKA Smart EAST」の対象エリアからは外れてしまったようだが、アイランドシティは、05年12月のまちびらきから、今年で早くも20周年を迎える。

 当初は空き地ばかりでコンビニすらなかった島内には、いつの間にか大規模商業施設や公共施設、病院、娯楽施設などのさまざまな施設が充実。島内を南北に走る臨港道路アイランドシティ1号線を境に東側と西側で異なる開発が進められ、東側が住宅地や産業用地および公園などで構成される191.8haの「まちづくりエリア」(香椎照葉地区)、西側が埠頭用地や港湾関連用地などで構成される209.5haの「みなとづくりエリア」(みなと香椎地区)として、それぞれ開発が進められてきた。代表的なものを挙げていくと、「アイランドシティ中央公園」(07年開園)や福岡市初の小中連携校となる「照葉小学校」(07年開校)と「照葉中学校」(08年開校)、「福岡市立こども病院」(14年開院)、温浴施設「照葉スパリゾート」(15年開業)、青果市場「ベジフルスタジアム」(16年開場)、福岡市立総合体育館「照葉積水ハウスアリーナ」(18年開館)、「照葉北小学校」(19年開校)、商業施設や劇場、MICE施設、ホテルなどで構成される複合施設「island eye(アイランド アイ)」(20年3月開業)などだ。一方で、福岡空港への航空機の進入路から外れている立地を生かして、「アイランドタワースカイクラブ」(08年8月竣工)を皮切りに、「アイタワー」(16年3月竣工)、「センターマークスタワー」(19年1月竣工)、「照葉ザ・タワー」(22年1月竣工)などのタワーマンションが相次いで林立。今では島内は、海辺のロケーションを臨む市内でも有数のタワーマンション集積地となっている。

 島外への橋が3本(歩道専用橋を含めて4本)しかなく、朝夕の通勤ラッシュ時に交通渋滞が頻発するなど、長らく大きな課題の1つとされていたアクセス面の問題も、21年3月に福岡高速6号線・臨港道路アイランドシティ3号線(通称:アイランドシティ線)が開通したことで、ある程度は解消。まだ鉄道駅からは離れているという課題は残されているものの、災害発生時などのリダンダンシー向上は果たされたかたちだ。そして、22年8月には、みなとづくりエリアおよびまちづくりエリアの両エリアにおける分譲地が完売。一時はアクセスの悪さなどから分譲地の売却が難航し、市の試算での事業収支が160億円の赤字を予想されたこともあったが、先に挙げたような島内の施設・機能の充実に加え、アイランドシティ線をはじめとした道路インフラ整備などの進行で事業用地としてのアイランドシティの評価が上がるとともに、近年の物流用地の需要の高まりも受けたことで、ついに完売となった。

アイランドシティ オーシャン&フォレストタワーレジデンス/ISLANDCITY THE GARDEN/グランドメゾン福岡THE BAY

 そのアイランドシティでは近年、主に積水ハウス(株)によって、また新たなマンション開発が相次いでいる。WESTとEASTの2棟からなる「アイランドシティ オーシャン&フォレストタワーレジデンス」(計620戸[WEST310戸、EAST310戸]/WEST22年8月竣工、EAST23年9月)のほか、V-ⅠとV-Ⅱの2棟からなる「ISLANDCITY THE GARDEN」(計93戸[V-Ⅰ49戸、V-Ⅱ44戸]、25年3月竣工)。さらに現在、満を持して積水ハウスの最上位分譲マンションブランドである「グランドメゾン」シリーズとして、「グランドメゾン福岡THE BAY」の開発が進んでいる。グランドメゾン福岡THE BAYはアイランドシティの戸建エリアにも近接する照葉1丁目に位置し、敷地面積7,972.52m2にRC造・一部S造の地上8階建、延床面積1万5,107.40m2、総戸数43戸(募集対象外住戸21戸含む)となる計画。設計は坂倉・醇設計共同企業体が、施工は照栄建設(株)がそれぞれ担当しており、26年10月の竣工を予定している。

 積水ハウスの最上位ブランド・グランドメゾンができることで、アイランドシティのまちとしてのブランドに、一層の拍が付くことになる。市の分譲地が完売したとはいえ、まだまだ島内の各所では旺盛な開発が続いており、これから再開発が進む箱崎キャンパス跡地と同様に、東区だけでなく福岡市全体の開発の勢いを牽引していく場所となりそうだ。

まちの醸成進む千早 これからに期待の名島

 さて、これから箱崎キャンパス跡地再開発の本格化を控え、アイランドシティでも旺盛な開発が進むなか、両エリアの周辺や間に挟まれた千早や名島などのエリアでも、いくつかの開発が散見される。

 まず、93年度からの「香椎副都心土地区画整理事業」によって、JR香椎操車場跡地を含めた約66.3haでJRと西鉄の高架化や新駅設置などを含めた“東の副都心”の形成が進んできた千早。区画整理はすでに完了し、道路などの都市基盤の整備のほか、中高層住宅や商業施設などの開発が進められ、今の千早の姿となって久しい。24年4月には「スポガ香椎店」跡地を再開発したかたちで、本館、ちはや公園、イースト館の3つで構成されるライフスタイルセンター「ガーデンズ千早」が全面開業。千早エリアの新たなランドマークの1つとなっている。

 その千早では今年1月、国道3号の香椎参道口交差点に位置する「香椎ビッグマートビル」を建て替えた大型分譲マンション「MJR千早ミッドスクエア(千早532プロジェクト)」が、ついに竣工を迎えた。RC造一部S造・地上18階建、総戸数532戸の同マンションは、JR九州(株)、住友不動産(株)、日鉄興和不動産(株)、(株)長谷工不動産の4社による共同開発で、施工はMJR千早ミッドスクエア特定建設工事共同企業体((株)穴吹工務店、九鉄工業(株))が担当。エリア最大級の500戸超の供給とあって、千早エリアに新たな活気をもたらすことが期待される。

MJR千早ミッドスクエア/(仮称)福岡高等技術専門校跡地有効活用事業新築工事

 また、福岡高等技術専門学校の旧校舎跡地では、西側半分(国道3号側/4,058m2)と東側半分(3,300m2)の2つに分けて段階的に再開発が進行。先行して開発が進んでいた西側半分では、23年5月に食品スーパーを核とする複合商業施設「ハローパーク千早店」が開業していた。残る東側半分では、福岡県が定期借地方式による土地貸付での有効活用を図るため、公募型プロポーザル方式による民間事業者を公募。事業公募で選ばれた民間事業者が福岡県から土地を借り受け、新たに公共施設や一般向け店舗、賃貸マンションなどが入居する複合施設を建設・運営していく方針となった。23年5月に、スターツ九州(株)を代表とし、(株)九電工と(株)青木茂建築工房で構成されたコンソーシアムが優先交渉権者に決定。そして現在、「(仮称)福岡高等技術専門校跡地有効活用事業新築工事」として、今年2月に着工。共同住宅や事務所、公民館、飲食店が入るRC造S造・地上14階建、総戸数183戸(ワンルーム66戸、ワンルーム外117戸)の複合ビルとなり、27年2月の竣工を予定している。ほかに西鉄香椎宮前から徒歩3分の千早5丁目では、(株)コーセーアールイーによる投資用マンション「グランフォーレプライム千早」(60戸、25年10月竣工予定)の開発も進んでいる。

グランフォーレプライム千早/エイルマンション名島駅前

 こうして千早エリアでまちの醸成が進む一方で、千早と箱崎に挟まれた名島エリアでは、それほど開発が進んでいるようには見受けられない。西鉄名島駅や国道3号沿いを中心とした名島は、古くからの住宅地が広がるエリアだ。前述の千早エリアの区画整理および再開発が進んだ際に、名島エリアの隣接地でも一部の再開発は進んだものの、エリア全体としてはそれほど開発が進んできた印象はない。そうしたなか現在、西鉄名島駅を道路対岸に見据える名島3丁目の国道3号沿いでは、作州商事(株)による分譲マンション「エイルマンション名島駅前」の開発が進んでいる。RC造一部S造・地上12階建、総戸数94戸で、施工は(株)旭工務店が担当。26年9月の竣工を予定している。名島エリア内では同マンション以外に目新しい開発の動きは見られないが、箱崎と千早に挟まれた立地ポテンシャルは相応に高く、これからに期待といったところだ。

 今回取り上げた箱崎、アイランドシティ、千早、名島の各エリアやその周辺では、ほかにもいくつかのマンション開発が進行。以下、主なものを取り上げてみよう。

 箱崎1丁目では(株)福岡地行による分譲マンション「アクロス箱崎駅前クレスティア」(27戸、25年10月下旬竣工予定)の開発が進行。箱崎1丁目では九州ディベロップメント(株)による賃貸マンション「(仮称)東区箱崎1丁目計画新築工事」(56戸、26年2月竣工予定)の開発が進むほか、同じく箱崎1丁目では(株)オープンハウス・ディベロップメントによる分譲マンション「イノバス箱崎」(73戸、27年8月竣工予定)の開発も進んでいる。また、筥松2丁目では、(株)西日本新聞ビルディングによる賃貸マンション「(仮称)筥松2丁目プロジェクト新築工事」(48戸、25年10月竣工予定)の開発が進行。さらに、香椎駅前3丁目では大英産業(株)による「サンパークシティ香椎」(90戸、26年10月下旬竣工予定)の開発も進んでいる。

アクロス箱崎駅前クレスティア/サンパークシティ香椎

 九大・箱崎キャンパス跡地とアイランドシティを中心に、周辺を含めたエリア各所で再開発が進む東区。ほかにも、再開発を控えるかしいかえん跡地や、Park-PFIによる整備が計画されている香椎浜北公園など、今回取り上げなかった開発プロジェクトも複数控えており、東区における再開発の進行が、都心部の再開発に負けじと福岡市全体の勢いをさらに牽引していくことを期待したい。

(了)

【坂田憲治】

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