築250年超の古民家再生 三井不と三井Hが低コストで耐震強化

 三井不動産(株)(東証プライム)と三井ホーム(株)(東京都江東区)は、東京・世田谷にある江戸時代後期に建築された古民家の再生に取り組んだ。築250年超の「旧用賀名主邸」(所在地:東京都世田谷区上用賀3-11-3)は、当時の意匠を残すため、解体箇所を極力減らしつつ制震オイルダンパーを組み込むことで、コストを抑えながら、古民家を現代の耐震性能に引き上げた。建物オーナーである飯田浩一氏は「安心して使えるようになり、次世代に継いでいくことができる」とし、今回の取り組みに満足していると語った。三井不動産は、コンサルティング提案の1つとして、歴史的に価値のある古民家再生の新たなモデルケースになると期待している。

柱に穴を空けて「通し貫」と呼ばれる木材を
水平に貫通させ、くさびで固定する伝統的な
「貫工法」をそのまま残した。なお、「貫工法」は
大阪・関西万博の大屋根リングでも使用されている

現代の耐震基準に対応

 「旧用賀名主邸」は、築250年超の木造平屋建住宅で、間取りは4SLK、延床面積は約220m2。改修工事は2025年3月に着工し、7月に竣工した。今回の取り組みは、日本の貴重な住文化を体現する古民家を、伝統的な意匠を最大限維持しながら、「Hiダイナミック制震工法」により高い安全性を持つ建物へと再生した実例と位置付ける。この制震工法は、基礎のない建物にも適用でき、低コストで古民家の耐震改修工事を行うことができる。

 三井ホームによると、建物のインスペクション(検査)を行った際に、耐震評点が0.3程度と、現行の建築基準法のレベルと比較してかなり低い耐震性能だった。耐震化の手法としては金物による補強や耐力壁の設置が考えられていたが、構造材に丸太が使われていたため、金物による補強ができないことがわかった。そこで今回は5カ所に制震オイルダンパーを設置し、既存の床や天井、縁側などの特徴的な意匠を最大限保存した状態で、耐震性能を向上させることを可能にした。

築250年以上の住宅の耐震性を向上させるために導入した制震オイルダンパー(提供=三井不動産)
築250年以上の住宅の耐震性を向上させるために
導入した制震オイルダンパー(提供=三井不動産)

 日本家屋における伝統的構法である柔構造の特性上、従来の重い瓦屋根では地震時に建物が揺れやすくなるため、屋根材を日本瓦から軽い金属素材へ葺き替えた。これにより、屋根の総重量が24tから1.5tと約16分の1に抑えられ、建物全体の軽量化を図った。この結果、現行の建築基準法と同レベルとなる耐震評点1.0以上に向上させた。

 今回の取り組みは、三井不動産レッツ資産活用部が、同物件のオーナーから所有不動産に関する多岐にわたる相談を受けたことがきっかけだったという。三井不動産によれば、約1年前にオーナーから老朽化した「旧用賀名主邸」の扱いについて相談を受けていた。

 レッツは、三井不動産による資産経営コンサルティングサービス。同社のコンサルタントがグループ各社や各種専門家と連携し、土地活用・相続対策・老朽化不動産対策などに対応している。「所有する古民家を最大限残しながら、安全な状態で次代へ残す」というオーナーの願いを受けて、耐震改修工事を実施することを決定。三井不動産レッツ資産活用部が総合計画、三井ホームが設計・施工を行った。

地域で使うことも視野

 三井不動産はオーナーの飯田氏から、約25年以上前より土地の活用についての相談を受けていた。飯田氏は、独立して会社経営を始めたのを機に先祖から受け継いだ土地の有効活用を考えていた。

 オーナーの飯田氏によると、「旧用賀名主邸」は2006年頃まで親や兄弟が住居として生活していたという。住居として使用しなくなってからは、ウェディングフォトや映画の撮影などで活用してきた。東日本大震災や風雨による雨漏りなどで、建物の劣化が目立ち、建物の耐久性に不安を生じるようになった。撮影などで比較的頻繁に使用していることから、専門業者による定期的な見回りや点検などを行ってきたが、負担も大きくなってきたため、かねてから付き合いがあった三井不動産に相談した。「旧用賀名主邸」は世田谷区の調査も入っており、文化財として保存することも検討したが、結果として耐震化して用賀の地で使い続けることとなった。

 今後の活用については、現時点では未定であり、飯田氏と三井不動産で検討していくという。今回の取り組みで耐震化されたため、飯田氏は「不安なく使うことができ、用途をいろいろと考えられるようになった。地域コミュニティで使ってもらうことの可能性の1つだ」という。

現代的な街並みの東急田園都市線・用賀駅周辺。ここから徒歩12分の閑静な住宅街の中に「旧用賀名主邸」はある
現代的な街並みの東急田園都市線・用賀駅周辺。ここから
徒歩12分の閑静な住宅街の中に「旧用賀名主邸」はある

<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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