【読者投稿】半世紀前を思い出す

 NetIB-NEWSでは、読者のご意見を積極的に紹介し、議論の場を提供していきたい。
 今回は、「大型潮流発電の商用化を目指す九電みらいエナジー」についての読者のご意見を紹介する。

 9月10日の記事を読み、50年前の学生時代の記憶がよみがえった。発電工法は異なるが、半世紀前から海洋温度差発電の研究がなされていたことを思い出し、近々実用化されるという話も耳にした。元祖・上原春男助教授の研究だ。

 1977年、佐賀大学理工学部機械工学科を受験した当時、たまたま朝日新聞の「ひと」に登場していた上原春男助教授(当時)の海洋温度差発電の研究を知ったのがきっかけだった。その後、公私にわたりご指導をいただき、あれからほぼ半世紀を経て九州電力グループが別工法で事業化に取り組むことに深い感銘を覚える。

 ここで、海洋温度差発電の歴史的変遷を紹介する。佐賀大学における海洋温度差発電(OTEC)の研究は1970年代から始まり、約50年にわたって世界をリードする成果を上げてきた。以下にその変遷を簡潔にまとめる。

1973年:研究開始
 佐賀大学理工学部に赴任した上原春男助教授(後に教授)が、化石燃料の代替エネルギーとしてOTECに着目し、日本での研究を本格的に開始。同時期に米国でも研究が始まり、国際的な注目が集まった。

1981年:原理の確立
 フランスの物理学者ダルソンバールが1881年に提唱したOTECの原理を基に、上原氏が理論的基礎を構築。安定した温度差を利用する発電の可能性を追求した。

1986年:実用化に向けた実験開始
 佐賀大学理工学部附属海洋熱エネルギー変換実験施設を設立し、実用化に向けた実験を開始。初期の実証試験で技術的基盤を確立。

1994年:新システムの特別設備新設
 新たなOTECシステムの設備を導入し、効率向上や実用化に向けた技術開発を加速。

2003年:海洋エネルギー研究センター設立
 佐賀県伊万里市に「伊万里サテライト」を建設。30kWの発電能力と日量10tの海水淡水化を組み合わせたハイブリッドシステムを導入し、世界最高性能のOTEC施設として注目を集めた。

2005年:上原サイクルの確立
 上原教授が退官し、池上康之教授が研究を引き継ぐ。独自の「上原サイクル」とプレート式熱交換器を開発し、低温での効率的な発電を実現。世界82カ国から研究者が視察に訪れた。

2013年:久米島での実証プラント稼働
 沖縄県久米島に100kW級OTEC実証プラントを設置し、沖縄電力の商用電力網に接続。海洋深層水の複合利用(養殖、空調、飲料水生産)を取り入れた「久米島モデル」を構築し、国際的な評価を得た。

2018年:マレーシアでの国際共同研究
 JSTとJICAのSATREPSプログラムで、マレーシア工科大学などと共同でハイブリッド海洋温度差発電(H-OTEC)の開発を開始。発電と海水淡水化を同時に実現するシステムを構築。

2021年:H-OTEC設備の完成
 H-OTECの実証設備が完成し、マレーシアへの輸出を予定。熱交換器の低コスト化や防汚対策を強化し、実用化を推進。

2025年:マレーシアでの実験施設開所
 マレーシア・ポートディクソンに「UPM-UTM OTEC Centre」を開所し、H-OTECの実証実験を本格化。国際的なSDGs達成に貢献。

現在と展望
 佐賀大学はOTECを核とした「久米島モデル」を国際展開し、小島嶼国(SIDS)でのエネルギー自給や離島保全を目指す。2023年にはOTEC研究50周年を迎え、国際貢献の新たなステージへ進む。温泉発電など他分野への応用も進展中で、事業化も間近と聞き楽しみにしている。

佐賀大学工学部卒OB 

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