建設業法改正

岡本弁護士
岡本弁護士

    2024年6月に可決され、今年6月以降に順次施行される改正建設業法は、建設業界が直面する構造的課題、すなわち「担い手不足」と「厳しい労働環境」にメスを入れ、「持続可能な建設業」の実現を目指すものです。昨年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制(本誌60号[2023年5月末発刊]で紹介)と合わせ、今回の改正は単なる努力目標ではなく、違反者には監督指導や勧告・公表といった実効性のある措置がともないます。そのため、事業者としてはその内容を理解し、具体的な対応を迫られます。

 改正法は、①処遇改善、②資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止、③働き方改革と生産性の向上、を大きな柱にしています。

1.「労務費の基準」導入が契約交渉と見積実務に与える影響

 今回の改正により、処遇改善のために、中央建設業審議会による「労務費の基準」(標準労務費)の作成・勧告制度が創設されます。これは、これまで不明確であった技能者の労務費の「相場観」を行政が示すことで、不当な買い叩きを防ぐことを目的としています。標準労務費に照らして、著しく低い労務費などによる見積の提出・変更依頼が禁止され、違反した受注者(建設業者)に対しては、国土交通大臣などから指導・監督が、違反した発注者に対しては国土交通大臣などから勧告・公表措置がなされることとなります。

 これを受けて受注者は、今後は標準労務費を参考に、労務費の内訳を明確にした見積書を作成することが不可欠となります。単なる総額提示ではなく、労務費が適正であることを客観的に示す姿勢が、発注者との交渉を有利に進めるカギとなります。また、発注者側でも前記の通り、著しく低い労務費での見積依頼や変更依頼は禁止され、勧告・公表の対象となりますので、受注者は不当な値引き要求に対して、法を盾に毅然と交渉することが可能になります。

2.「おそれ」の通知義務化と契約書の見直し

 資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止の観点から、改正法では、①資材高騰にともなう請負代金等の「変更方法」を契約書の法定記載事項として定めるとともに、②資材高騰などの「おそれ」を受注者が契約前に発注者へ通知することが義務化されました。この場合、実際に資材高騰が生じたときは、受注者から注文者に対して請負代金の変更協議を申し出ることができ、注文者は当該協議に誠実に応じるよう努めなければならないこととなります。

 受注者は見積書提出時などに、公的な統計資料やメディアの記事といった客観的な「根拠情報」を添えて、「おそれ」を通知する必要があります。この通知は、メールや書面など、後から証明できるかたちで記録を残しておくことが必要です。

3.「工期ダンピング」対策の強化

 長時間労働の温床となってきた「著しく短い工期」での契約締結が、注文者に禁止されるだけではなく、新たに受注者にも禁止されます。これは前記時間外労働の上限規制(月45時間・年360時間が原則)を遵守するための重要な措置です。

 また、前述の2.の請負代金の変更協議と同様に、資材の入手困難等の「おそれ」を、受注者から注文者に対して請負契約の締結までに通知することが義務となり、実際に資材の入手困難などが生じたときは、受注者から注文者に対して工期変更の協議を申し出ることができ、注文者は当該協議に誠実に応じるよう努めなければならないこととなります。

 今回の法改正は、業界の長年の慣行に大きな変革を迫るものです。事業者は、法改正を単なるコスト増や規制強化と捉えるのではなく、適正な利益を確保し、労働環境を改善して人材を確保・育成するための好機と捉えるべきです。


<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所

所在地:福岡市中央区天神3-3-5 天神大産ビル6F
TEL:092-718-1580
URL: https://okamoto-law.com/


<プロフィール>
岡本成史
(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

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