安倍元首相の事件へとつながる統一教会との関係(前)~日本を取り戻すはどこへ?
2022年7月8日の安倍元首相銃撃事件から3年が経った。25年10月28日に始まった山上徹也被告の裁判員裁判では、山上被告の母親や妹の証言を通じて、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との出会いや高額献金による家庭崩壊が明るみになった。日本を愛する保守政治家・安倍晋三元首相は日本を取り戻すことや家族の絆を強調していたが、日本は韓国に償いを行う必要があるとする統一教会と近しい間柄であった。改めて安倍氏ら保守政治家と教団の関係を考える。
母親の入信時期と教団路線
11月13日の第7回公判では、山上被告の母親の証人尋問が行われ、山上被告が自殺未遂を起こした当時、自身は旧統一教会の本部がある韓国にいたと語った。
母親は「93年から94年に修練会で3回、うろ覚えだが行ったと思います」と述べた。修練会とは、旧統一教会の教義を学ぶための宿泊をともなう研修のことである。母親が参加した93年から94年の時期は、教団の活動が活発で、92年のソウルでの合同結婚式に女優の桜田淳子氏や元体操選手の山崎浩子氏が参加したことで話題となった。
教団は、政治的に強烈な反共産主義を掲げてきたが、91年に教祖・文鮮明氏が妻で現総裁の韓鶴子氏らをともない北朝鮮を訪問し、35億ドル(約4,400億円)という莫大な経済支援を約束するなど、方向性を変えつつある時期であった。反共から家庭尊重や世界平和を強調する路線への転換期でもあった。
現在、修練会は韓国ソウル近郊の清平で行われているが、93年当時は韓国の済州島で行われ、日本の女性信者を対象とした修練会が行われている。文鮮明氏は「16万人(延べ)の女性信者を参加させ、教育できるかどうかに、日本の救いがかかっている」と号令をかけ、何度も訪韓した人もいた。
教団の問題性を認識していた安倍氏
日本の政界においても、教団の政治工作が行われてきたことはこれまでも論じてきた。92年には、渡辺美智雄副首相兼外務大臣の元秘書で信者でもあった阿部令子氏の政治資金パーティーがホテルニューオータニ大阪で開かれ、参議院議員も務めた安西愛子氏が司会を担当。当時政治評論家だった高市早苗首相が挨拶を行っている。
高市首相と教団の関係は祖父・岸信介元首相、父・安倍晋太郎元外相、安倍晋三元首相と3代にわたって続いた関係とは異なり、「関係は薄かった」と教団関係者も証言しており、地元関係者も「教団関係者と接点をもたないようにしている」と語っている。だが、過去に間接的な接点があったとはいえるだろう。
この程度の接点はあまたとあると思われるが、山上被告が憎しみを募らせるほど教団との関係が深かった安倍元首相も、教団に対して問題意識をもっていたとされる。立憲民主党の参議院議員・有田芳生氏は以前、当社の取材に対し「安倍さんは教団との関係をもたないようにしてきた時期がある」と語っていた。
安倍元首相が小泉政権で官房長官を務めていた06年に福岡や広島で行われた教団関連団体の集会に祝電を送っていたことが発覚し、安倍氏はメッセージを送った秘書を叱責していた。当時、霊感商法や北朝鮮との関係などから公安当局は教団を警戒していた。安倍氏自身、問題を認識していたため、祝電が“支持”と受け取られることを懸念したとみられる。
それでは、なぜ安倍氏はその後、教団との距離を縮めていくことになったのか。次回はその点を掘り下げるとともに、「日本を取り戻す」「日本人ファースト」といった保守政治のスローガンと、旧統一教会が掲げる思想との矛盾について考察する。
【近藤将勝】








