日豪2プラス2は何を狙っているのか?

 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、9月5日付の記事を紹介する。

 このところ、世界では対立や戦争が収まりません。9月3日、北京で行われた大規模な軍事パレードを見ても、アメリカに対抗する中国の「軍事強国化」の狙いがひしひしと感じられました。欧米からは中国脅威論が頻繁に聞かれます。日本においても「台湾有事」についての議論が盛んになってきました。

 そんな中、オーストラリアは日本との間での安全保障戦略を相互に強化したいと強く希望するようになっています。中国の存在が両国共通の安全保障上の課題であると認識しているからです。

 オーストラリアは首相が訪中するなど、中国との経済関係を重視していますが、安全保障面では中国の動きに警戒を強めています。その点、両国は共通の問題を抱えていると言えます。

 実は、オーストラリアが保有するフリゲート艦は速度が遅い上に、ミサイルの搭載数が少なく、無人機への攻撃の対応が不十分であり、残念ながら「老朽化」が甚だしい状況です。これまでアメリカから主に防衛装備品を調達していましたが、欧米諸国の生産能力が低下しているため、アメリカ以外の供給先の確保が緊急課題となってきたわけです。

 オーストラリアは2年前の「国防戦略見直し」において、「第2次世界大戦後、最も厳しい安全保障環境にあるため、オーストラリア軍の抜本的な強化の必要性」を明示しました。昨年には「国家防衛戦略」をまとめ、「抑止のための拒否戦略」を掲げ、その一環として老朽化するフリゲート艦を新世代のものに交換する計画を打ち出したほど。2029年以降、11隻を国際共同開発で導入するとし、3隻は国外で製造し、残り8隻は国内で製造するとしています。その共同開発相手国に日本が選定されたわけです。

 これまでオーストラリアと日本は両国や周辺地域に影響を及ぼすような緊急事態の際に、協議の上、対応措置を検討する安全保障協力に関する共同宣言にも署名。その後、オーストラリア軍と自衛隊が相互に部隊の派遣をしやすくするための「日豪円滑化協定」も発効。昨年だけで、共同訓練を39回実施しています。

 アメリカ軍も加えての「武士道防衛訓練」も実施。日本は反撃能力を高める上で活用を想定する巡行ミサイルをオーストラリアとの間で相互運用する方針です。そうした取り組みが評価され、日本の新型フリゲート艦がオーストラリアに導入されることが決まったわけです。

もがみ型(護衛艦のしろ) イメージ    マールズ国防相は「もがみ型はオーストラリアにとって最高の艦艇だ」と述べ、ステルス性やミサイル能力に加え、一般的護衛艦の半数の90人の乗員で運用できることも決め手となったと期待を表明。100億オーストラリアドル(日本円で9500億円)の事業で、正式な契約が結ばれれば日本にとって過去最大の防衛装備品の輸出になります。

 日本の野党からは「武器輸出に歯止めが利かなくなる」との批判も出ていますが、石破首相は「オーストラリア政府の決定を歓迎し、2026年初頭の契約締結に向けて官民一体となって取り組む」と積極的な姿勢を崩しません。

 そうした賛否両論が存在するため、9月5日からの日豪2プラス2では両国内の懐疑的な見方への対策についても協議されるものと思われます。

 昨年5月、フランス領ニューカレドニアで発生した暴動に際しては、オーストラリア政府が派遣した航空機に日本人も乗せてもらい危機を脱することができました。今回の2プラス2会合では両国政府は第3国で有事が発生した場合、自国民の退避について協力し合う覚書を交わす予定です。

 安全保障面での中国との関係については、両国とも共通の課題を抱えていますが、アメリカの一方的な関税措置については日本もオーストラリアも別の意味で危機感を共有しています。その観点でWTOの改革案を含め、アメリカの経済安保戦略に対する評価と対応策についても協議する方向です。日豪間の忌憚のない議論と情報交換に大いに期待したいと思います。


著者:浜田和幸
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