日本化学メーカーによる対中投資が急速に増加 中米関税戦争のもとでトヨタが採用した「第三国サプライチェーン」

 低迷中の中国不動産業にあって、パナソニックのホームビジネスが好調。日本化学メーカーによる対中投資が大幅に増加したのはなぜか?

 不完全な統計ではあるが、過去一年間に、東レ、三菱化学、信越化学などの日本企業が中国化学産業に対し8件以上の投資を行っており、それぞれの投資額は米ドルで数千万ドルから数億ドルまで様々で、総投資額は人民元で約30億元を超える。業界アナリストは、日本が中国化学産業への投資を急増させたのは、両国の産業構造調整、中国市場の長期的な発展メリット、日本企業の多重戦略的配慮、および現在の市場機会など、複数の要因が重なった結果であると見ている。

 第一に、中国の化学産業の急速な発展が顕著であるが、とくにダブルカーボン(カーボンピークアウトと力十ボンニュートラル)目標とグリーン技術分野の発展は、まさに日本の化学産業の強みであり、中国市場と補完関係にある。

 第二に、中国化学市場の需要構造が劇的に変化しており、たとえば新エネルギー革命による新素材の更新需要、消費アップグレードとハイエンド製造業による機能性新素材の需要は、技術優位性を持つ日本の化学メーカーにとって貴重な市場機会を提供している。三菱などの企業は中国で大量の新エネ分野に関連する投資を行っている。三菱化学、出光興産などの企業は、中国の高性能プラスチック、難燃材料にも多くの投資を行っている。

 第三に、日本の化学メーカーは国内市場の飽和と技術過剰の圧力に直面しており、日本の海外への技術輸出もますます増え、中国はそのハイテク技術の商業化の試験場の1つとなっている。たとえば旭化成はGG10戦略における水素エネルギー、エネルギー貯蔵技術を優先的に中国で展開している。

 第四に、中国は規模の優位性を、日本は一部の核心技術の優位性をもち、両者の協力はある程において産業チェーンの一体化と深度のネスティング(入れ子構造)を実現できる。たとえば日本企業の炭素繊維技術と中国の風力発電ブレード企業との協力により、製品強度をグローバルな最先端レベルに引き上げ、中国の新エネ分野の発展を支援すると同時に、技術展開も推進している。

「第三国サプライチェーン」モデルは、外資系企業の中国サプライチェーンにおける難題を解決できる

 日本政策投資銀行が8月初めに公表した2025年度設備投資計画調査によると、42.6%の日本の大型製造業企業が中国における事業規模を縮小するという意向は、過去最高を記録した。 業界では、「中米の関税紛争が日本企業の戦略転換の直接的原因」と見ている。調査によると、4割以上の企業が「サプライチェーンリスクの分散」を中国事業縮小の主な理由として明確に挙げている。たとえばセイコーエプソンは中米関税コスト上昇の懸念から、プロジェクター生産を中国からフィリピンに移し、ロボット生産ラインを日本に戻している。

 しかし、多くの日本企業にとって中国からの撤退は現実的ではない、と本研究院は考える。日本の自動車、化学、機械製造などの企業はすでに深くはまり込んだ現地サプライチェーンシステムをもっている。たとえばトヨタは中国に9つの独資会社と15の合弁会社を有し、一次サプライヤーだけでも800社以上、上流・下流企業は5000社以上におよぶ。双方がイノベーション協力、品質向上およびコスト管理において依然として相互補完関係を維持している。

 日本貿易振興機構(JETRO)の最新調査によると、中国の539社の日系自動車部品企業のうち、82.4%が利益を上げており、これは世界平均の75.3%を上回っている。もし中国から撤退すれば、日本自動車メーカーの中国サプライチェーン価値は大幅に低下し、日本自動車メーカーのグローバル競争力も大幅に弱まることになるだろう。

 このジレンマに直面して、トヨタは折衷案を模索している。それは「第三国サプライチェーン」モデルで、トヨタはタイのSummitGroupと中国企業の合弁を促し、東南アジアで低コストの自動車部品を生産してトヨタに供給させることで、電気自動車の生産コストを30%削減することを目指すというものだ。

 この戦略はすべての外資系企業にとって参考にする価値がある。中米両国以外の「第三国」で生産することで地政学的リスクを回避できる上、中国の部品のコストパフォーマンスという優位性と東南アジアの労働コストの優位性を組み合わせることができるからだ。

中国の不動産が低迷しているなか、パナソニックのホームビジネスが好調

 8月1日、パナソニックホームテクノロジー (杭州)有限公司(中国語名称‥松下家居科技 (杭州)有限公司)が正式に設立された。これはパナソニックが初めて中国に設立した独立運営の住宅設備会社である。

 中国の不動産市場は衰退が続き、住宅関連業界全体もそれにともない下落しているものの、同時に構造的チャンスも現れている、と本研究院は見ている。中国の多くの古い家屋がリフォームの時期を迎えており、新築住宅の購入時の内装工事とは異なり、これらの消費者は大部分が高齢で、比較的経済力を蓄え、高品質の住環境を追求する層である。日本でシェア第一位のブランドと技術的優位性をもつパナソニックの住宅ビジネスは、中国で市場成長展の黄金期を迎えている。

 業界では、パナソニックの住宅事業の全体収益規模は100億元(約2,000億円)に達すると見込まれている。2025年にはその住居関連事業規模が2024年の3倍、約2,242億円(約112億元人民幣)に達するとされる。

 家電から住宅・内装事業に進出したパナソニックの成功モデルは、中国の家電企業にも模倣され、近年、中国の実力のある大手家電メーカーが、続々と住宅・内装分野に参入している。たとえばMidea(美的)、ハイアール(海爾)、Rodam(老板電器)、Vatti(華帝)などがあり、なかでもハイアールは急成長しているが、中国におけるパナソニックホーム(松下家居)は今後、ますます多くの競合相手に直面することになるだろう。


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