閣内不一致? 石破首相はコメ増産表明も小泉大臣は減反政策1年継続容認

 石破首相は8月5日、コメの安定供給に関する関係閣僚会議で「生産量に不足があったことを真摯に受け止め、今後の需給逼迫に柔軟かつ総合的に対応する」と述べて、コメ増産への方針転換を表明した。

 コメ増産は石破首相が農水大臣時代(2008~09年)からの自論だが、当時は農水族らの反発で頓挫。それから15年以上を経て、ようやく減反政策からの転換が始まるかと思いきや、2026年度の概算要求では前年度とほぼ同額の減反関連予算が盛り込まれていたのだ。

 このことを8月29日の小泉農水大臣会見で初めて指摘したのは「ニュースソクラ」の土屋直也記者。農水省の概算要求について「概算要求を見る限りは、(減反政策である)『水田の転作奨励制度』などもしっかり残っていて(中略)、どこが変わったのだろうというふうに受け取る国民の方々も多いと思う。なぜ(減反政策の)転作奨励金がまだ残っているのか」と問い質したのだ。

小泉農水大臣会見    これに対して小泉大臣は、こう答えた。「(2年後の)令和9年度以降にコメ政策を大きく転換をしていく。これは政治のなかのスケジュール、そして現場の農村地域、農業者の皆さんとも共有しているスケジュール感でもある」「さまざまな制度が今までも歴史的に続いているなかで、いかに現場の混乱を大きくしないかたちで新たな方向性につなげていくか、そういったことからすれば、今回の予算もそのように見ていただければ、正当な評価が得られるのではないかなというふうに思っている」。

 要するに小泉大臣は、現場の混乱などを理由に「大きく動かすのは2年後の令和9年度」と強調したのだ。

 これを受けて私は、前倒しをしない理由を次のように聞いてみた。

 ――今の質問に関連して、何で前倒ししないのか。(8月28日の視察の意見交換で)福島で農家の方に聞かれて、「来年度から直接支払とか所得補償など、大胆なコメ増産に舵を切る政策を打ち出してほしい」という声は出なかったのか。

 小泉大臣(以下、小泉) 出なかった。

 ――(コメづくりを)若い世代にいかに引き継ぐかが重要課題になると思うが、それでも「(コメ増産の政策を)前倒ししてほしい」とか「直接支払をすぐにでもやって欲しい」という声は出なかったのか。

 小泉  出なかった。

 ――(前倒しの)必要性も感じてないと、大臣自身が…。

 小泉 農家さんからすると、前倒しの声は直接はあまりなくて、むしろ米価の安定を求めている。今ものすごい高止まりをしているが、長期的な見通しが立つような、安定した今後の環境づくりをやってもらいたいと(いうことを求めている)。

 前倒しに否定的な小泉大臣に対して私は9月2日の会見に再度、同主旨の質問をぶつけてみた。

 ――石破総理がコメ増産を表明する一方で、大臣が減反政策1年継続をいうのは「言行不一致」「二枚舌」と多くの国民、野党は批判するのではないかと思うが、野党の農業政策、直接支払、農家への所得補償を立憲民主党や国民民主党は要求しているが、こういう野党の農業政策を取り込む考えはないのか。

 小泉 前回の記者会見で土屋記者への答えだったと思うが、(2年後の令和)9年度からの新しいコメ政策への転換へとつなげていく。ここを「前倒しにしろ」という要求は農家の方からもあまりなく、むしろ混乱なく繋いでいくために継続すべきは継続する、こういった対応も大事なことだというふうに受け止めているので、そこは今、概算要求について野党からも批判があることは、私は直接はうかがったことはない。

立憲民主党 小川幹事長会見    しかし同日(2日)の立憲民主党の小川幹事長会見で、この小泉大臣発言について聞くと、こう答えた。

「これまでの小泉大臣の話しぶりを前提にすれば、速やかな改革のための予算なり新たな制度を提示し、即実行に向けて動かれているのだろうと当然理解していた」「(概算要求での減反予算1年継続は)極めて緩慢とした対応で、不適切、不十分、遅きに失しているという感想を禁じ得ない」

 こうした批判は小泉大臣の耳にはまだ届いていないようだが、参院選で農家への所得補償(直接支払)を掲げた立憲民主党や国民民主党などの野党が「減反予算の一年継続」「二年後(令和9年)からのコメ増産政策(農家への直接支払など)の本格的開始」に賛同するはずはない。コメ増産をめぐって今後、与野党の間でどんな論戦が繰り広げられるか注目される。

【ジャーナリスト/横田一】

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