パランティアの真実──米国防諜報の中枢を握る企業の野望と思想(前)

(一社)アジア・インスティチュート
理事長 エマニュエル・パストリッチ

 パランティア・テクノロジーズは、CIA出資を受けて設立され、米軍や連邦政府の諜報・監視システムを支える企業だ。近年はイスラエルとの協力やAI技術の軍事利用で存在感を強め、米国防産業の勢力図を変える存在となっている。本稿では、同社の起源からCIAとの関係、国際的な活動、創業者ピーター・ティールとアレックス・カープの思想的背景に至るまで、パランティアが目指す情報支配の実像を描き出す。

パランティアとは何者か?

 パランティア・テクノロジーズ(Palantir Technologies Inc.、以下、パランティア)は2003年に米国で設立されたデータ解析企業だ。政府や軍、企業に向けて大量のデータを統合・解析するソフトウェアを提供し、代表的な製品に「ゴッサム」「ファウンドリー」がある。創業初期からCIAの投資部門In-Q-Telの支援を受け、諜報活動やテロ対策に深く関与してきた。本稿では、この企業が米国防・諜報にはたしてきた役割、イスラエルとの協力、そして創業者たちの思想的背景を整理し、その実像を明らかにする。

米国防の新興巨頭として台頭したパランティア

 パランティアは、米軍の諜報契約(ドローン関連では姉妹会社のAndurilを通じて)だけでなく、連邦政府、米国企業、そして世界中の企業における情報管理においても、急速に主要企業として台頭してきた。同社は、米国および世界における情報戦争の中心的存在であり、社会統制の手段として、米国におけるあらゆる情報の完全な支配の統合を目指している。その取り組みは、パランティアのAI技術「ラベンダー」をパレスチナ人の殺害に採用し、パランティアの事業に多額の資金援助を行っているイスラエルとの緊密な協力関係と相まって進んでいる。さらにパランティアは、アンドゥリル、オープンAIやオラクル(そして、程度は少ないが、Googleやマイクロソフトもパートナー)などのパートナーとともに、このような小規模な新会社では決して獲得できなかった国防総省からの契約を獲得し、ロッキード・マーティンなどをしのぐに至った。

連邦政府と軍事諜報機関の掌握を狙う野望

 パランティアは、連邦政府全体、ひいては軍事・諜報機関全体を掌握し、ボーイング、ロッキード・マーティン、レイセオンを追い出すという大きな野望を抱いている。その野望は、いくつかの仮定に基づいている。その仮定とは、情報の完全な管理、スーパーコンピューターの利用における革新、軍や連邦政府における武力行使の脅威の利用、金融上の優位性をもたらす通貨の創造プロセス(連邦準備制度や暗号通貨を通じて)との独自のつながりにある。AIを活用して世界に対する認識を変え、市民を混乱させ、その後、さまざまな刺激を時間をかけて与えることで、国民に特定の行動を促し、予測プログラムを用いて国民や個人が行う行動を予測し、将来の活動を予測できるようにする。

CIA出資から始まった、全米監視システムの構築

 パランティアは04年にCIAのベンチャーキャピタル部門であるIn-Q-Telから200万ドルの資金提供を受けて設立された。これはG・W・ブッシュ政権(01~09年)が公に中止を余儀なくされた「トータル・インフォメーション・アウェアネス」の民間継続プロジェクトであり、CIAのためにパランティアが開発したゴッサム・プラットフォームを通じて実現された。当初、CIAは数年間パランティアの唯一の顧客だった。パランティアはCIAの最も責任追及が困難な監視ツールの1つである。

 現在、パランティアは連邦政府向けに、AIシステムを通じて全米の市民を監視するシステムを構築する予定を立てている。社会保障、国税庁、移民局を統合した中央集権的なシステムを構築し、CIAが開発したゴッサムソフトウェアを用いて、人間の行動を追跡し、操作する仕組みを構築しようとしている。

心理戦と情報戦争の中心に立つパランティア

 このような活動を行うパランティアは、新たな形態のグローバルな情報戦争と心理戦を推進する中心に位置しており、手段を選ばない姿勢を示している。同社は連邦政府内で多くの命を奪い、FBIの大部分を掌握し、国防総省内の派閥と対立している。また、ICE(移民・関税執行局)による移民の逮捕・拘束のための情報提供の主要な役割をはたしている。ICEはパランティアが主導し、イスラエルとつながるほかのIT大手企業の支援を受けており、トランプ政権に報告する秘密の責任を負わない傭兵部隊のように機能している。パランティアはアメリカ人を逮捕し始め、現在では逮捕した人物の身元を明かす必要もなく、裁判で発言する機会も与えていない。

 パランティアは、9・11以降の数多くの諜報契約を通じて権力を獲得し、元副大統領のディック・チェイニーが設立した「トータル・インフォメーション・アウェアネス」プログラムを継続している。このプログラムは表面上は廃止されたものの、秘密裏に継続されている。

 パランティアの重要な点は、利益追求を目的とするほかのIT企業とは異なり、政治家として地位を確立したいという強い意志をもつ2人のリーダーが率いている点だ。彼らは独自のイデオロギーを推進しており、世界中の政府の運営方法を根本から変革する野心を抱えている。この野心は、Googleやマイクロソフト、アマゾンなどの主要な軍事情報請負業者にも見られないもので、そのため、周囲に自由な思考を持つ人物がほとんどいないため、とくに強力な存在となっている。

(つづく)


<PROFILE>
エマニュエル・パストリッチ

エマニュエル・パストリッチ博士1964年生まれ。アメリカ合衆国テネシー州ナッシュビル出身。イェール大学卒業、東京大学大学院修士課程修了(比較文学比較文化専攻)、ハーバード大学博士。イリノイ大学、ジョージワシントン大学、韓国・慶熙大学などで勤務。韓国で2007年にアジア・インスティチュートを創立(現・理事長)。20年の米大統領に無所属での立候補を宣言したほか、24年の選挙でも緑の党から立候補を試みた。23年に活動の拠点を東京に移し、アメリカ政治体制の変革や日米同盟の改革を訴えている。英語、日本語、韓国語、中国語での著書多数。近著に『沈没してゆくアメリカ号を彼岸から見て』(論創社)。

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